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4、思い出の場所で
しおりを挟む私の聞き違いでは……一瞬、そう思ったけれど、間違いではなかった。
「急いでくれないか?」
早く行けよという顔で、私を見る。デイビッド様にとって私は、形だけの婚約者なのだと感じた。これは、確実におかしい。彼は、婚約者ではない女性とイチャイチャしているだけでなく、その女性の飲み物を私に取ってきて欲しいと言った。
「自分で取ってこい。エリアーナ嬢、行こう」
あまりのショックに、何も言うことが出来なかった私の手を引いて、シルバ様が会場の中へ連れていってくれた。去り際に彼が何か叫んでいたけれど、もう何も聞きたくなかった私の耳には届かなかった。
「……シルバ様、ありがとうございます」
あのままあそこに居たら、きっと涙が堪えきれなくなっていた。
「あんなの、気にするな。それと、そのドレス、似合ってる」
ぶっきらぼうな言い方だけど、シルバ様の優しさが伝わって来た。
シルバ様のせいで、最悪なタイミングでデイビッド様に会うことになったとか思って、ごめんなさい。
あまりお話したことはなかったけれど、シルバ様はデイビッド様から聞いていた印象とは違って、それほど無愛想な方ではないように思えた。
その日はそのまま、帰ることにした。
デイビッド様は、私よりもキルスティン様ばかりを優先している。というよりも、私は彼の目にも映っていないように思える。彼との婚約を、このまま続けることは出来そうにない。そう思った私は、もう一度だけデイビッド様に『お話があるので、お会いしたい』という手紙を書いた。婚約を解消するにしても、先ずは本人と話をしようと思ったからだ。だが一週間経っても、彼からの返事が来ることはなかった。
もう彼に歩み寄ることはない。
最後の機会も、彼からの返事はなかったのだから、次はシードル侯爵に話すしかない。
キルスティン様が現れるまでは、とても誠実で優しい方だった。どうしてあんな風に、変わってしまったのだろうか。
使用人に、デイビッド様への手紙をシードル侯爵邸に届けてもらった時、侯爵とお会いしたいと執事に伝言を頼んでもらった。明日が、侯爵から邸に来るように言われた日だった。
デイビッド様との婚約は、シードル侯爵とお父様が決めたことだ。それを解消したいと言ったら、素直に受け入れてくれるだろうか。
「ジョアンナ、行きたいところがあるのだけれど……」
結局、デイビッド様とは話すことが出来なかったのだから、最後に私の心にケジメをつけたかった。
昔、デイビッド様とアレン様とよく行った湖に、行ってみることにした。
湖に着くと、馬車が止まっていた。この馬車は、デイビッド様がよく使っている馬車だ。
「エリアーナ様、今日はお帰りになりますか?」
ジョアンナもそれに気付き、心配そうに私を見る。
「いいえ、直接お別れ出来る、ちょうどいい機会だと思う」
きっと、キルスティン様と一緒に居る。
この場所は、私達にとって思い出の場所で、大切な場所だったのに、彼女を連れて来たのだと知り、デイビッド様への気持ちは完全になくなっていた。
馬車を降り、ジョアンナと使用人のトロイに、一人にして欲しいと頼んだ。私の気持ちを優先してくれて、渋々だったけれど一人にしてくれた。少し歩くと湖が見えて来た。
桟橋の上には、デイビッド様の姿があり、彼に寄り添うようにキルスティン様が立っていた。
二人の後ろ姿が相思相愛に見えても、心を痛めることもなくなっていた。
別れを決意したからか、二人に平気で近付いていける。しっかりとした足取りで、二人に近付いて声をかけた。
「このような場所でお会いするなんて、奇遇ですね」
私の声に、振り返る二人。
私の姿を見たキルスティン様は、明らかに嫌そうな顔をした。
「何で居るんだ?」
驚いたようにそう言う、デイビッド様。そのセリフも、三度目だ。三度も聞くと、間抜けな言葉に思えて来る。
「デイビッド様の方こそ、なぜいらっしゃるのですか? 何度もお手紙を差し上げましたのに、一度もお返事をいただけませんでしたね」
「それは……」
口ごもるデイビッド様の隣で、キルスティン様が私を睨んでいる。私のことが嫌いなのだと、隠そうともしなくなっていた。
「この湖で、沢山遊んだのを覚えています。デイビッド様は、お魚を釣るのが下手でしたね。触れませんでしたし。今もお魚が苦手で、お肉料理ばかり好んで食べていますよね。知っていましたか? デイビッド様がお魚苦手だから、私までお肉派になったんですよ」
思い出すのは、楽しかった思い出ばかり。
私は何か、間違えてしまったのだろうか。今更、どいでもいいか……
「いきなり、なんなんですか!? ここへは、お義兄様と二人で来たので、邪魔しないでください!」
散々、邪魔していたのはキルスティン様の方なのに、どの口が言っているのだろうか。
「もう邪魔をすることはないので、安心してください。私達の婚約は、過去のことです。デイビッド様、お別れしましょう」
彼に見せる最後の笑顔を浮かべながら、まっすぐ目を見つめてそう告げた。思い出の場所で、デイビッド様に別れを告げることになるなんて、思ってもみなかった。けれど、ハッキリとそう告げることが出来て、私の気持ちはスッキリしていた。
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