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5、波乱
「な、何を言っているんだ!?」
驚いた表情を見せながら、デイビッド様は私の腕を掴んだ。正直、この反応は予想していなかった。だからといって、気持ちが揺らぐことはなかった。
その時……
「キルスティン!! お前、俺を騙しやがって!!」
怒声が、響き渡った。
見知らぬ男性が、剣を持ってこちらに走って来る。何が起きているのか分からないまま動けずにいると、男性はすぐ近くまで来ていた。
「お義兄様、私怖い!!」
キルスティン様は、デイビッド様を盾にするように後ろに隠れた。そして、デイビッド様は、掴んでいた私の腕を引き、私を盾にした……。
これが、彼の本性……
ゆっくり、ゆっくり、男性が私に向かって剣を振り下ろしてくる。ゆっくりだと感じるのは、私が死ぬからなのだろうか。
目をつぶり、デイビッド様に掴まれていない方の手で防御姿勢をとる。
「エリーーーーーッ!!!!」
なぜか、アレン様の声が聞こえて目を開けると、必死にこちらに走って来る彼の姿が見えた。アレン様の姿が見えたからか、デイビッド様の手が私の腕から外れる。盾にしていたところを、見られたくなかったのだろう。
剣が振り下ろされると、少しでも男性から離れようとしたキルスティン様が足を滑らせ、しがみついていたデイビッド様を道ずれに湖に落ちて行った。男性の振り下ろした剣は、私の手のひらを斬りつけ、そのまま顔の前で止まっていた。キルスティン様が湖に落ちたからか、私が彼のターゲットではなかったからか、それ以上斬りつけるのを躊躇っているように見えた。
そしてアレン様に気付くと、慌てて男性は逃げて行った。
「エリー!! 無事か!?」
アレン様は私の怪我を見て、真っ青になりながら、ハンカチを手のひらに巻いてくれた。
「ア……レン様、私は大丈夫です! デイビッド様とキルスティン様が湖に!!」
キルスティン様は分からないけれど、デイビッド様は泳げない。
ジョアンナと、使用人のトロイが私の元に走って来ているのを確認したアレン様は、上着を脱ぎ捨てて湖に飛び込んだ。
「エリアーナ様!? お怪我をされたのですか!?」
ジョアンナは泣きそうになりながら、斬られた手をジッと見つめる。
「少し斬られただけだから、大丈夫。それより、アレン様は……」
湖を覗き込むと、ザバンと音を立てて水面からキルスティン様が顔を出した。急いで怪我をしていない方の手を差し出すと、しっかりと掴んできた。ジョアンナとトロイと三人で、キルスティン様を引き上げた。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけると、キルスティン様は私を睨みつける。
「わざと私を落としたんでしょう!? 私を、殺す気だったんでしょう!?」
殺されかけたのは私なのに、彼女はどうしてそう自分中心にしか物事を考えられないのだろうか。
そもそも、あの男性の狙いはキルスティン様だった。
「あの男性を、ご存知ですよね?」
「し、知らないわ!」
明らかに動揺しながら、しらを切った。
「あの人が捕まれば、分かることです。今はそんなことよりも……」
まだアレン様とデイビッド様が、湖の中に居る。キルスティン様に構っている場合ではない。
急いで湖を覗き込むと、アレン様がデイビッド様を抱きかかえて浮かび上がって来た。
アレン様は急いでデイビッド様を湖から引き上げるけれど、デイビッド様は息をしていなかった。
「デイビッド! 戻って来い! 死ぬな!!」
懸命に、救命処置を施すアレン様。
「デイビッド様! 目を開けてください!!」
手を握り、彼の名前を呼び続ける。すると、
「……ゴホッ……ゴホッゴホッゴホッ……」
デイビッド様は水を吐き出し、息を吹き返した。
「良かった……本当に、良かった! デイビッド様、大丈夫ですか?」
目を開けたデイビッド様は、私達の顔を不思議そうに見ている。
「お義兄様!? デイビッドお義兄様!? ご無事ですか!?」
先程まで、自分のことしか考えていなかったキルスティン様は、デイビッド様が目を覚ました途端に、心配そうに駆け寄って来た。
あの男性が近付いて来た時、デイビッド様を盾にしたことを忘れているのだろうか。
「……デイビッド……?? それは、誰のことだ? 俺はいったい……誰なんだ??」
デイビッド様の発した言葉に、その場に居た全員が言葉を失った。
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