この二人の政略結婚に異議ある者は、今すぐ申し出よ。さもなくば永遠に沈黙せよ。

待鳥園子

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01 出会い

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 私の愛する人を初めて見た時を、今でも鮮やかに覚えている。

 とある午後に何気なく窓を覗き込んだ私は、帰りの馬車へ向かう背の高い男性の後ろ姿を見たのだ。まっすぐに伸びた背筋に優雅な足取り、遠くから見てもその容姿は際立って良かった。

 そして、何を思ったのか、馬車に乗る直前、彼は邸の方向を振り返って見た。

 三階の窓に居る私が見えた訳でもないだろうに、胸はどきんと高鳴り、握りしめた手のひらにはじわっと汗をかいていた。

 さらりとした黒髪が揺れた下には印象的な緑の眼差し、遠目で見ても整った容貌は見てとれたけれど、何故だか憂いのある雰囲気を漂わせていた。

 わからない。見蕩れていた私には。彼がどのくらい、名残惜しそうに、こちらを見て居たのか。

 五秒のことなのか、それとも、何分かのことなのか。まるで、永遠にも思えてしまったようで。

 ああ、あの人……私、すごく好き。ただ、それだけでそう思ったのだ。

 馬車はいつのまにか視界からいなくなり、あの男性が誰だか知りたくて、私が階段を駆け下りれば、玄関ホールには彼を見送ったらしい寄宿制の貴族学校から帰省をしていた兄ロバートが居た。

「……お兄様! さきほど帰られた方は、どなたなのです?」

 二つ年上で私と驚くほどに良く似ている兄ロバートは、慌てて階段を降りてきて息を荒げた妹を見て驚いた表情を見せていた。

 ふんわりとした茶色の癖毛に、優しい榛色の瞳。そして、どちらかというと可愛らしい童顔寄りの顔。私と兄は、どちらもおっとりとした母似なのだ。

「あ……ああ。シェリル。あれは、僕の先輩のノア・ウェインだ。寮では同室なので、仲良くさせてもらっている。評判の美青年だから、お前も目を奪われたのだろう」

 苦笑いをした兄は妹が見目の良い男性へ興味を持ったことを、すぐに察したらしい。

 兄が揶揄った通りなので、私はそれを否定出来なかった。

 少しだけ訂正するとすれば、目だけでなく心も奪われてしまった……ということだけど。

「……ノア・ウェイン様」

 胸に手を当てて彼の名前を噛みしめるようにして呟けば、ロバートは小さく息をついて肩竦めた。

「ウェイン伯爵の跡継ぎで、学校でも優秀な成績を収められている。性格も真面目な方で、学校でも人気者なんだ。ああ。シェリルの嫁ぎ先には、ちょうど良いかもしれないな……それは、父上もお祖父様も、同じように思われるだろう」

 この時、顎に手を当てた兄は何も意図せずにそう言った。彼にしてみれば、ただなんとなく、心に浮かんだ事実をそのまま口にしただけなのだろう。

 私の心には、兄の言葉が強烈に残り続けた。

ーーーーわたしのとつぎさきにはあのかれがちょうどいい。

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