この二人の政略結婚に異議ある者は、今すぐ申し出よ。さもなくば永遠に沈黙せよ。

待鳥園子

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06 天気の良い湖

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◇◆◇


「良い天気……」

 結局、あのまま眠れずに朝を迎えた私は、散歩をしたいと近くの公園にやって来た。

 ここは、ノアが好きな場所だ。私たち二人はお出かけする際には、ここで歩いてから食事に出かけるのが常だった。

 私はこれからどうしたいのだろう。今更、結婚を取りやめるなんて出来るはずもない。

 心地良い風が吹いて、私のスカートを揺らした。ふんわりとした素材で出来たドレスは着心地が良い。けれど、これは貴族令嬢が好むような装いなので、貴族夫人になれば慎むことになるだろう。

 私は公園の中にある湖を取り巻く小道を、ゆっくりと歩いていた。

 傍近くに寄り添うはずの護衛騎士には、離れてくれるように頼んだ。彼らは渋ったけれど、見晴らしの良い場所を歩くのであれば……と、特別に許してくれた。

 そして、ゆったりと歩く私は、目の前に信じられない光景があることを目にした。

 ……ノアが女性と親密そうに話している姿を、そこに見たからだ。

 ドクンッと胸が大きく高鳴った。ああ……ノアは、私のことを好きではない。好きではないから、もしかして、違う女性が既に……?

 そこで、ノアは不意に視線を向けた。何故だろう。彼を初めて見た時のことを思い出した。そうだ。彼はただ一瞥しただけで、私を恋に落とした。

 あの時のノアは私のことなんて、認識もしていなかったのに。

 ああ……私、いけない。政略結婚する相手なのよ。ここは、あら偶然ねと声をかけて、にっこり微笑んで通り過ぎなければ。

 愛人くらい、当然のこと。毅然として、貴族らしく振る舞うのよ。

 そうした方が良い事は、わかっていた。私たちは家の事情で結婚するのだから……だから、そうしなければ。

 そうしなければ、おかしい。

 頭では理解していたけれど、身体は別の反応を示した。くるりと身体を反転させて、元来た道を辿りはじめた。

 私は何も見ていない。何も見ていない。これから、結婚する相手が異性と会っていたことも、決して問い詰めたりなんて……してはいけない。

 だって、政略的な理由で結婚するノアは、私のことを愛していないのだから。

「……シェリル!」

 急に手を掴まれて私は驚いた。どうやら、会っていた彼女を置いて、ノアが私を追いかけてきたらしい。

 ああ……大丈夫なのかしら。私は本当に偶然にここに現れただけで、彼のことを尾けたわけでもない。それを、信じて貰えるかしら。

 こんな状況になっても、私はノアに誤解されて、嫌われることを恐れていた。

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