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05 土と魔法と温かいスープ
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リアムの許可を得た翌日から、セレスティナの挑戦が始まった。まずは温室の修繕だ。アンナと二人、力を合わせてガラクタを運び出し、蜘蛛の巣を払い、床を掃き清めた。割れたガラスの代わりに、古い布を張って風を防ぐ。決して立派なものではないが、何とか雨風をしのげる空間が出来上がった。
次はいよいよ、土作りだ。温室の中の土は、カチカチに凍りつき、痩せきっていた。セレスティナは前世の知識を思い出しながら、城の厨房から分けてもらった野菜くずや、森で拾い集めた落ち葉を混ぜ込み、土を耕していく。冷たい土を素手で触り、来る日も来る日も根気よく作業を続けた。
そんなある日のこと。いつものように土を両手ですくい上げ、その感触を確かめていると、セレスティナは不思議な現象に気がついた。彼女の手のひらから、ほんのりと温かい、柔らかな光が溢れ出し、土に吸い込まれていく。
「え……?」
驚いて手を離すと、光は消える。もう一度触れると、また淡い光が灯る。それはまるで、彼女自身の生命力が、土に分け与えられているかのようだった。
これが、私の中に眠る力……?
彼女自身も知らない、「豊穣の聖女」の力の片鱗が、無意識のうちに発現した瞬間だった。その日から、温室の土は目に見えて生命力を取り戻していった。凍てついていた土はふかふかと柔らかくなり、豊かな匂いを放ち始めたのだ。
「これなら、きっと大丈夫」
セレスティナは確信し、持参したわずかな種の中から、寒さに強いカブとジャガイモを選んで植えた。毎日毎日、愛情を込めて世話をする。彼女の聖なる力が込められた土は、その期待に応えるように、数日後には力強い緑の芽を吹かせた。
芽が出た日の感動は、忘れられない。セレスティナとアンナは、手を取り合って喜んだ。辺境の地で、自分たちの手で命を育むことができたのだ。
そして一月後。温室の中には、丸々と太った真っ白なカブと、ごろごろとしたジャガイモが、見事に実っていた。待ちに待った、初めての収穫だった。
「お嬢様、すごい……本当にできましたね!」
「ええ、アンナ。見て、こんなに美味しそうよ」
セレスティナは収穫したばかりの野菜を使い、厨房を借りてコトコトとスープを煮込んだ。干し肉から取った出汁に、甘いカブとほくほくのジャガイモ。味付けは塩だけだが、素材の旨味が溶け出したスープは、極上の香りを放っていた。
セレスティナは、そのスープを一つの器によそい、リアムの書斎へと運んだ。彼はいつものように、難しい顔で書類の山と格闘している。
「辺境伯様。初めて収穫した野菜で、スープを作りました。どうぞ、召し上がってください」
セレスティナが差し出した器を、リアムは一瞥しただけだった。
「いらん。毒見もされていないものを口にすると思うか」
「毒など入っておりません。もしご心配でしたら、わたくしが先にいただきましょう」
そう言って、セレスティナは同じ鍋からよそってきた自分の分のスープを、彼の目の前で一口飲んでみせた。温かいスープが、冷えた体にじんわりと染み渡る。
リアムは、黙ってその様子を見ていた。セレスティナの瞳は、どこまでも真っ直ぐで、一点の曇りもなかった。嘘や企みとは無縁の、真摯な光。
その瞳に何かを感じたのか、リアムはため息を一つついて、ゆっくりとスプーンを手に取った。
次はいよいよ、土作りだ。温室の中の土は、カチカチに凍りつき、痩せきっていた。セレスティナは前世の知識を思い出しながら、城の厨房から分けてもらった野菜くずや、森で拾い集めた落ち葉を混ぜ込み、土を耕していく。冷たい土を素手で触り、来る日も来る日も根気よく作業を続けた。
そんなある日のこと。いつものように土を両手ですくい上げ、その感触を確かめていると、セレスティナは不思議な現象に気がついた。彼女の手のひらから、ほんのりと温かい、柔らかな光が溢れ出し、土に吸い込まれていく。
「え……?」
驚いて手を離すと、光は消える。もう一度触れると、また淡い光が灯る。それはまるで、彼女自身の生命力が、土に分け与えられているかのようだった。
これが、私の中に眠る力……?
彼女自身も知らない、「豊穣の聖女」の力の片鱗が、無意識のうちに発現した瞬間だった。その日から、温室の土は目に見えて生命力を取り戻していった。凍てついていた土はふかふかと柔らかくなり、豊かな匂いを放ち始めたのだ。
「これなら、きっと大丈夫」
セレスティナは確信し、持参したわずかな種の中から、寒さに強いカブとジャガイモを選んで植えた。毎日毎日、愛情を込めて世話をする。彼女の聖なる力が込められた土は、その期待に応えるように、数日後には力強い緑の芽を吹かせた。
芽が出た日の感動は、忘れられない。セレスティナとアンナは、手を取り合って喜んだ。辺境の地で、自分たちの手で命を育むことができたのだ。
そして一月後。温室の中には、丸々と太った真っ白なカブと、ごろごろとしたジャガイモが、見事に実っていた。待ちに待った、初めての収穫だった。
「お嬢様、すごい……本当にできましたね!」
「ええ、アンナ。見て、こんなに美味しそうよ」
セレスティナは収穫したばかりの野菜を使い、厨房を借りてコトコトとスープを煮込んだ。干し肉から取った出汁に、甘いカブとほくほくのジャガイモ。味付けは塩だけだが、素材の旨味が溶け出したスープは、極上の香りを放っていた。
セレスティナは、そのスープを一つの器によそい、リアムの書斎へと運んだ。彼はいつものように、難しい顔で書類の山と格闘している。
「辺境伯様。初めて収穫した野菜で、スープを作りました。どうぞ、召し上がってください」
セレスティナが差し出した器を、リアムは一瞥しただけだった。
「いらん。毒見もされていないものを口にすると思うか」
「毒など入っておりません。もしご心配でしたら、わたくしが先にいただきましょう」
そう言って、セレスティナは同じ鍋からよそってきた自分の分のスープを、彼の目の前で一口飲んでみせた。温かいスープが、冷えた体にじんわりと染み渡る。
リアムは、黙ってその様子を見ていた。セレスティナの瞳は、どこまでも真っ直ぐで、一点の曇りもなかった。嘘や企みとは無縁の、真摯な光。
その瞳に何かを感じたのか、リアムはため息を一つついて、ゆっくりとスプーンを手に取った。
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