18 / 24
17 豊穣の聖女の覚醒
しおりを挟む
リアム率いる辺境の精鋭部隊に守られ、セレスティナを乗せた馬車は王都へと向けて疾走していた。道中は、すでに魔物の領域と化していた。大地はひび割れ、枯れた木々が墓標のように立ち並んでいる。時折、魔物の群れが彼らの行く手を阻もうと襲いかかってきた。
「敵襲! 陣形を組め! 奥様をお守りしろ!」
リアムの檄が飛ぶ。兵士たちは馬車を囲むように円陣を組み、襲い来る魔物を次々となぎ払っていく。彼らは辺境の厳しい環境で鍛え抜かれた猛者たちだ。しかし、魔物の数はあまりにも多い。倒しても、倒しても、次から次へと湧いてくる。
激しい戦闘の最中、一体の巨大な魔物が守りの薄い箇所を突破し、セレスティナの乗る馬車へと牙を剥いた。
「奥様!」
兵士の悲鳴が上がる。しかし、セレスティナは冷静だった。彼女は馬車から静かに降り立つと、迫りくる魔物の前に一人、毅然と立ちふさがった。
「セレスティナ! 危ない!」
リアムが叫ぶが、彼女は振り返らない。
セレスティナは、枯れた大地の上にそっと膝をつくと、両手を地面につけ、瞳を閉じた。そして、心からの祈りを捧げた。
(どうか、この大地に安らぎを。生きとし生けるものすべてを育む、母なる大地よ。わたくしに、あなたを癒やす力をください――!)
彼女の祈りに、大地が応えた。
セレスティナの体から、今までにないほど眩い、太陽のような黄金の光が溢れ出した。光は波紋のように広がり、彼女が触れる枯れた大地から、緑の芽が勢いよく吹き出していく。
そして、その力は防御の形をとった。
大地から無数の植物のツルが、まるで生きているかのように伸び上がり、魔物たちに襲いかかったのだ。ツルは魔物の体を瞬く間に縛り上げ、その動きを完全に封じ込めていく。さらに、ツルからは清らかな光が放たれ、それに触れた魔物は苦しみの声を上げながら浄化され、光の粒子となって消滅していった。
その光景は、あまりにも幻想的で、神々しかった。
兵士たちは戦うのも忘れ、呆然と目の前の奇跡を見つめていた。リアムもまた、愛する女性が秘めていた、想像を絶するほどの聖なる力に息を呑んだ。
彼女の力は、もはや温室で野菜を育てるレベルのものではない。大地そのものに命じ、自然を操り、邪悪を浄化する。人々を守るため、愛する人を守るために、彼女の中に眠っていた力は、完全に覚醒したのだ。
「豊穣の聖女」の、真の誕生の瞬間だった。
セレスティナが立ち上がると、周囲の魔物は一掃され、後には若草の匂いと、静寂だけが残されていた。
彼女は、自らの力に少しだけ驚きながらも、決意に満ちた顔でリアムを見つめた。
「行きましょう、リアム様。王都へ」
その姿は、気高く、美しい、救いの女神そのものだった。
「敵襲! 陣形を組め! 奥様をお守りしろ!」
リアムの檄が飛ぶ。兵士たちは馬車を囲むように円陣を組み、襲い来る魔物を次々となぎ払っていく。彼らは辺境の厳しい環境で鍛え抜かれた猛者たちだ。しかし、魔物の数はあまりにも多い。倒しても、倒しても、次から次へと湧いてくる。
激しい戦闘の最中、一体の巨大な魔物が守りの薄い箇所を突破し、セレスティナの乗る馬車へと牙を剥いた。
「奥様!」
兵士の悲鳴が上がる。しかし、セレスティナは冷静だった。彼女は馬車から静かに降り立つと、迫りくる魔物の前に一人、毅然と立ちふさがった。
「セレスティナ! 危ない!」
リアムが叫ぶが、彼女は振り返らない。
セレスティナは、枯れた大地の上にそっと膝をつくと、両手を地面につけ、瞳を閉じた。そして、心からの祈りを捧げた。
(どうか、この大地に安らぎを。生きとし生けるものすべてを育む、母なる大地よ。わたくしに、あなたを癒やす力をください――!)
彼女の祈りに、大地が応えた。
セレスティナの体から、今までにないほど眩い、太陽のような黄金の光が溢れ出した。光は波紋のように広がり、彼女が触れる枯れた大地から、緑の芽が勢いよく吹き出していく。
そして、その力は防御の形をとった。
大地から無数の植物のツルが、まるで生きているかのように伸び上がり、魔物たちに襲いかかったのだ。ツルは魔物の体を瞬く間に縛り上げ、その動きを完全に封じ込めていく。さらに、ツルからは清らかな光が放たれ、それに触れた魔物は苦しみの声を上げながら浄化され、光の粒子となって消滅していった。
その光景は、あまりにも幻想的で、神々しかった。
兵士たちは戦うのも忘れ、呆然と目の前の奇跡を見つめていた。リアムもまた、愛する女性が秘めていた、想像を絶するほどの聖なる力に息を呑んだ。
彼女の力は、もはや温室で野菜を育てるレベルのものではない。大地そのものに命じ、自然を操り、邪悪を浄化する。人々を守るため、愛する人を守るために、彼女の中に眠っていた力は、完全に覚醒したのだ。
「豊穣の聖女」の、真の誕生の瞬間だった。
セレスティナが立ち上がると、周囲の魔物は一掃され、後には若草の匂いと、静寂だけが残されていた。
彼女は、自らの力に少しだけ驚きながらも、決意に満ちた顔でリアムを見つめた。
「行きましょう、リアム様。王都へ」
その姿は、気高く、美しい、救いの女神そのものだった。
341
あなたにおすすめの小説
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】
聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。
「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」
甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!?
追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
悪役令嬢は断罪の舞台で笑う
由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。
しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。
聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。
だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。
追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。
冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。
そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。
暴かれる真実。崩壊する虚構。
“悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。
追放聖女ですが、辺境で愛されすぎて国ごと救ってしまいました』
鍛高譚
恋愛
婚約者である王太子から
「お前の力は不安定で使えない」と切り捨てられ、
聖女アニスは王都から追放された。
行き場を失った彼女を迎えたのは、
寡黙で誠実な辺境伯レオニール。
「ここでは、君の意思が最優先だ」
その一言に救われ、
アニスは初めて“自分のために生きる”日々を知っていく。
──だがその頃、王都では魔力が暴走し、魔物が溢れ出す最悪の事態に。
「アニスさえ戻れば国は救われる!」
手のひらを返した王太子と新聖女リリィは土下座で懇願するが……
「私はあなたがたの所有物ではありません」
アニスは冷静に突き放し、
自らの意思で国を救うために立ち上がる。
そして儀式の中で“真の聖女”として覚醒したアニスは、
暴走する魔力を鎮め、魔物を浄化し、国中に奇跡をもたらす。
暴走の原因を隠蔽していた王太子は失脚。
リリィは国外追放。
民衆はアニスを真の守護者として称える。
しかしアニスが選んだのは――
王都ではなく、静かで温かい辺境の地。
私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?
みおな
ファンタジー
私の妹は、聖女と呼ばれている。
妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。
聖女は一世代にひとりしか現れない。
だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。
「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」
あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら?
それに妹フロラリアはシスコンですわよ?
この国、滅びないとよろしいわね?
「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……
妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」
私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。
退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?
案の定、シャノーラはよく理解していなかった。
聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる