偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人

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16 決意の時

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 王都の惨状を伝える報せは、アランだけでなく、リアムとセレスティナにも衝撃を与えた。そして、事態はさらに深刻化していた。王都周辺に溢れ出した魔物の群れは、餌となる生命力を求めて、周辺地域へと拡散を始めていたのだ。その一部が、北の辺境を目指して進軍しているという、斥候からの緊急報告がもたらされた。

「魔物の群れが、三日後にはこの領地へ到達します!」

 城内に、緊張が走る。リアムはすぐに兵を集め、迎撃の準備を命じた。辺境の兵士たちは屈強だが、相手は数の知れない魔物の群れだ。厳しい戦いになることは間違いない。

「リアム様……」

 セレスティナは、地図を睨みながら険しい表情で指示を出すリアムの隣で、静かに口を開いた。彼女の瞳には、迷いのない、強い光が宿っていた。

「私が行きます」

 その言葉に、リアムは弾かれたように顔を上げた。

「何を言う。お前はここにいろ。俺が必ず守る」
「いいえ」

 セレスティナは、静かに首を振った。

「これは、もう辺境だけの問題ではありません。国全体が危機に瀕しています。そして、王都には、助けを待っている人々が大勢います。彼らを見捨てることはできません」

 彼女の力は、この辺境を豊かにした。しかし、それは同時に、国全体の生命力のバランスを崩す一因になったのかもしれない。リリアナが大地から力を搾取した一方で、セレスティナはこの地に力を与えすぎた。その歪みが、魔物を呼び寄せたのかもしれない。もしそうなら、事態を収拾する責任が自分にはある。

 そして何より、セレスティナは、この場所を愛していた。リアムを、この地で暮らす人々を、心から愛していた。

「愛するこの場所と、あなたを守るために、私が行かなければならないのです」

 セレスティナの揺るぎない覚悟を、リアムは痛いほど感じ取った。彼女はもはや、守られるだけのか弱い令嬢ではない。世界を救う力を持つ、強く気高い聖女なのだ。彼女の決意を、止めることはできない。

 リアムは、深く息を吸い込むと、彼女の肩を強く掴んだ。

「……分かった」

 そして、彼はセレスティナの瞳をまっすぐに見つめて言った。

「だが、一人では行かせん。どこへ行くにも、お前と共だ。お前の剣となり、盾となる」

 彼の言葉は、絶対的な信頼と愛情に満ちていた。セレスティナは、こくりと頷き、彼の手に自分の手を重ねた。

「はい、リアム様」

 決意は固まった。
 リアムは、精鋭の兵士たちを集め、王都へ向かう準備を始める。セレスティナもまた、自分のなすべきことを覚悟し、心を整えた。

 かつて追放された王都へ、今度は救い主として戻る。
 愛する人と、愛する場所を守るため。セレスティナの、人生を懸けた戦いが、今、始まろうとしていた。
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