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14話
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「リト殿……。もう、逃がしませんよ」
ある日の残業回避(定時五分前)の攻防戦。
魔導師団の廊下で、僕はついにゼノに追い詰められた。
逃げ道を塞ぐように伸ばされた彼の逞しい腕が、僕のすぐ横の石壁を強く叩く。
ドォン!!
鼓膜を震わせる大きな音。
これがいわゆる「壁ドン」というやつだ。
至近距離にあるゼノの顔は、恐ろしいほど整っていて、その眼差しには獲物を狙う猛獣のような熱が宿っている。
「ゼ、ゼノさん……?」
「気づいているはずだ。私の忍耐が、もう限界に近いことに。貴殿をこのまま連れ去り、誰の目も届かない場所で、そのすべてを私だけのものにしたい……。リト殿、貴殿はどう思っているのですか?」
ゼノの低い声が、僕の耳元で心地よく響く。
空気は震え、僕の心臓の鼓動も……。
「……ゼノさん。それより、大変です」
「……っ、ついに、告白してくれるのですか?」
ゼノが期待に満ちた顔で僕を見つめる。
僕は震える指先で、彼の腕のすぐ横を指差した。
「壁、ヒビ入ってますよ」
「…………はい?」
「見てください。今の『ドン』の衝撃で、王宮の歴史ある石壁に、蜘蛛の巣状の亀裂が……。あ、これ、修繕費いくらかかるんだろう。魔導師団の予算から引かれるのかな。それともゼノさんの自腹ですか?」
ゼノは固まったまま、自分が叩いた壁をゆっくりと振り返った。
そこには確かに、彼の聖騎士級の筋力が生み出した痛々しいヒビが入っていた。
「……リト殿。今、そんな話はしていません。私は貴殿への愛を――」
「いや、大事ですよ! 公共物損壊は始末書案件です。前世の会社だったら、備品を壊しただけで一時間は説教コースですよ。ああ、団長のエディさんに怒られる……!」
「私が直します! 私の魔力で、今すぐ分子レベルで結合させて元通りにしますから! だから、私の目を見てください!」
ゼノが必死に僕の肩を掴み、視線を合わせようとする。
だが、僕はすでに「始末書の書き方」を脳内でシミュレーションし始めていた。
「ゼノさん、離してください。早く左官ギルドか、土魔法の専門家に連絡しないと。あ、そうだ。このヒビ、放っておくと魔法回路の伝導率に悪影響が出るかも……。定時までに報告しなきゃ!」
「リト殿ぉぉぉ!! なぜ壁に負けるのですか、私の愛が!! 壁より私を心配してください!!」
ゼノの絶叫が廊下に虚しく響き渡る。
彼はその後、泣きながら土系魔法を駆使して、数時間かけて壁をピカピカに修復する羽目になった。
その横で、僕は「五時になったので、僕はこれで」と、ココを抱き上げて軽やかに帰路につく。
「……クゥーン(あの人、本当にタイミング悪いよね)」
「ねえ、ココ。ゼノさん、力があり余ってるなら、家の畑の耕しでも手伝ってくれればいいのに。壁を叩くなんてもったいないよね」
リトの言葉に、物陰で修復作業をしていたゼノの耳がピクリと動いた。
「(……畑? つまり、リト殿の家の家庭菜園を共に耕す……。それは実質、夫婦の共同作業……!?)」
ボロボロに傷ついていたはずのゼノが、一瞬で「キラキラモード」に復活し、鼻歌を歌いながら壁を磨き始めた。
彼のポジティブ変換機能は、今日も元気に暴走している。
一方のリトは、「これで明日は始末書を書かなくて済むぞ」と、手に入れた平穏な夜に満足して深い眠りにつくのだった。
ある日の残業回避(定時五分前)の攻防戦。
魔導師団の廊下で、僕はついにゼノに追い詰められた。
逃げ道を塞ぐように伸ばされた彼の逞しい腕が、僕のすぐ横の石壁を強く叩く。
ドォン!!
鼓膜を震わせる大きな音。
これがいわゆる「壁ドン」というやつだ。
至近距離にあるゼノの顔は、恐ろしいほど整っていて、その眼差しには獲物を狙う猛獣のような熱が宿っている。
「ゼ、ゼノさん……?」
「気づいているはずだ。私の忍耐が、もう限界に近いことに。貴殿をこのまま連れ去り、誰の目も届かない場所で、そのすべてを私だけのものにしたい……。リト殿、貴殿はどう思っているのですか?」
ゼノの低い声が、僕の耳元で心地よく響く。
空気は震え、僕の心臓の鼓動も……。
「……ゼノさん。それより、大変です」
「……っ、ついに、告白してくれるのですか?」
ゼノが期待に満ちた顔で僕を見つめる。
僕は震える指先で、彼の腕のすぐ横を指差した。
「壁、ヒビ入ってますよ」
「…………はい?」
「見てください。今の『ドン』の衝撃で、王宮の歴史ある石壁に、蜘蛛の巣状の亀裂が……。あ、これ、修繕費いくらかかるんだろう。魔導師団の予算から引かれるのかな。それともゼノさんの自腹ですか?」
ゼノは固まったまま、自分が叩いた壁をゆっくりと振り返った。
そこには確かに、彼の聖騎士級の筋力が生み出した痛々しいヒビが入っていた。
「……リト殿。今、そんな話はしていません。私は貴殿への愛を――」
「いや、大事ですよ! 公共物損壊は始末書案件です。前世の会社だったら、備品を壊しただけで一時間は説教コースですよ。ああ、団長のエディさんに怒られる……!」
「私が直します! 私の魔力で、今すぐ分子レベルで結合させて元通りにしますから! だから、私の目を見てください!」
ゼノが必死に僕の肩を掴み、視線を合わせようとする。
だが、僕はすでに「始末書の書き方」を脳内でシミュレーションし始めていた。
「ゼノさん、離してください。早く左官ギルドか、土魔法の専門家に連絡しないと。あ、そうだ。このヒビ、放っておくと魔法回路の伝導率に悪影響が出るかも……。定時までに報告しなきゃ!」
「リト殿ぉぉぉ!! なぜ壁に負けるのですか、私の愛が!! 壁より私を心配してください!!」
ゼノの絶叫が廊下に虚しく響き渡る。
彼はその後、泣きながら土系魔法を駆使して、数時間かけて壁をピカピカに修復する羽目になった。
その横で、僕は「五時になったので、僕はこれで」と、ココを抱き上げて軽やかに帰路につく。
「……クゥーン(あの人、本当にタイミング悪いよね)」
「ねえ、ココ。ゼノさん、力があり余ってるなら、家の畑の耕しでも手伝ってくれればいいのに。壁を叩くなんてもったいないよね」
リトの言葉に、物陰で修復作業をしていたゼノの耳がピクリと動いた。
「(……畑? つまり、リト殿の家の家庭菜園を共に耕す……。それは実質、夫婦の共同作業……!?)」
ボロボロに傷ついていたはずのゼノが、一瞬で「キラキラモード」に復活し、鼻歌を歌いながら壁を磨き始めた。
彼のポジティブ変換機能は、今日も元気に暴走している。
一方のリトは、「これで明日は始末書を書かなくて済むぞ」と、手に入れた平穏な夜に満足して深い眠りにつくのだった。
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