【完結】「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた

波依 沙枝

文字の大きさ
4 / 44

第三話

しおりを挟む
揺れる馬車の中で、

私はずっと、ばあやに抱きしめられていた。

そうでないと、

そうでないと、

私は、

壊れてしまいそうだった。

暗い。

何もない。

どこを見ても、

何もない。

ばあやの服を、

強く握る。

離したら、

このまま、

どこかへ落ちてしまいそうだった。

泣いていた。

声が枯れるほど。

喉が痛くなるほど。

それでも、

泣くことをやめられなかった。

「お嬢様……」

ばあやの声が、

すぐ近くで震えている。

その声だけが、

まだ世界に残っていた。

――どうすればいいのだろう。

ふと、

思った。

泣き叫んでも、

泣き叫んでも、

狂ったように叫んだところで、

光は、

戻ってこないのに。

分かってしまった。

もう、

戻らないのだと。

馬車は揺れ続ける。

どこへ向かっているのかも、

分からないまま。

私はただ、

ばあやの腕の中で、

小さく、

息をしていた。









━━━━━━━━

理解することは、救いにはならなかった。

むしろ、

理解してしまったからこそ、

私は逃げ場を失った。

本当に辛かったのは、

朝だった。

夢の中では、

見えていた。

光があった。

空があって、

風が揺らす木々があって、

ばあやの顔があって、

お母様が微笑んでいた。

世界が、

ちゃんとそこにあった。

――幸せだった。

けれど、

目を覚ますと、

何もない。

暗い。

どこまでも、

まっくら。

その瞬間、

思い出してしまう。

もう、

見えないのだと。

「ばあや!」

叫んだ。

「ばあや! ばあや! ばあや!!」

声が枯れても、

叫ぶことをやめられなかった。

ばあやは、

すぐに来てくれた。

抱きしめてくれた。

けれど、

それでも、

世界は戻らなかった。

何度も、

何度も、

同じ朝を迎えた。

何度も、

何度も、

私は――

絶望した。

ある朝、

ばあやが、耐えかねたように言った。

「……侯爵様も、酷いことをなさる」

その声は、

怒りと、

悲しみと、

どうすることもできない悔しさで震えていた。

私は、

反射的に答えていた。

「お父様は悪くないわ」

ばあやが、

息を呑む気配がした。

私は続けた。

「お父様は、悪くない」

そう、

悪くないのだ。

私の目が見えなくなった代わりに、

お母様の目が見えるようになったと聞いた。

お母様は、

ずっと落ち込んでいた。

光を失って、

笑わなくなってしまっていた。

だから――

良かった。

本当に、

良かった。

お母様が、

また、

世界を見ることができるのなら。

私の目など、

いくらでも、

差し出せる。

「……お嬢様」

ばあやの声が、

震えていた。

私は、

微笑もうとした。

ちゃんと、

大丈夫だと、

伝えなければいけないと思ったから。

「良かったのよ」

声は、

驚くほど、

静かだった。

その日から、

私は、

泣くことをやめた。

暗闇の中で、

ただ、

静かに生きていくことを選んだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました! ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて

碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。 美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。 第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。

処理中です...