3 / 44
第二話
ばあやに手を引かれ、
私は自室へと戻された。
扉が閉まる音がした。
「お嬢様」
ばあやの声が、すぐそばで聞こえる。
「包帯を、お外しいたしますね」
私は頷いた。
布がほどかれていく。
一重、
また一重。
光が、
戻ってくるはずだった。
いつものように、
天井が見えて、
窓が見えて、
ばあやの顔が見えるはずだった。
最後の布が、
外された。
私は、
目を開けた。
――何も、なかった。
暗い。
まっくら。
「……あ」
瞬きをする。
もう一度、瞬きをする。
変わらない。
「……ばあや?」
声が震える。
「暗いの……」
おかしい。
まだ目が慣れていないだけ。
そう思った。
「ばあや……どこ?」
手を伸ばす。
空を掴む。
何もない。
「ばあや……?」
胸が、
締め付けられる。
「見えないの……」
言葉にした瞬間、
それが現実になった。
「見えない……」
息が浅くなる。
「暗い……」
怖い。
怖い。
怖い。
「ばあや!!」
叫んだ。
「ばあや! ばあや! ばあや!!」
すぐに、
強く抱きしめられた。
「お嬢様!」
ばあやの声が、すぐ耳元で震えている。
「ばあやはここにおります! ここに!」
私は、ばあやの服を掴んだ。
離したら、
本当に、
何もなくなってしまう気がしたから。
「ばあや……見えない……」
声が、
子供のように震える。
「何も見えないの……」
ばあやは、
何も答えなかった。
ただ、
強く、
強く、
私を抱きしめていた。
「ばあや、私……もしかして目を閉じているのかしら?」
ばあやの服を掴んだまま、私は言った。
「ばあや、私の目は……ちゃんとあいてる?」
怖かった。
もし閉じているだけなら、
開ければいい。
それだけのはずだった。
「目を開けたいの……」
声が震える。
「ばあやの顔を見たいの……」
ばあやの手が、
私の髪を撫でる。
優しく。
何度も。
「どうしたら……目を開けれるの……?」
分からない。
どうして分からないのかも、
分からない。
「私……目の開け方を……忘れてしまった?」
その瞬間、
ばあやの腕に、
力が込められた。
壊れ物を守るように。
「大丈夫です」
ばあやが言った。
震えていた。
「ばあやはここにおります」
それだけを、
繰り返した。
私は、
ばあやの胸に顔を埋めた。
そこだけが、
まだ、
私を守ってくれる世界だった。
━━━━━━━━
騒ぎは、すぐに侯爵アルマン・モンテリオールの耳に入った。
「お嬢様が取り乱しておられます」
報告を受けたアルマンは、しばらく沈黙した。
そして、静かに言った。
「リシュアは眠っているな」
「はい。奥様はお休みになられております」
アルマンは頷いた。
「……余計なことを考えさせたくない」
その声に、迷いはなかった。
「セレスティアを南の領地へ送れ」
控えていた使用人が、息を呑む。
だが、誰も異を唱えることはできなかった。
「あそこは過ごしやすい。療養にはちょうどよい」
それは配慮の言葉のようでいて、
実際には、
切り離しの宣告だった。
アルマンは、娘の部屋へと足を向けた。
扉を開けると、
マルグリットに抱きしめられたままのセレスティアがいた。
その目は、
何も映していなかった。
空虚なまま、
ただ父の気配を感じ取り、
顔を上げる。
アルマンは、その姿を見下ろした。
しばらく、
何も言わなかった。
やがて、
口を開いた。
「……よくやった」
その言葉に、
娘がわずかに息を呑む。
アルマンは続けた。
「南の領地は過ごしやすい」
感情のない声だった。
「少し、休んできなさい」
それは、
褒賞のようでいて、
追放だった。
私は自室へと戻された。
扉が閉まる音がした。
「お嬢様」
ばあやの声が、すぐそばで聞こえる。
「包帯を、お外しいたしますね」
私は頷いた。
布がほどかれていく。
一重、
また一重。
光が、
戻ってくるはずだった。
いつものように、
天井が見えて、
窓が見えて、
ばあやの顔が見えるはずだった。
最後の布が、
外された。
私は、
目を開けた。
――何も、なかった。
暗い。
まっくら。
「……あ」
瞬きをする。
もう一度、瞬きをする。
変わらない。
「……ばあや?」
声が震える。
「暗いの……」
おかしい。
まだ目が慣れていないだけ。
そう思った。
「ばあや……どこ?」
手を伸ばす。
空を掴む。
何もない。
「ばあや……?」
胸が、
締め付けられる。
「見えないの……」
言葉にした瞬間、
それが現実になった。
「見えない……」
息が浅くなる。
「暗い……」
怖い。
怖い。
怖い。
「ばあや!!」
叫んだ。
「ばあや! ばあや! ばあや!!」
すぐに、
強く抱きしめられた。
「お嬢様!」
ばあやの声が、すぐ耳元で震えている。
「ばあやはここにおります! ここに!」
私は、ばあやの服を掴んだ。
離したら、
本当に、
何もなくなってしまう気がしたから。
「ばあや……見えない……」
声が、
子供のように震える。
「何も見えないの……」
ばあやは、
何も答えなかった。
ただ、
強く、
強く、
私を抱きしめていた。
「ばあや、私……もしかして目を閉じているのかしら?」
ばあやの服を掴んだまま、私は言った。
「ばあや、私の目は……ちゃんとあいてる?」
怖かった。
もし閉じているだけなら、
開ければいい。
それだけのはずだった。
「目を開けたいの……」
声が震える。
「ばあやの顔を見たいの……」
ばあやの手が、
私の髪を撫でる。
優しく。
何度も。
「どうしたら……目を開けれるの……?」
分からない。
どうして分からないのかも、
分からない。
「私……目の開け方を……忘れてしまった?」
その瞬間、
ばあやの腕に、
力が込められた。
壊れ物を守るように。
「大丈夫です」
ばあやが言った。
震えていた。
「ばあやはここにおります」
それだけを、
繰り返した。
私は、
ばあやの胸に顔を埋めた。
そこだけが、
まだ、
私を守ってくれる世界だった。
━━━━━━━━
騒ぎは、すぐに侯爵アルマン・モンテリオールの耳に入った。
「お嬢様が取り乱しておられます」
報告を受けたアルマンは、しばらく沈黙した。
そして、静かに言った。
「リシュアは眠っているな」
「はい。奥様はお休みになられております」
アルマンは頷いた。
「……余計なことを考えさせたくない」
その声に、迷いはなかった。
「セレスティアを南の領地へ送れ」
控えていた使用人が、息を呑む。
だが、誰も異を唱えることはできなかった。
「あそこは過ごしやすい。療養にはちょうどよい」
それは配慮の言葉のようでいて、
実際には、
切り離しの宣告だった。
アルマンは、娘の部屋へと足を向けた。
扉を開けると、
マルグリットに抱きしめられたままのセレスティアがいた。
その目は、
何も映していなかった。
空虚なまま、
ただ父の気配を感じ取り、
顔を上げる。
アルマンは、その姿を見下ろした。
しばらく、
何も言わなかった。
やがて、
口を開いた。
「……よくやった」
その言葉に、
娘がわずかに息を呑む。
アルマンは続けた。
「南の領地は過ごしやすい」
感情のない声だった。
「少し、休んできなさい」
それは、
褒賞のようでいて、
追放だった。
あなたにおすすめの小説
性格が嫌いだと言われ婚約破棄をしました
クロユキ
恋愛
エリック・フィゼリ子息子爵とキャロル・ラシリア令嬢子爵は親同士で決めた婚約で、エリックは不満があった。
十五歳になって突然婚約者を決められエリックは不満だった。婚約者のキャロルは大人しい性格で目立たない彼女がイヤだった。十六歳になったエリックには付き合っている彼女が出来た。
我慢の限界に来たエリックはキャロルと婚約破棄をする事に決めた。
誤字脱字があります不定期ですがよろしくお願いします。
【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。
猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。
ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。
しかし、一年前。同じ場所での結婚式では――
見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。
「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」
確かに愛のない政略結婚だったけれど。
――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。
「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」
仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。
シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕!
――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。
※「小説家になろう」にも掲載。
※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。
彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。
さて、どうなりますでしょうか……
別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。
突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか?
自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。
私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。
それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。
7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。