12 / 120
学院編
02 星光る夜空の竜
しおりを挟む
大通りに沿って鉄の柱が間隔を置いて立っていて、柱に付いた硝子細工のような透明な箱に入った炎があかあかと燃えている。
夜の王都アケボノは街灯や酒屋の明かりできらめいていた。
先日までアサヒがいたフォーシスや貧民街は、夜は真っ暗で治安が悪く危険な場所だった。だがアケボノでは夜も明るく、女性や子供が道を歩いている。
火山の中腹にある都アケボノは街の中に段差があって、一番高い場所に王城がある。女王陛下がおわすという石造りの城は、夜中でも松明でライトアップされていて外観が見てとれた。
アサヒは大通りをのんびり歩いた。
「……ん?」
突然、耳元でキンという音が鳴った気がした。
立ち止まって耳を澄ませる。
刃物を打ち合わせる高い金属音が、遠くで響いている。
服の下でもぞもぞ動いたヤモリが襟元から顔を出す。
ヤモリは伺うように大通りから外れた暗い路地の方を向いた。
「行ってみるか」
相棒が気にする様子を見せたので、アサヒは何となく暗い路地に踏み込んだ。念のため、低く魔術の鍵詞を詠唱する。
「外なる大気、内なる魔力、鎮静し沈黙せよ。静影」
セイランに習った気配を消す魔術だ。
金色の炎と違い、こちらは詠唱無しでまだ使えない。
この魔術は気配を消すだけなので足音は消せない。忍び足と併用すれば完璧なのだが、今のアサヒにはそこまではできない。
だが、使わないよりかは、敵に見つかる可能性は減る。
なるべく足音を立てないように移動して、金属音の響いている場所に近付いた。物陰に隠れて様子を伺う。
はたして、そこでは刃を交える戦いが展開されていた。
戦っているのは二人の若い男女だった。
アサヒと同世代くらいの年齢だろうか。男の方は制服のような服を着て、穂先が三又に分かれた長大な槍を持っている。暗闇に映える深紅の髪と金色の瞳、狼のような鋭さと気品を併せもつ青年だ。
女性の方は黒一色の服装で黒い仮面をかぶって顔を隠している。身体の線の細さや腰の細さ、胸のふくらみで若い女性と判別できた。背丈はアサヒより少し低いくらいか。手に車輪のような円形の武器を持っている。
アサヒは初めて見るのだが、それは天輪というブーメランのように投げて使用する武器だった。
「っ!?」
男が槍を振るうと、穂先から深紅の炎が飛ぶ。
避けきれなかった女性の顔の横を炎が通り過ぎ、女性の仮面がはらりと焼け落ちた。仮面の下から現れたのは、涼やかな月長石の瞳と薄いピンクの唇。形の良い顔の脇を蜂蜜色の髪が流れ落ちる。
「……ほう」
槍を持った男が感嘆の声を上げた。
「見覚えがあると思ったら、貴様はユエリか。アントリアからの留学生というのは偽りか? アウリガから来た暗殺者だったとは」
「くっ」
女性は焦った様子だ。
どうも男の方が優勢らしい。
男の背後、夜空に深紅の翼を広げた竜が現れる。
屋根の上に窮屈そうにたたずむ巨大な竜は、男と同じ金色の瞳を持っていた。黒曜石で出来たような黒く鋭い角に、手足に鋭い鉤爪。竜があぎとを開くと、鱗と同じ紅蓮の炎がもれ出る。
「ここで死ね。灰も残さぬくらい粉々に焼いてやろう」
竜は炎を吐き出そうとしていた。
見ていたアサヒは悩んだ。
放っておくと目の前で女性が竜の炎に焼かれて死ぬ。
でも、どちらかというと女性の方が怪しいんだよなあ。覆面に黒い忍び装束だし。
それに割り込むと面倒なことになりそうだ。
うーん。
「……決めた。綺麗な女の子は正義だよな」
基本は面倒ごとに関わらない主義のアサヒだったが、女性の高潔そうな強い意思を持った顔つきが気になった。
無詠唱で金色の炎を呼び出し、深紅の竜の頭にぶつける。
「っ、誰だ?!」
炎を吐き出す直前で深紅の竜は口を閉じる。
男の誰何の声に、アサヒは物陰から出た。
「通りすがりです。いきなり殺すとか、穏やかじゃないんじゃないか?」
ユエリと呼ばれた女性の驚いた顔と、厳しい男の視線がこちらに向く。
「酔狂な奴だ。通りすがりだと?」
「ああ」
「悪いことは言わない、黙って去れ。今なら見逃してやる。邪魔をするならお前も……」
男が手に持った槍を水平に掲げ、男の背後の竜が低く唸る。
アサヒは肩に乗ったヤモリを撫でた。
竜の姿になってくれ。
強くそう念じる。
肩から黄金の炎が立ち上ぼり、背中を守るように広がった。炎の中からヤモリが変身した竜が立ち上がる。
それは星光る夜空のような漆黒の鱗を持つ竜。
男の深紅の竜よりも一回り体躯は小さいが、威圧感では負けていない。黒いコウモリ型の翼は、普通の竜と違い二対四翼。アサヒと同じ色の紅玉の瞳の奥に金色の光がまたたいている。
竜の頭上には複数の金色の角が、まるで王冠のように輝いていた。
狭い路地にうずくまるように現れた黒竜を見上げ、男は目を見張った。
「竜騎士だと……それに、その竜の姿は……!?」
アサヒの竜を見た男はなぜか動揺して息を呑んだ。
夜の王都アケボノは街灯や酒屋の明かりできらめいていた。
先日までアサヒがいたフォーシスや貧民街は、夜は真っ暗で治安が悪く危険な場所だった。だがアケボノでは夜も明るく、女性や子供が道を歩いている。
火山の中腹にある都アケボノは街の中に段差があって、一番高い場所に王城がある。女王陛下がおわすという石造りの城は、夜中でも松明でライトアップされていて外観が見てとれた。
アサヒは大通りをのんびり歩いた。
「……ん?」
突然、耳元でキンという音が鳴った気がした。
立ち止まって耳を澄ませる。
刃物を打ち合わせる高い金属音が、遠くで響いている。
服の下でもぞもぞ動いたヤモリが襟元から顔を出す。
ヤモリは伺うように大通りから外れた暗い路地の方を向いた。
「行ってみるか」
相棒が気にする様子を見せたので、アサヒは何となく暗い路地に踏み込んだ。念のため、低く魔術の鍵詞を詠唱する。
「外なる大気、内なる魔力、鎮静し沈黙せよ。静影」
セイランに習った気配を消す魔術だ。
金色の炎と違い、こちらは詠唱無しでまだ使えない。
この魔術は気配を消すだけなので足音は消せない。忍び足と併用すれば完璧なのだが、今のアサヒにはそこまではできない。
だが、使わないよりかは、敵に見つかる可能性は減る。
なるべく足音を立てないように移動して、金属音の響いている場所に近付いた。物陰に隠れて様子を伺う。
はたして、そこでは刃を交える戦いが展開されていた。
戦っているのは二人の若い男女だった。
アサヒと同世代くらいの年齢だろうか。男の方は制服のような服を着て、穂先が三又に分かれた長大な槍を持っている。暗闇に映える深紅の髪と金色の瞳、狼のような鋭さと気品を併せもつ青年だ。
女性の方は黒一色の服装で黒い仮面をかぶって顔を隠している。身体の線の細さや腰の細さ、胸のふくらみで若い女性と判別できた。背丈はアサヒより少し低いくらいか。手に車輪のような円形の武器を持っている。
アサヒは初めて見るのだが、それは天輪というブーメランのように投げて使用する武器だった。
「っ!?」
男が槍を振るうと、穂先から深紅の炎が飛ぶ。
避けきれなかった女性の顔の横を炎が通り過ぎ、女性の仮面がはらりと焼け落ちた。仮面の下から現れたのは、涼やかな月長石の瞳と薄いピンクの唇。形の良い顔の脇を蜂蜜色の髪が流れ落ちる。
「……ほう」
槍を持った男が感嘆の声を上げた。
「見覚えがあると思ったら、貴様はユエリか。アントリアからの留学生というのは偽りか? アウリガから来た暗殺者だったとは」
「くっ」
女性は焦った様子だ。
どうも男の方が優勢らしい。
男の背後、夜空に深紅の翼を広げた竜が現れる。
屋根の上に窮屈そうにたたずむ巨大な竜は、男と同じ金色の瞳を持っていた。黒曜石で出来たような黒く鋭い角に、手足に鋭い鉤爪。竜があぎとを開くと、鱗と同じ紅蓮の炎がもれ出る。
「ここで死ね。灰も残さぬくらい粉々に焼いてやろう」
竜は炎を吐き出そうとしていた。
見ていたアサヒは悩んだ。
放っておくと目の前で女性が竜の炎に焼かれて死ぬ。
でも、どちらかというと女性の方が怪しいんだよなあ。覆面に黒い忍び装束だし。
それに割り込むと面倒なことになりそうだ。
うーん。
「……決めた。綺麗な女の子は正義だよな」
基本は面倒ごとに関わらない主義のアサヒだったが、女性の高潔そうな強い意思を持った顔つきが気になった。
無詠唱で金色の炎を呼び出し、深紅の竜の頭にぶつける。
「っ、誰だ?!」
炎を吐き出す直前で深紅の竜は口を閉じる。
男の誰何の声に、アサヒは物陰から出た。
「通りすがりです。いきなり殺すとか、穏やかじゃないんじゃないか?」
ユエリと呼ばれた女性の驚いた顔と、厳しい男の視線がこちらに向く。
「酔狂な奴だ。通りすがりだと?」
「ああ」
「悪いことは言わない、黙って去れ。今なら見逃してやる。邪魔をするならお前も……」
男が手に持った槍を水平に掲げ、男の背後の竜が低く唸る。
アサヒは肩に乗ったヤモリを撫でた。
竜の姿になってくれ。
強くそう念じる。
肩から黄金の炎が立ち上ぼり、背中を守るように広がった。炎の中からヤモリが変身した竜が立ち上がる。
それは星光る夜空のような漆黒の鱗を持つ竜。
男の深紅の竜よりも一回り体躯は小さいが、威圧感では負けていない。黒いコウモリ型の翼は、普通の竜と違い二対四翼。アサヒと同じ色の紅玉の瞳の奥に金色の光がまたたいている。
竜の頭上には複数の金色の角が、まるで王冠のように輝いていた。
狭い路地にうずくまるように現れた黒竜を見上げ、男は目を見張った。
「竜騎士だと……それに、その竜の姿は……!?」
アサヒの竜を見た男はなぜか動揺して息を呑んだ。
40
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる