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学院編
01 この世界は女王が標準らしい
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学院からの使いだという男はアサヒを見て顔をしかめた。
「孤児育ちの三等級など、行く末が知れていますな」
なんだこいつ。
無遠慮な視線にアサヒはむっとする。
保護者代わりのセイランが不機嫌になったアサヒをなだめるように、頭を軽くぽんぽんと叩いた。
「将来有望な子ですよ、この子は。どうぞよろしくお願いします」
「ふん」
鼻息荒く「付いてこい」と顎をしゃくる男。
フォーシスから王都アケボノまでは馬車と徒歩で行くらしい。学院までこの男と一緒かと思うと、アサヒは憂鬱になった。
火の島ピクシスの中央に位置する火山、その中腹にある王都はアケボノと言って、夜明けを意味するヤマト言葉だ。この世界の公用語は英語に似た言葉なのだが、各島に伝わる独自の古語があって、それがピクシスの場合はヤマト言葉。
主にお祝いの時に使う言葉で、子供の幸せを願ってヤマト言葉で名前を付ける習慣がある。アサヒの名前もヤマト言葉だ。
「お前は学院では三等級、テラのクラスに入ることになる」
「三等級……?」
「セイランから聞いていないのか。竜紋は力が強い竜ほど大きく複雑になる。竜紋の大きさと形によって竜騎士は3つの等級に分けられる。お前の貧相な竜紋なら三等級だ」
学院から来た男は丁寧に説明してくれた。
「学院に通えるのは貴族と竜騎士だけだ。貧民の身分で竜紋があった己の幸運に感謝するのだな」
「貴族が学院にいるの?」
「むしろ貴族ばかりだ。竜騎士は貴族の血筋に現れやすいからな」
孤児になってから、アサヒは貴族が貧しい人々を見下すことを知った。男の言葉や視線をようやく理解し始める。
差別かあ、下らないな。
「……なあ、この羊馬に餌やっていい?」
「私の話を聞いていたのか?! 馬に餌をやるなど下男の仕事だろう! これだから貧民の子供は……」
アサヒは早々に男から話を聞くのに飽きて、羊馬を撫でにいった。
馬車を引く馬は、どちらかというと山羊に似た動物で「羊馬」という動物だ。地球の馬とは全く違う生き物である。
短い灰色の毛並みに覆われた身体に、スマートな四本の脚、後ろにカーブした角。黒い目の瞳孔は横長になっている。
羊馬はアサヒの差し出した草をモシャモシャ食った。
「全く、女王陛下も竜騎士が必要だからって、何も貧民から探さなくても……」
言うことを聞かないアサヒに、男はぶつぶつ文句をこぼす。
そういえば。
アサヒはふと、女王という言葉を聞いて、この世界の政治が地球と違ってびっくりしたことを思い出す。
王と言えば、地球では男の王が一般的だった。
しかしこの世界では女王が標準なのだという。
国王と聞いて男じゃないの? と聞き返して呆れられた記憶がある。ちなみに女王が標準だからって、女性優位の文化かというとそうでもない。
また、島イコールひとつの国として扱う。
空に浮かぶ島の間は行き来が難しいので、自然と国の単位が島になってしまったようだ。
セイランは竜騎士の間だけで知られている、政治の実態について教えてくれた。
表向きの王は女王だが、大きな政治の決定権を持つのは、実は竜王らしい。女王は竜王に仕える巫女という立場なのだそうだ。
現在のピクシスは世継ぎの姫がさらわれて代理の女王が即位し、炎竜王は行方不明。女王も竜王も不在のピクシスは、重大な危機を迎えている。
セイランが「炎竜王を探せ」と言ったのは、つまりはそういうことだった。
しかし、炎竜王を探す、なんて面倒なことをアサヒはするつもりはない。三等級おおいに結構。竜騎士をドロップアウトして一般の仕事をする気満々である。
王都までの短い道中、羊馬はアサヒの心を癒してくれた。
だが火山の中腹にある王都は途中から徒歩で登山しなければならない。泣く泣く羊馬とはお別れになる。
「これ交通に不便ですよね。大量の食べ物とか運びたい時はどうするんですか?」
険しい山道を登りながらアサヒは男に聞く。
王都に入るのにこんな山道を登らなくてはならないなんて、物資の輸送や人の出入りが難しいのではないだろうか。
「馬鹿なことを。そのための竜騎士だろうが」
男から軽蔑の視線が飛んでくる。
竜で荷物を運ぶということか。
だったら俺はそっちの仕事でいいや。戦うとか面倒だし。
密かに将来の職業を勝手に決めたアサヒだった。
フォーシスから三日目の夕方、アサヒは山道を越えて王都アケボノに入った。
王都というだけあって人が多く、道の左右に商店が並んでいる。
男は物珍しげにキョロキョロするアサヒを宿屋に連れていった
「お前はこの宿屋で大人しく寝ていろ。明日、学院へ連れていく。いいか、夜、外を出歩くんじゃないぞ!」
男はそう言うと、王都に戻ってきて酒を飲みたくなったのか、夜はどこかに出ていってしまった。
くれぐれも宿から出るなと念押しされたアサヒは……ニヤリと笑った。
「出歩くなと言われたら、出歩きたくなるよな」
王都はどんなところなのか。
好奇心に突き動かされるまま、アサヒはこっそり宿を抜け出した。
「孤児育ちの三等級など、行く末が知れていますな」
なんだこいつ。
無遠慮な視線にアサヒはむっとする。
保護者代わりのセイランが不機嫌になったアサヒをなだめるように、頭を軽くぽんぽんと叩いた。
「将来有望な子ですよ、この子は。どうぞよろしくお願いします」
「ふん」
鼻息荒く「付いてこい」と顎をしゃくる男。
フォーシスから王都アケボノまでは馬車と徒歩で行くらしい。学院までこの男と一緒かと思うと、アサヒは憂鬱になった。
火の島ピクシスの中央に位置する火山、その中腹にある王都はアケボノと言って、夜明けを意味するヤマト言葉だ。この世界の公用語は英語に似た言葉なのだが、各島に伝わる独自の古語があって、それがピクシスの場合はヤマト言葉。
主にお祝いの時に使う言葉で、子供の幸せを願ってヤマト言葉で名前を付ける習慣がある。アサヒの名前もヤマト言葉だ。
「お前は学院では三等級、テラのクラスに入ることになる」
「三等級……?」
「セイランから聞いていないのか。竜紋は力が強い竜ほど大きく複雑になる。竜紋の大きさと形によって竜騎士は3つの等級に分けられる。お前の貧相な竜紋なら三等級だ」
学院から来た男は丁寧に説明してくれた。
「学院に通えるのは貴族と竜騎士だけだ。貧民の身分で竜紋があった己の幸運に感謝するのだな」
「貴族が学院にいるの?」
「むしろ貴族ばかりだ。竜騎士は貴族の血筋に現れやすいからな」
孤児になってから、アサヒは貴族が貧しい人々を見下すことを知った。男の言葉や視線をようやく理解し始める。
差別かあ、下らないな。
「……なあ、この羊馬に餌やっていい?」
「私の話を聞いていたのか?! 馬に餌をやるなど下男の仕事だろう! これだから貧民の子供は……」
アサヒは早々に男から話を聞くのに飽きて、羊馬を撫でにいった。
馬車を引く馬は、どちらかというと山羊に似た動物で「羊馬」という動物だ。地球の馬とは全く違う生き物である。
短い灰色の毛並みに覆われた身体に、スマートな四本の脚、後ろにカーブした角。黒い目の瞳孔は横長になっている。
羊馬はアサヒの差し出した草をモシャモシャ食った。
「全く、女王陛下も竜騎士が必要だからって、何も貧民から探さなくても……」
言うことを聞かないアサヒに、男はぶつぶつ文句をこぼす。
そういえば。
アサヒはふと、女王という言葉を聞いて、この世界の政治が地球と違ってびっくりしたことを思い出す。
王と言えば、地球では男の王が一般的だった。
しかしこの世界では女王が標準なのだという。
国王と聞いて男じゃないの? と聞き返して呆れられた記憶がある。ちなみに女王が標準だからって、女性優位の文化かというとそうでもない。
また、島イコールひとつの国として扱う。
空に浮かぶ島の間は行き来が難しいので、自然と国の単位が島になってしまったようだ。
セイランは竜騎士の間だけで知られている、政治の実態について教えてくれた。
表向きの王は女王だが、大きな政治の決定権を持つのは、実は竜王らしい。女王は竜王に仕える巫女という立場なのだそうだ。
現在のピクシスは世継ぎの姫がさらわれて代理の女王が即位し、炎竜王は行方不明。女王も竜王も不在のピクシスは、重大な危機を迎えている。
セイランが「炎竜王を探せ」と言ったのは、つまりはそういうことだった。
しかし、炎竜王を探す、なんて面倒なことをアサヒはするつもりはない。三等級おおいに結構。竜騎士をドロップアウトして一般の仕事をする気満々である。
王都までの短い道中、羊馬はアサヒの心を癒してくれた。
だが火山の中腹にある王都は途中から徒歩で登山しなければならない。泣く泣く羊馬とはお別れになる。
「これ交通に不便ですよね。大量の食べ物とか運びたい時はどうするんですか?」
険しい山道を登りながらアサヒは男に聞く。
王都に入るのにこんな山道を登らなくてはならないなんて、物資の輸送や人の出入りが難しいのではないだろうか。
「馬鹿なことを。そのための竜騎士だろうが」
男から軽蔑の視線が飛んでくる。
竜で荷物を運ぶということか。
だったら俺はそっちの仕事でいいや。戦うとか面倒だし。
密かに将来の職業を勝手に決めたアサヒだった。
フォーシスから三日目の夕方、アサヒは山道を越えて王都アケボノに入った。
王都というだけあって人が多く、道の左右に商店が並んでいる。
男は物珍しげにキョロキョロするアサヒを宿屋に連れていった
「お前はこの宿屋で大人しく寝ていろ。明日、学院へ連れていく。いいか、夜、外を出歩くんじゃないぞ!」
男はそう言うと、王都に戻ってきて酒を飲みたくなったのか、夜はどこかに出ていってしまった。
くれぐれも宿から出るなと念押しされたアサヒは……ニヤリと笑った。
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