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学院編
09 掘り出し物かもしれない剣
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学院に来てから、昼のアケボノの街を歩くのは初めてだ。
アサヒは興味深く街の風景を見渡した。
火山の中腹に位置するアケボノの街は、街の中に高低さが存在し、あちこちに階段がある。
その高低さを活かして山の湧き水を流す水路があり、道の側溝をちょろちょろと澄んだ水が流れていた。下水と上水は分かれていて、下水道は表に見えない場所にある。
街の建物は、岩を切り出した細かい石を組み合わせて作られている。壁も土台も石造り。庭や通り沿いに木々や草花が植わっているが背が低い。これは高山の植物の特徴だ。
忘れそうになるが、ここは空の上。
空飛ぶ島にアサヒ達は住んでいる。
雲が地面を走るのは、ここでは当たり前の光景だ。
雨は上空から降らず、雲が通った跡はびっしょり濡れるので、しいて言えばそれが雨かもしれない。雲には雲虫という生き物が住んでいて、子供達は雲虫を雲から追い出して遊んでいる。
気温は一年を通して暑くもなく寒くもなく、一定の温度を保っている。季節が無いので夏服や冬服はない。
「剣が買える店にあてがあるのか?」
「店というか……知り合いの鍛治の工房に直接行ってみようと思うんだ」
カズオミは大通りを外れて細い路地をどんどん進む。
途中で武器防具の店があったが通り過ぎた。
街の隅で、細い煙が上がっている家の裏庭に踏み込む。常時、火を起こしている工房があるからか付近の気温は高く、生温い空気になっている。
家主に断りも入れずに、勝手に裏口から屋内に入ったカズオミは、その部屋の壁を埋める棚に陳列されている武器を物色し始めた。
「お、おい、いいのか?」
「大丈夫だよ。後で言っておくから。あ、この剣なんてどう?」
素人目に見ても高価そうな剣が並んでいる。
アサヒは気おくれした。
「う、うーん」
剣が並んでいる棚の前で、ああでもないこうでもないと言っていると、突然、悲鳴が聞こえた。
「……なんだこいつはーーっ?!」
外からだ。
低い女性の慌てた声。
アサヒ達は顔を見合わせると外に出る。
声の方向へ向かうと、庭の隅で作業着を着た女性が立ち尽くしている。女性の目の前には、ガラクタを積み上げた山があった。
「あ、ヤモリ!」
「え?」
山の一角で動く小さな蜥蜴のような生き物。
いつの間にアサヒの身体から離れたのか、ヤモリはガラクタの山の上で石屑を探してはボリボリ美味そうに食っている。
「ちょ、お前! 今朝、餌の魔石をやったばっかりだろ! なんでこんなところで石を食うんだよ」
アサヒは石を食べるのに夢中になっているヤモリの尻尾をつかんで引き上げた。指先で逆さまになって揺れるヤモリ。
『……魔石よりも味わいがあってうまいそうだ』
カズオミの肩に乗った羽付きのイグアナ、もとい竜のゲルドが言う。
しゃべれたのか、と驚愕するアサヒだったが、考えてみれば竜なら話せるのは当然なのだ。ヤモリは人の言葉を話そうとしないが。
「ヤモリお前、話せるなら俺に言ってから離れろよ! びっくりするだろ!」
『……主とは以心伝心の仲なので、言葉は不要だそうだ』
「伝わってねーよっ!」
同じ竜のゲルドの通訳に、アサヒは盛大に文句を言った。
わざとなのか?!
今まで人の言葉を話さなかったのはわざとなのか?!
「……カズオミ、この赤い瞳のちょっと可愛い青年は誰なんだ」
「アサヒといって僕の学校の友達だよ、アヅミ姉さん。アサヒは意外と素直で繊細みたいだから、手を出さないでね」
「むう」
作業着の女性とカズオミが言葉をかわす。
女性はカズオミの姉らしい。ベリーショートの髪はカズオミと同じ栗色で、色気の無い作業用の灰色のつなぎ姿が様になっている。
台詞の中でひどいことを言われた気がするが、アサヒは聞き流した。なおもジタバタ、石を食べたそうなヤモリを肩に戻す。ヤモリはふてくされた様子で丸くなった。
「すいません、俺の竜が食べちゃって……食べられて困るものは無かったですか?」
「変わった姿の竜だな。ここにあるのは廃棄予定の失敗作ばかりだから、気にしなくていいよ」
ヤモリが食べていたのは、捨てられた武器や防具の欠片だった。作成途中のものや、刃が折れて粉々になったものが積み重なっている。
「姉さん、アサヒに剣をあげてほしいんだ。ちょうど手持ちの剣が折れちゃったんだよ」
「そうかそうか、美青年相手なら出世払いで特上の剣を用意してやろう」
アヅミというらしい工房の主は、弟の願いに快く頷く。
姉弟は屋内に戻ろうと歩きかけたが、アサヒが付いてこないのに気付いて振り返る。
「どうしたの、アサヒ?」
アサヒはガラクタの山にかがみこんで、山の中から剣を抜き出すところだった。
「この剣……」
汚れているが剣の形を保っている。白っぽい石でできた刀身は冷たく、中心が氷の結晶のように透き通っていた。
「ああ、それか。貴族の要望で透明な剣を作ることになって、水晶で剣を試作したんだ。普通の水晶だと耐久性がなくて実用に耐えないから、白水晶で作ってみたんだが……貴族は見た目が綺麗な方が良いらしい。白水晶で作った方は廃棄になったのさ」
「ちょっと重いですね」
「水晶で作ると重さがね。何とか鉄と同じくらい頑丈にはしたんだが……作るのが面倒な上に重くなるから一般向けじゃない」
アサヒはうっすら透明がかった白い剣に指を滑らせた。
なんとなく、使えそうな気がした。
「これ、もらっていいですか」
「捨てるつもりだったから別に良いが……」
「アサヒ、もっと他に上等な剣があるよ?」
「いや、これで良い」
いくら友人と言っても、カズオミに剣を買ってもらうことにアサヒは抵抗感を持っていた。変な借りを作りたくない。廃棄予定の剣をもらうくらいがちょうど良いのではないだろうか。
それに、白水晶の剣はアサヒが前から試してみたいと思っていた、あることを試すのにうってつけだった。
普通の剣にした方がいいと勧めるアヅミやカズオミだったが、アサヒの頑固な様子にあきらめる。
アヅミはサービスで剣を研いで、専用の鞘など備品を付けてくれた。
「正直言うとね、私は嬉しいんだよ。試作品とはいえ、一本一本、魂を込めて作ってるからね。この剣が君の役に立ったら作ったかいがある」
こうして、アサヒは廃棄予定だった白水晶の剣を無料で手に入れた。
アサヒは興味深く街の風景を見渡した。
火山の中腹に位置するアケボノの街は、街の中に高低さが存在し、あちこちに階段がある。
その高低さを活かして山の湧き水を流す水路があり、道の側溝をちょろちょろと澄んだ水が流れていた。下水と上水は分かれていて、下水道は表に見えない場所にある。
街の建物は、岩を切り出した細かい石を組み合わせて作られている。壁も土台も石造り。庭や通り沿いに木々や草花が植わっているが背が低い。これは高山の植物の特徴だ。
忘れそうになるが、ここは空の上。
空飛ぶ島にアサヒ達は住んでいる。
雲が地面を走るのは、ここでは当たり前の光景だ。
雨は上空から降らず、雲が通った跡はびっしょり濡れるので、しいて言えばそれが雨かもしれない。雲には雲虫という生き物が住んでいて、子供達は雲虫を雲から追い出して遊んでいる。
気温は一年を通して暑くもなく寒くもなく、一定の温度を保っている。季節が無いので夏服や冬服はない。
「剣が買える店にあてがあるのか?」
「店というか……知り合いの鍛治の工房に直接行ってみようと思うんだ」
カズオミは大通りを外れて細い路地をどんどん進む。
途中で武器防具の店があったが通り過ぎた。
街の隅で、細い煙が上がっている家の裏庭に踏み込む。常時、火を起こしている工房があるからか付近の気温は高く、生温い空気になっている。
家主に断りも入れずに、勝手に裏口から屋内に入ったカズオミは、その部屋の壁を埋める棚に陳列されている武器を物色し始めた。
「お、おい、いいのか?」
「大丈夫だよ。後で言っておくから。あ、この剣なんてどう?」
素人目に見ても高価そうな剣が並んでいる。
アサヒは気おくれした。
「う、うーん」
剣が並んでいる棚の前で、ああでもないこうでもないと言っていると、突然、悲鳴が聞こえた。
「……なんだこいつはーーっ?!」
外からだ。
低い女性の慌てた声。
アサヒ達は顔を見合わせると外に出る。
声の方向へ向かうと、庭の隅で作業着を着た女性が立ち尽くしている。女性の目の前には、ガラクタを積み上げた山があった。
「あ、ヤモリ!」
「え?」
山の一角で動く小さな蜥蜴のような生き物。
いつの間にアサヒの身体から離れたのか、ヤモリはガラクタの山の上で石屑を探してはボリボリ美味そうに食っている。
「ちょ、お前! 今朝、餌の魔石をやったばっかりだろ! なんでこんなところで石を食うんだよ」
アサヒは石を食べるのに夢中になっているヤモリの尻尾をつかんで引き上げた。指先で逆さまになって揺れるヤモリ。
『……魔石よりも味わいがあってうまいそうだ』
カズオミの肩に乗った羽付きのイグアナ、もとい竜のゲルドが言う。
しゃべれたのか、と驚愕するアサヒだったが、考えてみれば竜なら話せるのは当然なのだ。ヤモリは人の言葉を話そうとしないが。
「ヤモリお前、話せるなら俺に言ってから離れろよ! びっくりするだろ!」
『……主とは以心伝心の仲なので、言葉は不要だそうだ』
「伝わってねーよっ!」
同じ竜のゲルドの通訳に、アサヒは盛大に文句を言った。
わざとなのか?!
今まで人の言葉を話さなかったのはわざとなのか?!
「……カズオミ、この赤い瞳のちょっと可愛い青年は誰なんだ」
「アサヒといって僕の学校の友達だよ、アヅミ姉さん。アサヒは意外と素直で繊細みたいだから、手を出さないでね」
「むう」
作業着の女性とカズオミが言葉をかわす。
女性はカズオミの姉らしい。ベリーショートの髪はカズオミと同じ栗色で、色気の無い作業用の灰色のつなぎ姿が様になっている。
台詞の中でひどいことを言われた気がするが、アサヒは聞き流した。なおもジタバタ、石を食べたそうなヤモリを肩に戻す。ヤモリはふてくされた様子で丸くなった。
「すいません、俺の竜が食べちゃって……食べられて困るものは無かったですか?」
「変わった姿の竜だな。ここにあるのは廃棄予定の失敗作ばかりだから、気にしなくていいよ」
ヤモリが食べていたのは、捨てられた武器や防具の欠片だった。作成途中のものや、刃が折れて粉々になったものが積み重なっている。
「姉さん、アサヒに剣をあげてほしいんだ。ちょうど手持ちの剣が折れちゃったんだよ」
「そうかそうか、美青年相手なら出世払いで特上の剣を用意してやろう」
アヅミというらしい工房の主は、弟の願いに快く頷く。
姉弟は屋内に戻ろうと歩きかけたが、アサヒが付いてこないのに気付いて振り返る。
「どうしたの、アサヒ?」
アサヒはガラクタの山にかがみこんで、山の中から剣を抜き出すところだった。
「この剣……」
汚れているが剣の形を保っている。白っぽい石でできた刀身は冷たく、中心が氷の結晶のように透き通っていた。
「ああ、それか。貴族の要望で透明な剣を作ることになって、水晶で剣を試作したんだ。普通の水晶だと耐久性がなくて実用に耐えないから、白水晶で作ってみたんだが……貴族は見た目が綺麗な方が良いらしい。白水晶で作った方は廃棄になったのさ」
「ちょっと重いですね」
「水晶で作ると重さがね。何とか鉄と同じくらい頑丈にはしたんだが……作るのが面倒な上に重くなるから一般向けじゃない」
アサヒはうっすら透明がかった白い剣に指を滑らせた。
なんとなく、使えそうな気がした。
「これ、もらっていいですか」
「捨てるつもりだったから別に良いが……」
「アサヒ、もっと他に上等な剣があるよ?」
「いや、これで良い」
いくら友人と言っても、カズオミに剣を買ってもらうことにアサヒは抵抗感を持っていた。変な借りを作りたくない。廃棄予定の剣をもらうくらいがちょうど良いのではないだろうか。
それに、白水晶の剣はアサヒが前から試してみたいと思っていた、あることを試すのにうってつけだった。
普通の剣にした方がいいと勧めるアヅミやカズオミだったが、アサヒの頑固な様子にあきらめる。
アヅミはサービスで剣を研いで、専用の鞘など備品を付けてくれた。
「正直言うとね、私は嬉しいんだよ。試作品とはいえ、一本一本、魂を込めて作ってるからね。この剣が君の役に立ったら作ったかいがある」
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