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学院編
08 さすらいの旅に出たくなる
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修練場に現れたヒズミは一同をぐるりと見渡した。一等級の中でも特別な、王者然とした風格の彼の目線にさらされて教師も生徒も居心地の悪い気持ちになる。
「……授業には見えないが。何をやっている?」
沈黙が降りた。
真っ先に口を開いたのは、アサヒの対戦相手のくるりん眉毛だ。
「ヒズミ様! 俺はこの生意気な三等級をちょっとしつけてやってたんです」
「武術の授業中に、魔術を使って?」
「そ、それは……いや、仕掛けてきたのは、こいつです!」
くるりん眉毛は苦しそうに反論すると、アサヒを指差した。
皆の視線がアサヒに移る。
「……友人が怪我をしそうだったので、つい」
やましいところは何もない。
アサヒは飄々とした様子で言う。
その言葉を受けたヒズミの視線が二等級の生徒に戻る。
「ハルト・レイゼン。三等級相手に手加減しなかったのか」
「しました! ヒズミ様、俺の言うことより三等級の言うことを信じるんですか?!」
くるりん眉毛はハルトというらしい。
訴えを聞いたヒズミは、意外なことを言った。
「私はその場にいなかった。ゆえにお前の言葉が本当か分からん。真実はただ強者の言葉でのみ語られる。ハルト、お前はそこの三等級より強いか?」
「当然です!」
「ならばその証を立てろ。後日、その三等級と決闘をするのだ。勝った方の言葉が正しいということにしよう」
なんだって。
話の成り行きがおかしな方向に向かっている。
アサヒはできれば決闘など断りたいと思ったが、ここで断ると話がもっとややこしくなりそうだ。
黙っている内に話は決まってしまった。
ハルトが「分かりました!」と勝手に命令を受け、周囲の教師も生徒も止めない。
ことが決まるともう用が無いとばかり、ヒズミは足早に去っていった。
「命拾いしたな、三等級! 決闘は3日後だ。せいぜい無駄な努力をするがいい!」
ハルトこと、くるりん眉毛は偉そうにそう言い放つ。
場はおさまって授業は再開されたが、もう誰も授業内容に集中できなかった。あきらめた教師は短めに授業を切り上げた。
アサヒの入学最初の日はこうして波乱と共に終わったのだった。
寮に戻ってきたカズオミは頭を抱えた。
「アサヒ、君は初日から何をやってるんだ!」
「あー、問題起こすつもりはなかったんだけどな」
好きでトラブルにあってる訳じゃない。
これでもアサヒは平穏に過ごしたいと思っているのだ。おかしいな……色々間違えてしまっている気がする。
「君が剣術も魔術も結構使えるのは分かったけど、それだけで二等級には勝てないよ」
「そんなに等級で差が出るものなのか」
「差はあるよ。等級がひとつ違うだけで魔力が倍になるらしい」
竜騎士は普通の人間より魔力が高い。
魔力が高ければ、当然威力の大きな魔術をどんどん使える。身体能力も魔術で強化できる。そして、大きく複雑な竜紋は魔力が高い証であり、二等級以上の竜騎士は次元が違う。
「勝算はあるのかい?」
不安そうなカズオミに聞かれて、アサヒは持って帰ってきた自分の剣を鞘から抜いた。
「実は……」
「この剣がどうしたの?」
「よく見てくれ」
細身の両刃の剣の根元に走る裂け目。
「折れた、てか折れそう」
「は?」
「つまり全く勝算はない」
「はああ?!」
セイランにもらった剣は、今日一日でボロボロになっていた。
折れそうなほど傷んだ剣を持ったアサヒは冷静だ。
実は、この剣は安物だとセイランから聞いていた。
フォーシスを発つ数日前のこと。
安物の剣を渡されて、旅立つ愛弟子に渡す剣は普通は名剣だろうとセイランに文句を言ったところ「未熟な腕前の弟子に名剣を渡しても使いこなせないだろう。自分の剣は自分で探せ」と一蹴されたのだ。考えてみれば至極もっともな答えだ。
「正直、あいつと戦うのは面倒だ。決闘なんてボイコットすれば……」
「アサヒ。竜騎士の名誉をかけた決闘は、逃げたら処罰の対象になるんだよ」
「えー?! なんだよそれ。もう俺、竜に乗って島から島へさすらいの旅に出たいな。身分とか階級とか、堅苦しいものに縛られるのは嫌だ」
アサヒは不平を口に出した。
その肩の上ではヤモリが服の上に出て伸びをしている。
不平を聞いたカズオミは複雑な顔になった。
「気持ちは分かるよ。僕もどこか別の国や誰も知らない場所に行って、冒険できたらなと思うことがある」
「だったら」
「駄目だよアサヒ、ここは我慢するところだ。それと僕以外の人に、島を出たいとか言っちゃいけない。竜騎士は生まれた島を守るものなのに、って怒られてしまう」
昼間の武術の授業で、顔や身体にすり傷を作って痛々しいカズオミだったが口調は明るかった。
「明日の放課後、街に出て剣を買おう。費用は僕が出すよ」
「えっ、そんな……いいって」
「出させてくれ。僕は君の友人、なんだろ?」
カズオミは出会ってから初めて見る、打ち解けた笑顔を浮かべた。
「君はすごいよ、二等級相手にあんなに戦えるなんて! 明後日の決闘も、負けたとしても無様な負け方にはならないと思う。僕ら三等級でもやればできるって、あいつらに見せつけてやってくれないか」
決闘に出ずに逃げようかと思っていたアサヒだったが、カズオミにそう言われて、戦わざるをえなくなった。
翌日の午後、アサヒ達は教師に買い物に行くと許可をもらって、アケボノの街に、剣を探しに出た。
「……授業には見えないが。何をやっている?」
沈黙が降りた。
真っ先に口を開いたのは、アサヒの対戦相手のくるりん眉毛だ。
「ヒズミ様! 俺はこの生意気な三等級をちょっとしつけてやってたんです」
「武術の授業中に、魔術を使って?」
「そ、それは……いや、仕掛けてきたのは、こいつです!」
くるりん眉毛は苦しそうに反論すると、アサヒを指差した。
皆の視線がアサヒに移る。
「……友人が怪我をしそうだったので、つい」
やましいところは何もない。
アサヒは飄々とした様子で言う。
その言葉を受けたヒズミの視線が二等級の生徒に戻る。
「ハルト・レイゼン。三等級相手に手加減しなかったのか」
「しました! ヒズミ様、俺の言うことより三等級の言うことを信じるんですか?!」
くるりん眉毛はハルトというらしい。
訴えを聞いたヒズミは、意外なことを言った。
「私はその場にいなかった。ゆえにお前の言葉が本当か分からん。真実はただ強者の言葉でのみ語られる。ハルト、お前はそこの三等級より強いか?」
「当然です!」
「ならばその証を立てろ。後日、その三等級と決闘をするのだ。勝った方の言葉が正しいということにしよう」
なんだって。
話の成り行きがおかしな方向に向かっている。
アサヒはできれば決闘など断りたいと思ったが、ここで断ると話がもっとややこしくなりそうだ。
黙っている内に話は決まってしまった。
ハルトが「分かりました!」と勝手に命令を受け、周囲の教師も生徒も止めない。
ことが決まるともう用が無いとばかり、ヒズミは足早に去っていった。
「命拾いしたな、三等級! 決闘は3日後だ。せいぜい無駄な努力をするがいい!」
ハルトこと、くるりん眉毛は偉そうにそう言い放つ。
場はおさまって授業は再開されたが、もう誰も授業内容に集中できなかった。あきらめた教師は短めに授業を切り上げた。
アサヒの入学最初の日はこうして波乱と共に終わったのだった。
寮に戻ってきたカズオミは頭を抱えた。
「アサヒ、君は初日から何をやってるんだ!」
「あー、問題起こすつもりはなかったんだけどな」
好きでトラブルにあってる訳じゃない。
これでもアサヒは平穏に過ごしたいと思っているのだ。おかしいな……色々間違えてしまっている気がする。
「君が剣術も魔術も結構使えるのは分かったけど、それだけで二等級には勝てないよ」
「そんなに等級で差が出るものなのか」
「差はあるよ。等級がひとつ違うだけで魔力が倍になるらしい」
竜騎士は普通の人間より魔力が高い。
魔力が高ければ、当然威力の大きな魔術をどんどん使える。身体能力も魔術で強化できる。そして、大きく複雑な竜紋は魔力が高い証であり、二等級以上の竜騎士は次元が違う。
「勝算はあるのかい?」
不安そうなカズオミに聞かれて、アサヒは持って帰ってきた自分の剣を鞘から抜いた。
「実は……」
「この剣がどうしたの?」
「よく見てくれ」
細身の両刃の剣の根元に走る裂け目。
「折れた、てか折れそう」
「は?」
「つまり全く勝算はない」
「はああ?!」
セイランにもらった剣は、今日一日でボロボロになっていた。
折れそうなほど傷んだ剣を持ったアサヒは冷静だ。
実は、この剣は安物だとセイランから聞いていた。
フォーシスを発つ数日前のこと。
安物の剣を渡されて、旅立つ愛弟子に渡す剣は普通は名剣だろうとセイランに文句を言ったところ「未熟な腕前の弟子に名剣を渡しても使いこなせないだろう。自分の剣は自分で探せ」と一蹴されたのだ。考えてみれば至極もっともな答えだ。
「正直、あいつと戦うのは面倒だ。決闘なんてボイコットすれば……」
「アサヒ。竜騎士の名誉をかけた決闘は、逃げたら処罰の対象になるんだよ」
「えー?! なんだよそれ。もう俺、竜に乗って島から島へさすらいの旅に出たいな。身分とか階級とか、堅苦しいものに縛られるのは嫌だ」
アサヒは不平を口に出した。
その肩の上ではヤモリが服の上に出て伸びをしている。
不平を聞いたカズオミは複雑な顔になった。
「気持ちは分かるよ。僕もどこか別の国や誰も知らない場所に行って、冒険できたらなと思うことがある」
「だったら」
「駄目だよアサヒ、ここは我慢するところだ。それと僕以外の人に、島を出たいとか言っちゃいけない。竜騎士は生まれた島を守るものなのに、って怒られてしまう」
昼間の武術の授業で、顔や身体にすり傷を作って痛々しいカズオミだったが口調は明るかった。
「明日の放課後、街に出て剣を買おう。費用は僕が出すよ」
「えっ、そんな……いいって」
「出させてくれ。僕は君の友人、なんだろ?」
カズオミは出会ってから初めて見る、打ち解けた笑顔を浮かべた。
「君はすごいよ、二等級相手にあんなに戦えるなんて! 明後日の決闘も、負けたとしても無様な負け方にはならないと思う。僕ら三等級でもやればできるって、あいつらに見せつけてやってくれないか」
決闘に出ずに逃げようかと思っていたアサヒだったが、カズオミにそう言われて、戦わざるをえなくなった。
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