ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
19 / 120
学院編

09 掘り出し物かもしれない剣

しおりを挟む
 学院に来てから、昼のアケボノの街を歩くのは初めてだ。
 アサヒは興味深く街の風景を見渡した。

 火山の中腹に位置するアケボノの街は、街の中に高低さが存在し、あちこちに階段がある。
 その高低さを活かして山の湧き水を流す水路があり、道の側溝をちょろちょろと澄んだ水が流れていた。下水と上水は分かれていて、下水道は表に見えない場所にある。
 街の建物は、岩を切り出した細かい石を組み合わせて作られている。壁も土台も石造り。庭や通り沿いに木々や草花が植わっているが背が低い。これは高山の植物の特徴だ。

 忘れそうになるが、ここは空の上。
 空飛ぶ島にアサヒ達は住んでいる。

 雲が地面を走るのは、ここでは当たり前の光景だ。
 雨は上空から降らず、雲が通った跡はびっしょり濡れるので、しいて言えばそれが雨かもしれない。雲には雲虫という生き物が住んでいて、子供達は雲虫を雲から追い出して遊んでいる。

 気温は一年を通して暑くもなく寒くもなく、一定の温度を保っている。季節が無いので夏服や冬服はない。

「剣が買える店にあてがあるのか?」
「店というか……知り合いの鍛治の工房に直接行ってみようと思うんだ」

 カズオミは大通りを外れて細い路地をどんどん進む。
 途中で武器防具の店があったが通り過ぎた。
 街の隅で、細い煙が上がっている家の裏庭に踏み込む。常時、火を起こしている工房があるからか付近の気温は高く、生温い空気になっている。

 家主に断りも入れずに、勝手に裏口から屋内に入ったカズオミは、その部屋の壁を埋める棚に陳列されている武器を物色し始めた。

「お、おい、いいのか?」
「大丈夫だよ。後で言っておくから。あ、この剣なんてどう?」

 素人目に見ても高価そうな剣が並んでいる。
 アサヒは気おくれした。

「う、うーん」

 剣が並んでいる棚の前で、ああでもないこうでもないと言っていると、突然、悲鳴が聞こえた。

「……なんだこいつはーーっ?!」

 外からだ。
 低い女性の慌てた声。
 アサヒ達は顔を見合わせると外に出る。
 声の方向へ向かうと、庭の隅で作業着を着た女性が立ち尽くしている。女性の目の前には、ガラクタを積み上げた山があった。

「あ、ヤモリ!」
「え?」

 山の一角で動く小さな蜥蜴とかげのような生き物。
 いつの間にアサヒの身体から離れたのか、ヤモリはガラクタの山の上で石屑を探してはボリボリ美味そうに食っている。

「ちょ、お前! 今朝、餌の魔石をやったばっかりだろ! なんでこんなところで石を食うんだよ」

 アサヒは石を食べるのに夢中になっているヤモリの尻尾をつかんで引き上げた。指先で逆さまになって揺れるヤモリ。

『……魔石よりも味わいがあってうまいそうだ』

 カズオミの肩に乗った羽付きのイグアナ、もとい竜のゲルドが言う。
 しゃべれたのか、と驚愕するアサヒだったが、考えてみれば竜なら話せるのは当然なのだ。ヤモリは人の言葉を話そうとしないが。

「ヤモリお前、話せるなら俺に言ってから離れろよ! びっくりするだろ!」
『……主とは以心伝心の仲なので、言葉は不要だそうだ』
「伝わってねーよっ!」

 同じ竜のゲルドの通訳に、アサヒは盛大に文句を言った。
 わざとなのか?!
 今まで人の言葉を話さなかったのはわざとなのか?!

「……カズオミ、この赤い瞳のちょっと可愛い青年は誰なんだ」
「アサヒといって僕の学校の友達だよ、アヅミ姉さん。アサヒは意外と素直で繊細みたいだから、手を出さないでね」
「むう」

 作業着の女性とカズオミが言葉をかわす。
 女性はカズオミの姉らしい。ベリーショートの髪はカズオミと同じ栗色で、色気の無い作業用の灰色のつなぎ姿が様になっている。
 台詞の中でひどいことを言われた気がするが、アサヒは聞き流した。なおもジタバタ、石を食べたそうなヤモリを肩に戻す。ヤモリはふてくされた様子で丸くなった。

「すいません、俺の竜が食べちゃって……食べられて困るものは無かったですか?」
「変わった姿の竜だな。ここにあるのは廃棄予定の失敗作ばかりだから、気にしなくていいよ」

 ヤモリが食べていたのは、捨てられた武器や防具の欠片だった。作成途中のものや、刃が折れて粉々になったものが積み重なっている。

「姉さん、アサヒに剣をあげてほしいんだ。ちょうど手持ちの剣が折れちゃったんだよ」
「そうかそうか、美青年相手なら出世払いで特上の剣を用意してやろう」

 アヅミというらしい工房の主は、弟の願いに快く頷く。
 姉弟は屋内に戻ろうと歩きかけたが、アサヒが付いてこないのに気付いて振り返る。

「どうしたの、アサヒ?」

 アサヒはガラクタの山にかがみこんで、山の中から剣を抜き出すところだった。

「この剣……」

 汚れているが剣の形を保っている。白っぽい石でできた刀身は冷たく、中心が氷の結晶のように透き通っていた。

「ああ、それか。貴族の要望で透明な剣を作ることになって、水晶で剣を試作したんだ。普通の水晶だと耐久性がなくて実用に耐えないから、白水晶で作ってみたんだが……貴族は見た目が綺麗な方が良いらしい。白水晶で作った方は廃棄になったのさ」
「ちょっと重いですね」
「水晶で作ると重さがね。何とか鉄と同じくらい頑丈にはしたんだが……作るのが面倒な上に重くなるから一般向けじゃない」

 アサヒはうっすら透明がかった白い剣に指を滑らせた。
 なんとなく、使えそうな気がした。

「これ、もらっていいですか」
「捨てるつもりだったから別に良いが……」
「アサヒ、もっと他に上等な剣があるよ?」
「いや、これで良い」

 いくら友人と言っても、カズオミに剣を買ってもらうことにアサヒは抵抗感を持っていた。変な借りを作りたくない。廃棄予定の剣をもらうくらいがちょうど良いのではないだろうか。
 それに、白水晶の剣はアサヒが前から試してみたいと思っていた、あることを試すのにうってつけだった。

 普通の剣にした方がいいと勧めるアヅミやカズオミだったが、アサヒの頑固な様子にあきらめる。
 アヅミはサービスで剣を研いで、専用の鞘など備品を付けてくれた。

「正直言うとね、私は嬉しいんだよ。試作品とはいえ、一本一本、魂を込めて作ってるからね。この剣が君の役に立ったら作ったかいがある」

 こうして、アサヒは廃棄予定だった白水晶ホワイトルチルの剣を無料で手に入れた。


しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

処理中です...