ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
63 / 120
留学準備編

18 後悔はしたくない

しおりを挟む
「光竜王陛下!?」
「下がっておれ」

 血に染まった肩を抑えて、光竜王ウェスペは黒髪の従者を押しとどめる。
 アサヒは油断なく剣を構えた。
 まだ戦いは終わっていない。

「見事だ、我が同胞よ」
「ピクシスを出ていけ!」
「残念ながら、まだ用が終わっていないのでな」

 ウェスペは唇を吊り上げて笑う。
 その笑みにアサヒは嫌な予感がして眉をひそめた。
 その時、火口に複数人の兵士とフードを被った女性が上がってくる。コローナの兵士らしい武装した男たちの中心で、巫女の服装をしたその女性はかぶっていた白い布を脱いだ。
 銀の髪がさらりとこぼれる。

「……ミツキ?!」

 動揺したアサヒの肩を、光線がかすめた。
 血がほとばしる。

「くっ」
「お返しだ、アサヒ。さて、ここに正統なるピクシスの巫女姫がいる。今の女王は偽物だ。愚かな民がこれを知ったら、どう思うかな?」

 本当に、あのミツキなのか。
 記憶にある滝のような銀色の髪、静かな水色の瞳がアサヒを見つめている。別れた時より成長したとはいえ、その美しさは変わらない。無表情な視線は凍えるような冷たさだ。アサヒを認識しているかどうかすら、定かではない。

「安心しろ、炎竜王。ピクシスをあるべき姿に戻してやろう。正統なる女王のもと、新たな政治が始まるのだ。君はただ見ているだけでいい。永遠のやすらかな眠りの中でな」

 コローナはピクシスを乗っ取るつもりなのだ。
 正統な巫女姫であるミツキを傀儡として。
 ミツキに意思と誇りが残っているなら、そんなことは到底ゆるすまい。何か術が掛けられているのだろうか。そうだとしても、今この場で解くことはアサヒにも難しい。

「君は昔から優しい男だったな。理解しがたい優しさだが、同じ竜王として火の島を維持してきたことは高く評価している。せっかくの土地や人材をむざむざ消費はすまいよ。約束しよう」
「……」
「大人しく投降するなら、君の民を殺したりしない。さあ、大封柱グランドシールを受け入れるのだ」

 光竜王ウェスペは高らかに勝利宣言をする。
 アサヒは迷った。
 光竜王は嘘つきだと知っている。彼は一時的には約束を守るかもしれないが、かつてのように途中から好き勝手しはじめるだろう。しかし、ここで激しく抵抗すれば、ミツキやヒズミを巻き込む。
 無理をしてでも、抵抗すべきかもしれない。多くの者を犠牲にしてでも、己の信念を優先するのであれば。だが、自分だけが犠牲になるならともかく、さすがにピクシスの人々の命を天秤に乗せる訳にはいかなかった。
 今はアサヒがピクシスの代表、炎竜王だ。アサヒが抵抗すれば、他の人々も抵抗を続ける。それはより多くの死を呼ぶ結果になるかもしれない。

「……ピクシスの民を殺さないと、約束するのなら」
「アサヒ!!」

 後ろでヒズミがあせったように叫ぶ。
 頭上でヤモリが足踏みしたり髪の毛を食べたりしているが、アサヒは無視した。
 剣を鞘にしまう。

「はははははっ! そう来なくては!」

 光竜王ウェスペは哄笑する。
 アサヒの周囲に光の粉がきらめくと、うっすらと透明な光の柱を形成しはじめた。
 光の粉を浴びると身体がしびれるな感覚が走るが、アサヒは抵抗せずにそれを受け入れる。意識がぼやけ始めて、頭を振った。ヤモリが頭上から落ちる。


『我が盟友よ! この結末で本当に満足か?!』


 光の粉を浴びてもヤモリは元気そうだ。
 大封柱グランドシールは人間の魔術師のみを封じ込める。なぜなら、光竜王の魔術は神代竜の力をうばうものだから。正統な契約者とつながりを分断された神代竜と、光竜王は仮の契約を結んでその力を行使できるようにする。

 仕方ないだろう、他に良い解決方法が見つからないんだから。
 アサヒは心の中でヤモリに向かって愚痴った。
 竜王として覚醒したとしても、アサヒ自身は天才でもなんでもない。覚醒してから光竜王に対抗できるように態勢を整えようとしたが、今一歩足りなかったということだ。
 しかし、アサヒがいなくてもピクシスは何とかなる。ヒズミや、ハルトや、頼もしい人々がいるのだから。彼らなら大丈夫。
 これで俺は終わり……。

「……諦めるな、炎竜王! あなたは大勢の人々に求められている!」

 知らない男の声がした。
 雷のような音と爆発が起きて、光の柱が途中ではじけとぶ。
 アサヒは膝をついた。
 いったい何が起こっている?

「ハヤテ、今のうちにアサヒを連れていけっ!」
「おうよ!」

 ヒズミの指示の声。
 魔術を掛けられた影響で身体がしびれているアサヒを、いつの間にか現れた青い髪の青年が抱え上げる。

「失礼しますね、炎竜王陛下。じゃあ、脱出といきますか。行くぜ、フィシー!」

 ハヤテ・クジョウの背後に彼の竜が透明化を解いて姿を現した。
 魚のようなヒレを持つ青い竜だ。
 ハヤテはアサヒを抱えてヤモリを拾うと、竜に飛び乗った。
 風竜フィシーは空中を泳ぐように動き高速で火口から遠ざかる。

「は、ハヤテ?!」
「状況はピクシスに不利だ。いったん島の外に出て、態勢を立て直すぜ。ほかの竜王の助けを借りると言ったのはお前なんだろ、アサヒ」

 何とか麻痺から脱しつつあるアサヒは、風竜の背中でハヤテと会話する。
 ハヤテは顔は笑っていても瞳は真剣だ。

「それともやられっぱなしで引き下がるつもりじゃ、ないだろうな?」
「……いや」

 アサヒは遠ざかりつつあるピクシスを見下ろした。
 途中で逃げたアサヒを理由にして光竜王がピクシスの人々を殺さないか気になるが、もう遅い。こうなれば取るべき道はひとつだけだ。

「絶対に取り戻す!!」

 ミツキも、故郷である火の島ピクシスも。

しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

処理中です...