毒と薬は使いよう〜辺境の毒りんご姫は側室候補となりました

和島逆

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3.王子エディ

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「叔父上。それはもしや、病人を救う薬になるのではないですか?」

「薬だと?」

 ランベルトは目を丸くして、朝食の席で向かいに座る甥――エディに問い返した。

 エディはいかにも利発そうな少年だった。
 ランベルトと同じ髪と瞳の色をしているが、顔の造作は似ていない。彼は赤ん坊の頃に亡くなった母親に生き写しで、先王は彼を大層溺愛していた。

「はい。毒と薬は紙一重だと、教えてくださったのは他でもない叔父上ではありませんか」

 はきはきとしゃべる少年を、ランベルトは感心して眺めた。
 我が甥ながらなんと賢い。叔父馬鹿全開でそう考え、ランベルトは優しい眼差しをエディに向ける。

 ランベルトは医師だった。
 昔から王位を継ぐつもりなどさらさらなく、兄が存命の頃は国の医療水準を向上させるため精力的に活動していた。が、今は残念ながら医師は休業中だ。

「……久しぶりに、施療院に顔を出してみるか」

 眉根を寄せて独り言ち、ランベルトは腰を上げる。
 わくわくと見上げる甥に、苦笑しながら手を振った。

「お前は留守番だ。早く王位を継げるよう、しっかり勉学に励みなさい」

「はぁい……」

 エディはがっかりしたようだったが、それでも素直に頷いた。
 健気な子だ。父親を亡くしてまだ間もないというのに、次期国王として己の役目をまっとうしようと頑張っている。
 小さな頭をぐりぐりと撫で、ランベルトはシャノンの部屋へと急いだ。

 あれから連日のように聞き取りをして、ランベルトも随分毒りんごに詳しくなった。とはいっても、シャノンのように毒りんごの見分けまではつかないが。

「……はい。可愛い我が子たちを手放すのは心苦しいですが、断腸の思いで差し出しましょう」

 無表情なシャノンが珍しく目を潤ませて、つやつやと輝く毒りんごを包んでくれる。うっうっ……と嗚咽まで聞こえてきて、ランベルトはまるで自分が無体を働いているような気分になった。

「いや、あのな。その毒りんごは、うまくすれば人々を癒やす薬になるかもしれんのだ」

「まあ。この子たちが?」

 驚くシャノンに、ランベルトは説明する。
 不眠に悩む患者には『眠りんご』。
 下痢や便秘に悩む患者には『詰まりんご』、そして『くだりんご』。
 食欲不振ならば『腹減りんご』というように、だ。

「『のりのりんご』や『もうこの世の終わりんご』は?」

「少量ならば疲れを癒やしたり、鎮静効果も期待できるかもしれないな。まあ、これからの実験次第か」

 そのままの流れでなんとなくシャノンも付いていき、二人は馬車で施療院へと向かった。
 到着した施療院は思いのほか立派な施設で、白を基調として清潔感にあふれている。ランベルトの既知の医師たちは二人を大歓迎して、毒りんごにおおいに興味を持ってくれた。

「ほほう……! では、このりんごは永遠に腐ることはないのですね?」

「シャノン様は実際にこちらを口にされたことは?」

「加工したら効能は変わりますか? 例えばすりつぶしたり、はたまた煮詰めてジャムにしたり」

 一斉に質問攻めにされ、シャノンは目を白黒させた。
 ぽっと頬を上気させ、一つ一つの質問に丁寧に答えていく。

「そうです。丸のままでも切り分けても、この子たちは変色もせずみずみずしいままなのです」

「幼き頃は、あまりの美しさに何度も口にいたしました。ですが一口ばかりで、いつも心配した父から取り上げられてしまいましたわ」

「寝ずに仕事する父を心配して、こっそりりんごケーキにして食べさせたことがこざいます。父は糸が切れたように眠り込み、翌朝にはさっぱりした顔をしておりましたわ」

 シャノンはとても嬉しかった。

 これまで気味悪がられるばかりだった毒りんごが、初めてこれほどまでに求められているのだ。うきうきと気持ちが上向いて、毒りんごを増産しようと心に決める。

「そういえば、毒りんごはどうやって作るのだ?」

「簡単です。りんごを両手で包み込み、祈りを捧げるだけ。三秒もあればできます」

「……ならもっと快く手放してくれよ」

 ランベルトが疲れたように肩を落とした。
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