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5.大商人の証言
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「さて、オルタンス嬢を追放しようとしたお前達の企みも、多くの者の反論や指摘により潰えただろう。流石にまだ言いたいことがある者はもうおるまいな?」
国王としては冗談のつもりだったのだろうが……。
「陛下! わたくしめも1つよろしいでしょうか?」
「なんだ、ドゴール、お前の商会は学園の事まで関わってるのか?」
この男は王国内でも絶大な影響力を誇る商人である。王族、貴族のドレスや宝石から庶民の服まで幅広く、その他にも家具や日用品、食料品など多岐に渡り取り扱い、周辺諸国にも支店を展開し各国とのパイプも太いため、平民でありながら経済政策や外交に関して裏で国王からの相談に乗る程である。
「実は2ヶ月ほど前に殿下とそこのご令嬢が我が商会を訪れて、本日のこのパーティ用のドレスや宝飾品を数多く買って戴いたのですが、まだお支払いを戴いていないのです」
「なんだと? どういう事だアルベール?」
「い、いえ、請求書を見ておりませんので…」
最早驚く気力も無くなったのか、大人しく答える。
「店の者が請求書を直接殿下の執務室へお届けしております。かなりな額ですのでお時間がかかってるだけなら良いのですが……」
「どうせ執務を放り出して遊び歩いていたのだろう。ちなみにだがドゴール、幾らなのだ?」
「具体的な額はこの場では差し控えますが、王子が扱える年間予算分はその1日でお買い求めいただいたかと…」
「な!? なんだと!?」
「わたくしめも心配して殿下にお伺いしたのですが、婚約者へ贈り物をするための予算が別に国庫から出るから大丈夫だと……」
「婚約者への贈り物? まさかとは思うがアルベールよ、今まさに男爵令嬢が身に付けている物ではないだろうな?」
「いや、あの……、その……」
婚約者であるオルタンスに贈り物をしたことは一度もなく、買った物はすべてリュシエンヌにプレゼントしていた。返事できるはずがない。
しかも今回はリュシエンヌと婚約を結ぶための大切な舞台だからと、東方から渡ってきた希少な絹や大陸全土でも9点しか無い貴重な宝石など、リュシエンヌが求めるままに購入した。
自身の予算だけでは無理だが、王子には婚約者への贈り物のための予算がある。パーティなどに出席する際に王家の婚約者として恥ずかしくない格好をしてもらう為のものだ。
アルベールはどうせすぐにリュシエンヌが婚約者になるし問題ないだろうと軽く考えていた。
アルベールが答えに窮するのと反対に、自身の立場を理解できていないリュシエンヌが呑気な様子で口をはさむ。
「陛下、私がいずれ王妃となるんですもの、何も問題ありませんわ。こんなに素敵な装いが出来て嬉しいです」
アルベールはチラリと母を盗み見る。相変わらず目は笑っているが、こめかみの辺りに血管が浮いてるように見えるのは気のせいでは無いだろう。
「ドゴール殿、あなたのお店はいつからこのような品の無いデザインのドレスを扱うようになりましたの?」
王妃の怒りの矛先がドゴールに向いてしまった。これはとばっちりなのだが、こんなセンスの悪い商品を並べてると社交界のトップから言われてはマズイ。
「まさかまさか! これはそちらの令嬢がご自身で発注されたデザインですので、当商会としましては一流の素材を提供し言われたままお作りしただけで……」
さすがに国王が助け船を出す。
「おいおい、ドゴールをいじめるな。まさかこんなおかしな品を並べる訳がないだろうが」と笑いに納める。
リュシエンヌは難しい話しは理解できないようで、自分のドレスが褒められたと思いニコニコしている。
ちなみに、全体的に濃いピンクでリボンやフリルが全体に散りばめられており、5歳の女の子が着ていたら微笑ましく思うデザインである。
リュシエンヌはもうすぐ18になる。
「お前は明日すぐに支払いの手続きをしろ。そして、虚偽の理由で国庫から資金を出すとは立派な犯罪だ。ここまでの事はお前の愚かさとして温情をかけようかと思ったが、横領となれば別だ。国民が汗水垂らして働き納めてくれた税金だからな」
(いよいよ佳境ね? 王子はこの後どうなってしまうのかしら?)
オルタンスは、アルベールという「個人」ではなく登場人物としての「王子」として見てしまうくらいにこの「舞台」にのめり込んでハラハラしていた。
国王としては冗談のつもりだったのだろうが……。
「陛下! わたくしめも1つよろしいでしょうか?」
「なんだ、ドゴール、お前の商会は学園の事まで関わってるのか?」
この男は王国内でも絶大な影響力を誇る商人である。王族、貴族のドレスや宝石から庶民の服まで幅広く、その他にも家具や日用品、食料品など多岐に渡り取り扱い、周辺諸国にも支店を展開し各国とのパイプも太いため、平民でありながら経済政策や外交に関して裏で国王からの相談に乗る程である。
「実は2ヶ月ほど前に殿下とそこのご令嬢が我が商会を訪れて、本日のこのパーティ用のドレスや宝飾品を数多く買って戴いたのですが、まだお支払いを戴いていないのです」
「なんだと? どういう事だアルベール?」
「い、いえ、請求書を見ておりませんので…」
最早驚く気力も無くなったのか、大人しく答える。
「店の者が請求書を直接殿下の執務室へお届けしております。かなりな額ですのでお時間がかかってるだけなら良いのですが……」
「どうせ執務を放り出して遊び歩いていたのだろう。ちなみにだがドゴール、幾らなのだ?」
「具体的な額はこの場では差し控えますが、王子が扱える年間予算分はその1日でお買い求めいただいたかと…」
「な!? なんだと!?」
「わたくしめも心配して殿下にお伺いしたのですが、婚約者へ贈り物をするための予算が別に国庫から出るから大丈夫だと……」
「婚約者への贈り物? まさかとは思うがアルベールよ、今まさに男爵令嬢が身に付けている物ではないだろうな?」
「いや、あの……、その……」
婚約者であるオルタンスに贈り物をしたことは一度もなく、買った物はすべてリュシエンヌにプレゼントしていた。返事できるはずがない。
しかも今回はリュシエンヌと婚約を結ぶための大切な舞台だからと、東方から渡ってきた希少な絹や大陸全土でも9点しか無い貴重な宝石など、リュシエンヌが求めるままに購入した。
自身の予算だけでは無理だが、王子には婚約者への贈り物のための予算がある。パーティなどに出席する際に王家の婚約者として恥ずかしくない格好をしてもらう為のものだ。
アルベールはどうせすぐにリュシエンヌが婚約者になるし問題ないだろうと軽く考えていた。
アルベールが答えに窮するのと反対に、自身の立場を理解できていないリュシエンヌが呑気な様子で口をはさむ。
「陛下、私がいずれ王妃となるんですもの、何も問題ありませんわ。こんなに素敵な装いが出来て嬉しいです」
アルベールはチラリと母を盗み見る。相変わらず目は笑っているが、こめかみの辺りに血管が浮いてるように見えるのは気のせいでは無いだろう。
「ドゴール殿、あなたのお店はいつからこのような品の無いデザインのドレスを扱うようになりましたの?」
王妃の怒りの矛先がドゴールに向いてしまった。これはとばっちりなのだが、こんなセンスの悪い商品を並べてると社交界のトップから言われてはマズイ。
「まさかまさか! これはそちらの令嬢がご自身で発注されたデザインですので、当商会としましては一流の素材を提供し言われたままお作りしただけで……」
さすがに国王が助け船を出す。
「おいおい、ドゴールをいじめるな。まさかこんなおかしな品を並べる訳がないだろうが」と笑いに納める。
リュシエンヌは難しい話しは理解できないようで、自分のドレスが褒められたと思いニコニコしている。
ちなみに、全体的に濃いピンクでリボンやフリルが全体に散りばめられており、5歳の女の子が着ていたら微笑ましく思うデザインである。
リュシエンヌはもうすぐ18になる。
「お前は明日すぐに支払いの手続きをしろ。そして、虚偽の理由で国庫から資金を出すとは立派な犯罪だ。ここまでの事はお前の愚かさとして温情をかけようかと思ったが、横領となれば別だ。国民が汗水垂らして働き納めてくれた税金だからな」
(いよいよ佳境ね? 王子はこの後どうなってしまうのかしら?)
オルタンスは、アルベールという「個人」ではなく登場人物としての「王子」として見てしまうくらいにこの「舞台」にのめり込んでハラハラしていた。
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