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6.追い詰められた第1王子の妙計
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「さて、誰かラングロワ男爵家に行き、明日の朝一番で登城するように伝えよ。逃亡を図らないように見張りもつけておけ」
国王が事後処理に動き出す。
「リュシエンヌ嬢は帰宅せずこのまま王城に留まるように」
「あら、アルベール様、一緒に泊まるお許しが出ましたわ」と嬉しそうだ。
(この前向きな姿勢、わたくしも見習わなければなりませんね)
「はぁ……、もうお前らはどうでも良い。好きにしろ」
とうとう国王も匙を投げてしまう。
「アルベール、お前はオルタンス嬢本人、侯爵家およびワシらに話した上で合法的に婚約解消すべきであったな。なぜ近隣諸国の王侯貴族を招待したもてなしの場でこのような騒ぎを起こしたのだ」
「リュシエンヌが……、どうせ話しても却下されるけど、外国の方達の前でオルタンスの罪を問えば皆さんが味方になって自分たちの婚約の証人になってくれる……、と言われ、僕もその気になって……」
「え? やだ、アルベール様、私のせいにしないでくださいよ!」
心なしかリュシエンヌのアルベールに対する態度が変わってきている。
「それで頑なにイジメをしていると主張したのか……。そして税金の横領だな、国民の信頼あっての王家であるのに、その信頼を失う行為は擁護できん。各国の来賓の方々に迷惑をおかけした国際問題と、我が王家の恥を各国にさらし、かつ公金横領という国内問題の両方を起こしたのだ。もはや王位継承権の剥奪程度では収まらん。2人揃って平民となり、リュシエンヌ嬢と共に暮らして行くがよい。最後の情けだ、せめて家だけは用意してやろう」
「そ、それは、あまりにも厳しすぎます! 王位継承権は返上いたします、謹慎もいたします。ですのでどうか平民にするなどと!」
「お前はオルタンス嬢を国外追放しようとしたな? 冤罪で1人の令嬢の人生を終わらせようとしたんだぞ? 本来なら鉱山での強制労働送りでも良いところを、平民にするのはかなりの温情なんだが、不満か?」
「い、いえ……」
流石に自身の行いを省みれば答えに窮する。
「え!? アルベール様は平民になってしまうのですか!? そんなの嫌です! 王妃になれると思ってアルベール様に近づいたのに!!」
「な、なんだと!! あの優しくかけてくれた言葉やいじめられたと泣いていたのはすべて嘘だったというのか!?」
「当然でしょ、国王になれないアルベール様などに価値はありません。 そうだ! 王太子はランベール様になるのですよね! ランベールさまぁ~」
近くに居たランベールの腕にすがりつきに行くが、優しく温和なはずの第2王子が氷の針でも飛んでくるかと錯覚するほどの醒めた視線を一瞬見せた。
フェルナンドを始めとする近隣諸国の王侯貴族たちは流石に国際社会において修羅場をくぐってきている面々、その一瞬を見逃していない。
(もしや、第2王子は優男に見せてるだけで実は冷酷無比な裏の顔があるのでは……。この一件も兄を蹴落とす為に仕組んだ事かも……)
声には出さないが『ベアトリクス王国のランベールは注意すべき』と誰しもが頭の片隅にメモをした。
実際にはランベールは汚物を見るような心境が表情に出ただけで、裏の顔も無ければ事件を仕組みもしていない。勘違いではあるが各国に脅威を覚えさせた事になる。
この視線にひるんだリュシエンヌは標的をフェルナンドに変える。
「フェルナンド様、わたくし慣れぬ外国の地でも王妃として精一杯務めさせていただきますわ!!」
「その強靱な精神力、常に前向きに捉える姿勢、研究材料として解剖や実験をする為にぜひ欲しい逸材ではあるが……。一応言っておくと、私は国に帰るとそれは恐ろしい許嫁が居るのだよ。それはそれは恐ろしいね」
言葉とは裏腹に楽しげに笑って話しており、良好な関係を築けてる事がよく分かる。
「そうしましたら誰か……、そこの貴方! そちらの方でも良いですわ! わたくしと結婚いたしましょう!」
「おい! リュシエンヌ!」
あまりの見苦しさにアルベールが声をかけるが、後に何を続けるか思い浮かばない。
自身が王族で居られるか平民になるかの瀬戸際でもある。
「なんですか!? 貴方はオルタンス様と婚約破棄などせずそのまま2人で平民になってください!」
アルベールにはその暴言が天啓のように感じられた。そもそも今回の騒動も天啓だと思って行動した事がこういった事態に繋がっているのだが。
「そ! そうか! オルタンス! 君がまだ返事をしていないから婚約破棄はまだ確定していない! なんで早く断ってくれなかったんだ!!」
(!)
舞台観劇をしていた観客の気分だったオルタンスは急に話しを振られてビクッとし、我に返った。
(そもそも話そうとしたのを遮ったのは殿下ですのに……)
「怒っているのか!? すまない、そこの悪女に騙されそそのかされていたのだ! 僕は悪くない。婚約破棄などしないと一言言ってくれればそれでいいんだ!!」
オルタンスはスカートの両端を摘まみ上げながら、それはそれは美しいカーテシーをする。
「婚約破棄の儀、慎んでお受けいたします」
国王が事後処理に動き出す。
「リュシエンヌ嬢は帰宅せずこのまま王城に留まるように」
「あら、アルベール様、一緒に泊まるお許しが出ましたわ」と嬉しそうだ。
(この前向きな姿勢、わたくしも見習わなければなりませんね)
「はぁ……、もうお前らはどうでも良い。好きにしろ」
とうとう国王も匙を投げてしまう。
「アルベール、お前はオルタンス嬢本人、侯爵家およびワシらに話した上で合法的に婚約解消すべきであったな。なぜ近隣諸国の王侯貴族を招待したもてなしの場でこのような騒ぎを起こしたのだ」
「リュシエンヌが……、どうせ話しても却下されるけど、外国の方達の前でオルタンスの罪を問えば皆さんが味方になって自分たちの婚約の証人になってくれる……、と言われ、僕もその気になって……」
「え? やだ、アルベール様、私のせいにしないでくださいよ!」
心なしかリュシエンヌのアルベールに対する態度が変わってきている。
「それで頑なにイジメをしていると主張したのか……。そして税金の横領だな、国民の信頼あっての王家であるのに、その信頼を失う行為は擁護できん。各国の来賓の方々に迷惑をおかけした国際問題と、我が王家の恥を各国にさらし、かつ公金横領という国内問題の両方を起こしたのだ。もはや王位継承権の剥奪程度では収まらん。2人揃って平民となり、リュシエンヌ嬢と共に暮らして行くがよい。最後の情けだ、せめて家だけは用意してやろう」
「そ、それは、あまりにも厳しすぎます! 王位継承権は返上いたします、謹慎もいたします。ですのでどうか平民にするなどと!」
「お前はオルタンス嬢を国外追放しようとしたな? 冤罪で1人の令嬢の人生を終わらせようとしたんだぞ? 本来なら鉱山での強制労働送りでも良いところを、平民にするのはかなりの温情なんだが、不満か?」
「い、いえ……」
流石に自身の行いを省みれば答えに窮する。
「え!? アルベール様は平民になってしまうのですか!? そんなの嫌です! 王妃になれると思ってアルベール様に近づいたのに!!」
「な、なんだと!! あの優しくかけてくれた言葉やいじめられたと泣いていたのはすべて嘘だったというのか!?」
「当然でしょ、国王になれないアルベール様などに価値はありません。 そうだ! 王太子はランベール様になるのですよね! ランベールさまぁ~」
近くに居たランベールの腕にすがりつきに行くが、優しく温和なはずの第2王子が氷の針でも飛んでくるかと錯覚するほどの醒めた視線を一瞬見せた。
フェルナンドを始めとする近隣諸国の王侯貴族たちは流石に国際社会において修羅場をくぐってきている面々、その一瞬を見逃していない。
(もしや、第2王子は優男に見せてるだけで実は冷酷無比な裏の顔があるのでは……。この一件も兄を蹴落とす為に仕組んだ事かも……)
声には出さないが『ベアトリクス王国のランベールは注意すべき』と誰しもが頭の片隅にメモをした。
実際にはランベールは汚物を見るような心境が表情に出ただけで、裏の顔も無ければ事件を仕組みもしていない。勘違いではあるが各国に脅威を覚えさせた事になる。
この視線にひるんだリュシエンヌは標的をフェルナンドに変える。
「フェルナンド様、わたくし慣れぬ外国の地でも王妃として精一杯務めさせていただきますわ!!」
「その強靱な精神力、常に前向きに捉える姿勢、研究材料として解剖や実験をする為にぜひ欲しい逸材ではあるが……。一応言っておくと、私は国に帰るとそれは恐ろしい許嫁が居るのだよ。それはそれは恐ろしいね」
言葉とは裏腹に楽しげに笑って話しており、良好な関係を築けてる事がよく分かる。
「そうしましたら誰か……、そこの貴方! そちらの方でも良いですわ! わたくしと結婚いたしましょう!」
「おい! リュシエンヌ!」
あまりの見苦しさにアルベールが声をかけるが、後に何を続けるか思い浮かばない。
自身が王族で居られるか平民になるかの瀬戸際でもある。
「なんですか!? 貴方はオルタンス様と婚約破棄などせずそのまま2人で平民になってください!」
アルベールにはその暴言が天啓のように感じられた。そもそも今回の騒動も天啓だと思って行動した事がこういった事態に繋がっているのだが。
「そ! そうか! オルタンス! 君がまだ返事をしていないから婚約破棄はまだ確定していない! なんで早く断ってくれなかったんだ!!」
(!)
舞台観劇をしていた観客の気分だったオルタンスは急に話しを振られてビクッとし、我に返った。
(そもそも話そうとしたのを遮ったのは殿下ですのに……)
「怒っているのか!? すまない、そこの悪女に騙されそそのかされていたのだ! 僕は悪くない。婚約破棄などしないと一言言ってくれればそれでいいんだ!!」
オルタンスはスカートの両端を摘まみ上げながら、それはそれは美しいカーテシーをする。
「婚約破棄の儀、慎んでお受けいたします」
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