婚約破棄された私は、世間体が悪くなるからと家を追い出されました。そんな私を救ってくれたのは、隣国の王子様で、しかも初対面ではないようです。

冬吹せいら

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一瞬の出来事

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「確かに……。そのような記憶はございます」
「やっぱりそうかい?」

 ハビアルの声が弾んだ。
 その喜び方に、キャロは尊さのようなものを感じる。

「も、申し訳ございません。言葉を乱してしまって……」
「いえ……。でも、驚きました。あの時の少年が、まさか、王子様だったなんて」
「あはは……。さすがに、王子が膝を擦りむいて、泣いているだなんてことを知られるのは、恥ずかしかったので。名前を名乗ることも無く、去ってしまったんです。お礼もできずに、今さら思い出すだなんて、大変無礼なことだと自覚しております」
「そんなことございません。ご無事で何よりです」

 ハビアルは、キャロの笑顔に、心惹かれていた。
 かつて自分を助けてくれた少女と、運命の再会を果たしたのだ。

「その……。こんなことを言っていいのかわかりませんが。あなたに再び出会えて、良かったと思っています。出会わなければ、忘れたままでしたから」

 キャロの手を……。ゆっくりと握り、しっかりと目を見つめながら、ハビエルが言う。
 
「……あの時のお礼を、今するべきだと。そう考えています」
「お礼だなんて……」
「いいえ。あなたのような人間は、施しを受けてしかるべきです。……住む家が無いのであれば、王宮に住めばよろしいかと」
「え、えぇ!?」

 さすがに驚いて、大きな声を出してしまった。

「今の私は、ただの平民です。王宮に住むなど、到底許される話では……」
「でしたら……。僕と婚約しましょう」
「っ!?」

 今度は、言葉すら出てこない。
 何が起きているのだろう。理解が追い付かなかった。

「運命を大事にしろと。父上はいつも僕に教えてくれました。この婚約を、きっと受け入れてくれるはずです」
「し、しかし。話が急すぎて……」
「大丈夫です。……僕が、必ずあなたを幸せにします。信じてください」
「あっ……」

 その真っすぐな瞳に……。
 キャロは、一瞬で心を奪われてしまった。
 この人についていきたい。
 一緒になりたい。

 元の婚約者であるライアンには、一切抱かなかった感情である。
 人を好きになるということは……。こんなにも突然で、激しいものなのか。

「……わかりました」

 気が付くと、キャロは首を縦に振っていた。

「ありがとうございます」

 握られた手に、ハビアルが口づけをする。
 お返しに、キャロも……。ハビアルの手に、口づけをした。

 こうして、婚約破棄をされ、国外追放までされてしまった、元子爵令嬢のキャロは……。
 隣国の王子の婚約者となった。
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