夫婦の恋は結婚のあとに 〜二度目の初夜とクリスマスの贈り物〜

出 万璃玲

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Epilogue

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 二週間ほどが経って、我が家は無事にクリスマスの朝を迎えた。
 エーミルは、今年のぶんのクリスマスプレゼントは「待つ」と言ったけれど、何もないというのは寂しい。親の独断で、六十色がセットになった色鉛筆と画用紙を贈った。それと、恒例の靴下いっぱいのお菓子も。

 画材を選んだのはエーミルが絵を描くのが好きだからだが、“マリアンヌ嬢のラブレター”に触発されたのも、少し。彼女の一生懸命な絵が可愛らしくて、私もエーミルに何か描いてもらいたいなと、そんな下心からだ。
 それをヴィンフリートに話したら、笑われた。「俺の恋敵こいがたきエーミル息子なんだな」と。夫婦の時間を増やすようになって知ったけれど、彼は案外笑うし、冗談も言う。「君がエーミルを溺愛しているのは知っているから、俺は二番目でいい」らしい。

 エーミルはそわそわしながら朝食を済ませ、それからずっと子供用の小さな木机に向かっている。プレゼントは気に入ってもらえたようだ。
 邪魔しないよう離れて見守っていたけれど、そろそろ声をかけてもいいだろうか。

「……ねえ、エーミル。何を描いたのか、お母さまも見ていい?」
「うん、いいよ! えっとねー」

 たくさんの色で生き生きと描かれた、丸や四角。線のひとつひとつに心が宿っているようで、それだけで胸がじんと温かくなる。
 しかし、息子から何を描いたかの説明を受けた瞬間、私は大きく目を見張った。

「お父さまとお母さまと、エーミル。あとね、これは妹だよ。サンタさん、本当に来てくれたんだね」
「……え? えっと、エーミルは弟より妹がいいの?」
「ううん、そうじゃなくて。もういるよ。お母さまのお腹の中に」

 瞬きを忘れた母に、エーミルはにっこり笑いかけた。「生まれるのが楽しみだね!」と言って。

 私は自身の腹部へ目を向ける。当然ながら、ぺったんこだ。もし本当に妊娠していたとしても、現段階で確かめるすべはない。小さい子供は時に、科学では説明のつかない直感力を発揮するというけれど――。
 でも、彼の直感が当たっていればいいなと思う。未だ何の変化も見えないその場所を、私はそっとさすった。


 いつの間にか、部屋の隅で読書をしていたはずのヴィンフリートが、そばに立っていた。彼は私とエーミルの頭を、順番にふわりと撫でた。それからエーミルが絵を描いた画用紙にも、丁寧に触れる。

 並んでお絵描きを始めた父子を見ながら、たしかにサンタさんはいたのね、と思う。
 いえ……サンタさんよりももっと尊い、何にも変えがたい、幸福な贈り物をもたらしてくれる存在。それが目の前に二人も。

 窓から差し込む透明な光が、きらきらと、聖なる日常を祝福してくれていた。



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