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第一部
17.
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少し待った後運ばれて来た昼食は朝食とは比べ物にならない程豪華だった。
湯気を立てる美味しそうな食事を背中の痛みそっちのけで口にする。
原作だと公爵邸の料理を「こんな美味しいごはん初めて」とエリカは感激しながら夢中で食べる。
前世の記憶が戻った今はそう口にすることは無いが、確かにオルソン伯爵家で出される料理とは比べ物にならない味だった。
デザートまで食べ終わり食後の紅茶を飲み終わると空腹は跡形もなく消えていた。
「厨房の人たちに美味しかったと伝えて貰える?」
「かしこまりました」
食器を片付けようとするアイリにそう伝言を頼む。
結局彼女に私付きのメイドのような仕事を既にさせてしまっている。
今のところアイリの働きに不満は無い。他に突出したメイドが居なければ彼女で本決まりになるだろう。
「そうだ、食器を片付けに行く前に湿布を貼る手伝いをして貰ってもいい?」
私はサイドテーブルに置かれた湿布を指しながら言う。
食事の合間を見てアイリが持って来てくれたのだ。空腹を満たすことを優先して今まで放置していた。
「背中をぶつけてしまってね、頼めるかしら」
「はい」
彼女は食器をひとまとめにした後、私の傍に来た。
「奥様、背中に触れられるよう座り方を変えて頂いて宜しいでしょうか」
「わかったわ」
椅子に横向きに座り直す。丁寧な手つきでドレスのバックボタンが外された。
間もなく湿布が貼られるだろうと予想していたがその気配が無い。
「どうしたの?」
「……青くなっている部分に傷があるので、このまま湿布を貼って宜しいのかと」
「傷?血は出ている?」
確かに痛かったがそこまでの怪我だっただろうか。
私は眉を顰めながら言う。
「いえ、血は。よく見ると新しいものでは無いようです、少し爛れたミミズ腫れのような……」
「ミミズ腫れ……ああ」
アイリの説明で思い出した。その傷は伯爵邸で付けられたものだ。
「子供の頃に姉が躾ごっこと言って枝鞭で叩いてきた時の物ね、昨日今日付いたものではないわ」
「鞭で……」
アイリが口数少なく返す。
まあコメントに困る説明ではあった。
公爵夫人の背中に鞭の傷痕が残っていて、姉に遊びでやられましたと聞かされても戸惑うだけだろう。
伯爵夫人と異母姉はエリカを散々にいびった。ローズなど子供の頃は平気で暴力を振るってきた。
ただエリカの背を枝鞭で思い切り叩いて傷をつけた時、甘やかされていたローズは初めて父親に激怒された。
以降は派手な暴力をエリカにふるうことは無かった。
漫画内のエリカはその時の事を、唯一父に庇って貰った温かい思い出として認識している。
実際はエリカの女としての商品価値が下がることを危惧してローズを叱ったのだが。
私は少し考えて口を開いた。
「そうね。湿布が傷に染みるかもしれないし。背中の痣は医師に診て貰うことにするわ」
「では家令にそのように伝えてきます」
「大丈夫よ、少しすれば待ち合わせ時間だから。私が直接伝えるわ」
「かしこまりました」
アイリは承諾すると私のむき出しになった背中を戻した。
「湿布は置いたままにしておいて。食器を片付けたら元の業務に戻って大丈夫よ。又呼ぶことがあるかもしれないけれど」
「はい、いつでもお呼びください」
「有難う、この鈴の音が聞こえたら来てくれると助かるわ」
「かしこまりました」
呼び鈴を持って伝える。アイリは深々とお辞儀をしてから食器と共に公爵夫人室を出て行った。
「医師、ねえ……」
私は自分だけの部屋で呟く。アベニウス公爵家のお抱え医師のことを思い出していた。
美貌の医師、レイン・フォスター。
最初からエリカの味方をしてくれる頼れるキャラだ。
「でもセクハラしてくるのよねえ……」
すべすべして綺麗な肌だねとか、若い子の肌はフレッシュで良いねとかそういう感じの事をエリカを診療する度に言ってくるのだ。
そしてケビンがそれに腹を立てて首にしてやろうかと脅すまでが定番のギャグだった。
レインはエリカに恋愛感情を持っていないし、言葉以上のことはしてこない。
ただそういうこと言う医者はちょっと気持ちが悪い。
なので湿布の手当で済むなら医師は呼ばなくていいかと思っていたが。
「……ケビンに付けられた痣だけじゃなく、ローズに鞭打たれた傷も見せられるなら話は別ね」
レインはセクハラ癖に目を瞑れば真面目な医師だ。セクハラしてる時点で台無しだが。
だからエリカの体に加害の痕跡を認めたら、いざという時助けになってくれる可能性がある。
「役に立ってくれそうだけれど、セクハラ発言はどうにかさせたいわね……」
もし原作と同じ展開になるならレインはその悪癖で窮地に陥る羽目になるし。
私は溜息を吐きながらホルガーと会う時間までレインのセクハラ対策を考え続けた。
湯気を立てる美味しそうな食事を背中の痛みそっちのけで口にする。
原作だと公爵邸の料理を「こんな美味しいごはん初めて」とエリカは感激しながら夢中で食べる。
前世の記憶が戻った今はそう口にすることは無いが、確かにオルソン伯爵家で出される料理とは比べ物にならない味だった。
デザートまで食べ終わり食後の紅茶を飲み終わると空腹は跡形もなく消えていた。
「厨房の人たちに美味しかったと伝えて貰える?」
「かしこまりました」
食器を片付けようとするアイリにそう伝言を頼む。
結局彼女に私付きのメイドのような仕事を既にさせてしまっている。
今のところアイリの働きに不満は無い。他に突出したメイドが居なければ彼女で本決まりになるだろう。
「そうだ、食器を片付けに行く前に湿布を貼る手伝いをして貰ってもいい?」
私はサイドテーブルに置かれた湿布を指しながら言う。
食事の合間を見てアイリが持って来てくれたのだ。空腹を満たすことを優先して今まで放置していた。
「背中をぶつけてしまってね、頼めるかしら」
「はい」
彼女は食器をひとまとめにした後、私の傍に来た。
「奥様、背中に触れられるよう座り方を変えて頂いて宜しいでしょうか」
「わかったわ」
椅子に横向きに座り直す。丁寧な手つきでドレスのバックボタンが外された。
間もなく湿布が貼られるだろうと予想していたがその気配が無い。
「どうしたの?」
「……青くなっている部分に傷があるので、このまま湿布を貼って宜しいのかと」
「傷?血は出ている?」
確かに痛かったがそこまでの怪我だっただろうか。
私は眉を顰めながら言う。
「いえ、血は。よく見ると新しいものでは無いようです、少し爛れたミミズ腫れのような……」
「ミミズ腫れ……ああ」
アイリの説明で思い出した。その傷は伯爵邸で付けられたものだ。
「子供の頃に姉が躾ごっこと言って枝鞭で叩いてきた時の物ね、昨日今日付いたものではないわ」
「鞭で……」
アイリが口数少なく返す。
まあコメントに困る説明ではあった。
公爵夫人の背中に鞭の傷痕が残っていて、姉に遊びでやられましたと聞かされても戸惑うだけだろう。
伯爵夫人と異母姉はエリカを散々にいびった。ローズなど子供の頃は平気で暴力を振るってきた。
ただエリカの背を枝鞭で思い切り叩いて傷をつけた時、甘やかされていたローズは初めて父親に激怒された。
以降は派手な暴力をエリカにふるうことは無かった。
漫画内のエリカはその時の事を、唯一父に庇って貰った温かい思い出として認識している。
実際はエリカの女としての商品価値が下がることを危惧してローズを叱ったのだが。
私は少し考えて口を開いた。
「そうね。湿布が傷に染みるかもしれないし。背中の痣は医師に診て貰うことにするわ」
「では家令にそのように伝えてきます」
「大丈夫よ、少しすれば待ち合わせ時間だから。私が直接伝えるわ」
「かしこまりました」
アイリは承諾すると私のむき出しになった背中を戻した。
「湿布は置いたままにしておいて。食器を片付けたら元の業務に戻って大丈夫よ。又呼ぶことがあるかもしれないけれど」
「はい、いつでもお呼びください」
「有難う、この鈴の音が聞こえたら来てくれると助かるわ」
「かしこまりました」
呼び鈴を持って伝える。アイリは深々とお辞儀をしてから食器と共に公爵夫人室を出て行った。
「医師、ねえ……」
私は自分だけの部屋で呟く。アベニウス公爵家のお抱え医師のことを思い出していた。
美貌の医師、レイン・フォスター。
最初からエリカの味方をしてくれる頼れるキャラだ。
「でもセクハラしてくるのよねえ……」
すべすべして綺麗な肌だねとか、若い子の肌はフレッシュで良いねとかそういう感じの事をエリカを診療する度に言ってくるのだ。
そしてケビンがそれに腹を立てて首にしてやろうかと脅すまでが定番のギャグだった。
レインはエリカに恋愛感情を持っていないし、言葉以上のことはしてこない。
ただそういうこと言う医者はちょっと気持ちが悪い。
なので湿布の手当で済むなら医師は呼ばなくていいかと思っていたが。
「……ケビンに付けられた痣だけじゃなく、ローズに鞭打たれた傷も見せられるなら話は別ね」
レインはセクハラ癖に目を瞑れば真面目な医師だ。セクハラしてる時点で台無しだが。
だからエリカの体に加害の痕跡を認めたら、いざという時助けになってくれる可能性がある。
「役に立ってくれそうだけれど、セクハラ発言はどうにかさせたいわね……」
もし原作と同じ展開になるならレインはその悪癖で窮地に陥る羽目になるし。
私は溜息を吐きながらホルガーと会う時間までレインのセクハラ対策を考え続けた。
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