34 / 106
第一部
34.
しおりを挟む
「アルヴァ・アベニウスを知っているかい?」
唐突にケビンの弟の名前を出される。
私はレインからの質問に頷いた。
「ケビン様の弟になる方ですよね。確か既に亡くなられた……」
知っている情報を告げるとレインはよく知っているねと褒めてくれた。
「でも本当は死んでいるかはわからないんだ」
「えっ……」
「アルヴァは突然いなくなったからね。出奔か事故さえわからない」
「なのに死亡扱いされているということは、何年も見つかっていないということですか」
「その通り、十年以上経過している。その間見つかったのは靴だけだ」
「……靴?」
アルヴァは靴を揃えて身投げでもしたのかと思った。
しかしこの世界は屋内でも靴を履いている。わざわざ脱いで投身自殺するだろうか。
(まあ作者が日本人だから、可能性はゼロじゃないけれど……)
今更ながらにおかしな世界に生きているなと実感した。
もしかしたら死んだ直後に見ている夢の中に今の自分は居るのかもしれない。
だとしてもお腹空くし背中をぶつければ痛いし痣にもなるのだけれど。
「何故靴だけは見つかったのですか?」
「湖に浮いていたからだよ。アベニウス公爵家別荘のね」
「別荘の、湖……?!」
それは確かカーヴェルが死亡する場所の筈だ。
彼より前に犠牲者が出ていたなんて初耳だった。
というかそんな危険な場所なら立ち入り禁止にしていて欲しい。
(エリカ、その水を綺麗だって飲もうとしてたわよね)
カーヴェルが安全性が心配だと止めてくれたけど。
でもその時にケビンに貰った髪飾りを落としてしまうのだ。
そして拾おうと足を滑らせた。
「つまり湖に落ちそうになった時に靴が脱げたってことでしょうか?」
「もしくは溺れてもがいている時に靴が脱げたかと言われているよ」
どちらにしろ生々しくて鳥肌が立つ。
つまり原作内ではこの湖でカーヴェルとアルヴァ二人の命が奪われているのだ。
「溺死の可能性が高いから死亡認定も早かったな。大人たちは私のことを考えてとか言っていたけれど……」
「レイン先生の?」
何故ここでレインが話題に出てくるのだろう。確かにアルヴァの親戚ではあるのだろうけれど。
「私とアルヴァは婚約していたからね、私が婚期を逃さないようにという判断らしい。結局私はまだ未婚だけれど」
皮肉気な笑みを浮かべるレインを前に、私は混乱する。
ケビンはリリーが好きで、レインはケビンが好き。
その上でケビンの弟のアルヴァとレインは婚約者だった。
しかもレインはケビンに似た外見だしアルヴァも漫画内で見た限りケビンと似た外見だった。
(下手したらリリー以外全員男性に見えるけど、作者どういう性癖?!)
私が戸惑っているのを察したのか、レインは変な関係に見えるよねと笑った。
「アルヴァは医者を目指していたんだよ。だから医者家系の私と結婚して婿入りするのが一番良いだろうってなったんだ」
「成程、そういう事なら……」
「医者になりたかった理由はリリーの病弱を治す為だったらしいけれど」
ただでさえ面倒臭い関係に更にややこしい情報が追加される。でも正直、薄々は察していた。
アルヴァもリリーに惚れていたんじゃないかと。だからこそアベニウス兄弟の仲は悪化したのではないかと。
沈黙している私にレインは気にしないで良いよと笑う。
「私は別にアルヴァのことを好きでは無かったし、彼がリリー第一な関係でも構わなかったんだ」
まあ貴方もケビンのこと好きですしねと言いそうになって唇を噛みしめた。
「ただ四人で出かけたり、遊ぶ時は疎外感が凄かったね。たとえるなら一人の姫に二人の王子。私は置物みたいだった」
「それは……」
「令嬢たちには笑われて侍女たちは同情して母親は怒ったよ」
令嬢たちの性格悪過ぎてその場で叱り倒したくなった。一方で暇人たちにとっては面白い見世物ではあったのだろうなと悪趣味なことも思う。
美形兄弟が一人の少女を愛して険悪になっているというのは噂話の種火に持ってこいだろう。
巻き込まれたレインはひたすら気の毒だけれど。
「自分が女だから惨めだと思われるんだと男装し始めたら、途端令嬢たちからちやほやされて笑っちゃったな」
レインの人生もしっかり巻き添えで狂わされている。
彼女だって別にドレスが似合わないわけではないのに。
寧ろ最終回で着飾った姿は美女過ぎて別人だった。
アベニウス兄弟やリリーとさっさと離れられたら彼女の人生は大分違っていただろう。
「リリーも男装した私を素敵だと誉めてくれて、それからは無邪気に腕を絡めたり抱き着いてきて……初めて彼女の友達認定されたと思ったよ」
「それは、友達と、いうか……」
「ケビンにもアルヴァにも睨まれたけれどね。当時の彼らは流石にそこまでは許されていなかったらしい」
リリーウィズ拗らせ兄弟に巻き込まれて何から何まで気の毒すぎる。
内心同情する私の耳にレインの呟きが届く。
「でもケビンに……あそこまで意識を向けられたのは嬉しかったんだ」
しっかり拗らせきっていた彼女の言葉を私は聞かなかったことにした。
唐突にケビンの弟の名前を出される。
私はレインからの質問に頷いた。
「ケビン様の弟になる方ですよね。確か既に亡くなられた……」
知っている情報を告げるとレインはよく知っているねと褒めてくれた。
「でも本当は死んでいるかはわからないんだ」
「えっ……」
「アルヴァは突然いなくなったからね。出奔か事故さえわからない」
「なのに死亡扱いされているということは、何年も見つかっていないということですか」
「その通り、十年以上経過している。その間見つかったのは靴だけだ」
「……靴?」
アルヴァは靴を揃えて身投げでもしたのかと思った。
しかしこの世界は屋内でも靴を履いている。わざわざ脱いで投身自殺するだろうか。
(まあ作者が日本人だから、可能性はゼロじゃないけれど……)
今更ながらにおかしな世界に生きているなと実感した。
もしかしたら死んだ直後に見ている夢の中に今の自分は居るのかもしれない。
だとしてもお腹空くし背中をぶつければ痛いし痣にもなるのだけれど。
「何故靴だけは見つかったのですか?」
「湖に浮いていたからだよ。アベニウス公爵家別荘のね」
「別荘の、湖……?!」
それは確かカーヴェルが死亡する場所の筈だ。
彼より前に犠牲者が出ていたなんて初耳だった。
というかそんな危険な場所なら立ち入り禁止にしていて欲しい。
(エリカ、その水を綺麗だって飲もうとしてたわよね)
カーヴェルが安全性が心配だと止めてくれたけど。
でもその時にケビンに貰った髪飾りを落としてしまうのだ。
そして拾おうと足を滑らせた。
「つまり湖に落ちそうになった時に靴が脱げたってことでしょうか?」
「もしくは溺れてもがいている時に靴が脱げたかと言われているよ」
どちらにしろ生々しくて鳥肌が立つ。
つまり原作内ではこの湖でカーヴェルとアルヴァ二人の命が奪われているのだ。
「溺死の可能性が高いから死亡認定も早かったな。大人たちは私のことを考えてとか言っていたけれど……」
「レイン先生の?」
何故ここでレインが話題に出てくるのだろう。確かにアルヴァの親戚ではあるのだろうけれど。
「私とアルヴァは婚約していたからね、私が婚期を逃さないようにという判断らしい。結局私はまだ未婚だけれど」
皮肉気な笑みを浮かべるレインを前に、私は混乱する。
ケビンはリリーが好きで、レインはケビンが好き。
その上でケビンの弟のアルヴァとレインは婚約者だった。
しかもレインはケビンに似た外見だしアルヴァも漫画内で見た限りケビンと似た外見だった。
(下手したらリリー以外全員男性に見えるけど、作者どういう性癖?!)
私が戸惑っているのを察したのか、レインは変な関係に見えるよねと笑った。
「アルヴァは医者を目指していたんだよ。だから医者家系の私と結婚して婿入りするのが一番良いだろうってなったんだ」
「成程、そういう事なら……」
「医者になりたかった理由はリリーの病弱を治す為だったらしいけれど」
ただでさえ面倒臭い関係に更にややこしい情報が追加される。でも正直、薄々は察していた。
アルヴァもリリーに惚れていたんじゃないかと。だからこそアベニウス兄弟の仲は悪化したのではないかと。
沈黙している私にレインは気にしないで良いよと笑う。
「私は別にアルヴァのことを好きでは無かったし、彼がリリー第一な関係でも構わなかったんだ」
まあ貴方もケビンのこと好きですしねと言いそうになって唇を噛みしめた。
「ただ四人で出かけたり、遊ぶ時は疎外感が凄かったね。たとえるなら一人の姫に二人の王子。私は置物みたいだった」
「それは……」
「令嬢たちには笑われて侍女たちは同情して母親は怒ったよ」
令嬢たちの性格悪過ぎてその場で叱り倒したくなった。一方で暇人たちにとっては面白い見世物ではあったのだろうなと悪趣味なことも思う。
美形兄弟が一人の少女を愛して険悪になっているというのは噂話の種火に持ってこいだろう。
巻き込まれたレインはひたすら気の毒だけれど。
「自分が女だから惨めだと思われるんだと男装し始めたら、途端令嬢たちからちやほやされて笑っちゃったな」
レインの人生もしっかり巻き添えで狂わされている。
彼女だって別にドレスが似合わないわけではないのに。
寧ろ最終回で着飾った姿は美女過ぎて別人だった。
アベニウス兄弟やリリーとさっさと離れられたら彼女の人生は大分違っていただろう。
「リリーも男装した私を素敵だと誉めてくれて、それからは無邪気に腕を絡めたり抱き着いてきて……初めて彼女の友達認定されたと思ったよ」
「それは、友達と、いうか……」
「ケビンにもアルヴァにも睨まれたけれどね。当時の彼らは流石にそこまでは許されていなかったらしい」
リリーウィズ拗らせ兄弟に巻き込まれて何から何まで気の毒すぎる。
内心同情する私の耳にレインの呟きが届く。
「でもケビンに……あそこまで意識を向けられたのは嬉しかったんだ」
しっかり拗らせきっていた彼女の言葉を私は聞かなかったことにした。
1,659
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる