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第一部
33.
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レインとの会話が一段落ついたところで考える。
今のところケビンは部屋に突撃して来ない。
恐らくこの公爵夫人室は地下牢みたいに盗聴や監視可能ではないのだろう。
私がそう思うのは他にも理由がある。
原作「一輪の花は氷を溶かす」では中盤ぐらいからエリカもケビンへの恋心を強く自覚する。
そしてその前からケビンはエリカに対し独占欲と恋心を抱いている。
しかし二人は恋人同士にはならない。何故ならどちらも告白しないからだ。
クライマックスまで延々と両片思い状態を続けている。
エリカは度々今私が居る公爵夫人室でケビンへの恋心を口にする。
公爵様になら何をされても構わないのにといった大胆な発言までしてしまう。
なのにケビンは最終回付近までエリカに手を出さない。
結婚前にリリーを妊娠させた彼がだ。
それどころかエリカが他の男に惚れているのではないかとちょくちょく不安がったり嫉妬する。
(つまりケビンはエリカの自室での独り言を全く知らないってことよね)
なので今私がレインとしている会話も聞かれていないと考えることにする。
そんなことを今更考えるのは、ここから先の会話がケビンの地雷を踏み抜く可能性が高いからだ。
私は念のため扉を開けて廊下を見渡す。無人だった。
「どうしたんだい?」
不思議そうにレインが首を傾げる。
確かにおかしな行動だっただろう。私は素直に理由を言った。
「今から余り人に聞かれたくない話をするつもりなので」
「……先程までの話より?」
「はい、それらよりずっと」
私の言葉にレインが表情を強張らせる。
可能なら逃げたいと思っているかもしれない。だが逃がす訳にはいかない。
レインはケビンの親戚で彼の過去をある程度知っていて、まともな会話が出来そうな人物なのだ。
「マーベラ夫人はケビン様とリリー様の子供二人を、昔の兄弟のようにしたくないと言っていました」
「レオとロンを?」
「その為に兄は王様、弟は奴隷だと教育したのだと最後まで言い張っていて、何故そこまでしたのかが知りたいのです」
「……マーベラ夫人も精神的に問題が生じている可能性があるね。そこまで衝撃的だったのかもしれないけれど」
レインは暗い表情で呟く。マーベラ夫人の精神には確実に問題が生じていると思う。
ただ彼女は医師という職業柄か診察していない相手に対し断定ができないのかもしれない。
「あくまで素人目線ですがマーベラ夫人の精神も治療が必要な状態だと思います。ただケビン様が治療費を出すかは……」
「出さないだろうね。彼は昔からマーベラ夫人が苦手だった。だから自分の子供たちの家庭教師に彼女を選んだのは驚いたよ」
「リリー様が推薦したと仰っていました。過去の事件でマーベラ夫人が可哀想だったからと」
「あの人が……いや、彼女ならするかもしれないな。この世に悪人なんていないという考えの人だったし」
「……リリー様はまるで聖女みたいな女性だったのですね」
私はげんなりした気持ちを隠しもせず言う。
リリーという人間は善人しかいない無菌室で暮して来たのか、それとも余程人の悪意に鈍感なのか。
私の言葉にレインは苦笑いを浮かべようとして、失敗したような表情をした。
「聖女、そうだね。聖女だとか女神だとか良く言われていたな。確かに優しい人には見えたよ」
でも何を考えているかはわからなかったな。遠い目をしてレインは言う。
私はケビンの部屋に飾ってあったリリーの肖像画を思い出した。
優し気に微笑む女性は美しかったが、実際優しいかなんてわからない。
「ケビンには激怒されると思うし私の妬みかもしれないけれど、彼女の優しさが争いを深刻化させた気がする」
「……争いとは?」
「兄弟喧嘩、かな」
私が聞き返すとレインは口だけで笑った。そして立ち上がると扉を開いて又閉じた。
先程私がしたのを全く同じことだ。
つまりレインは今からケビンに聞かれたくない話をするつもりなのだ。
それはきっと聞かれたくないけれど誰かに話したくて堪らなかった話でもあるのだろう。私は姿勢を正した。
今のところケビンは部屋に突撃して来ない。
恐らくこの公爵夫人室は地下牢みたいに盗聴や監視可能ではないのだろう。
私がそう思うのは他にも理由がある。
原作「一輪の花は氷を溶かす」では中盤ぐらいからエリカもケビンへの恋心を強く自覚する。
そしてその前からケビンはエリカに対し独占欲と恋心を抱いている。
しかし二人は恋人同士にはならない。何故ならどちらも告白しないからだ。
クライマックスまで延々と両片思い状態を続けている。
エリカは度々今私が居る公爵夫人室でケビンへの恋心を口にする。
公爵様になら何をされても構わないのにといった大胆な発言までしてしまう。
なのにケビンは最終回付近までエリカに手を出さない。
結婚前にリリーを妊娠させた彼がだ。
それどころかエリカが他の男に惚れているのではないかとちょくちょく不安がったり嫉妬する。
(つまりケビンはエリカの自室での独り言を全く知らないってことよね)
なので今私がレインとしている会話も聞かれていないと考えることにする。
そんなことを今更考えるのは、ここから先の会話がケビンの地雷を踏み抜く可能性が高いからだ。
私は念のため扉を開けて廊下を見渡す。無人だった。
「どうしたんだい?」
不思議そうにレインが首を傾げる。
確かにおかしな行動だっただろう。私は素直に理由を言った。
「今から余り人に聞かれたくない話をするつもりなので」
「……先程までの話より?」
「はい、それらよりずっと」
私の言葉にレインが表情を強張らせる。
可能なら逃げたいと思っているかもしれない。だが逃がす訳にはいかない。
レインはケビンの親戚で彼の過去をある程度知っていて、まともな会話が出来そうな人物なのだ。
「マーベラ夫人はケビン様とリリー様の子供二人を、昔の兄弟のようにしたくないと言っていました」
「レオとロンを?」
「その為に兄は王様、弟は奴隷だと教育したのだと最後まで言い張っていて、何故そこまでしたのかが知りたいのです」
「……マーベラ夫人も精神的に問題が生じている可能性があるね。そこまで衝撃的だったのかもしれないけれど」
レインは暗い表情で呟く。マーベラ夫人の精神には確実に問題が生じていると思う。
ただ彼女は医師という職業柄か診察していない相手に対し断定ができないのかもしれない。
「あくまで素人目線ですがマーベラ夫人の精神も治療が必要な状態だと思います。ただケビン様が治療費を出すかは……」
「出さないだろうね。彼は昔からマーベラ夫人が苦手だった。だから自分の子供たちの家庭教師に彼女を選んだのは驚いたよ」
「リリー様が推薦したと仰っていました。過去の事件でマーベラ夫人が可哀想だったからと」
「あの人が……いや、彼女ならするかもしれないな。この世に悪人なんていないという考えの人だったし」
「……リリー様はまるで聖女みたいな女性だったのですね」
私はげんなりした気持ちを隠しもせず言う。
リリーという人間は善人しかいない無菌室で暮して来たのか、それとも余程人の悪意に鈍感なのか。
私の言葉にレインは苦笑いを浮かべようとして、失敗したような表情をした。
「聖女、そうだね。聖女だとか女神だとか良く言われていたな。確かに優しい人には見えたよ」
でも何を考えているかはわからなかったな。遠い目をしてレインは言う。
私はケビンの部屋に飾ってあったリリーの肖像画を思い出した。
優し気に微笑む女性は美しかったが、実際優しいかなんてわからない。
「ケビンには激怒されると思うし私の妬みかもしれないけれど、彼女の優しさが争いを深刻化させた気がする」
「……争いとは?」
「兄弟喧嘩、かな」
私が聞き返すとレインは口だけで笑った。そして立ち上がると扉を開いて又閉じた。
先程私がしたのを全く同じことだ。
つまりレインは今からケビンに聞かれたくない話をするつもりなのだ。
それはきっと聞かれたくないけれど誰かに話したくて堪らなかった話でもあるのだろう。私は姿勢を正した。
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