神に祝福された善良なるおっさん、破壊と創造の魔法で人生やり直します!

厳座励主(ごんざれす)

文字の大きさ
21 / 26

第21話 初デート

しおりを挟む
 アグネアの街、広場。
 昼下がりの陽ざしが石畳を照らし、花屋の甘い香りが風に乗って流れてくる。
 そんなのどかさとは裏腹に、俺の胸の奥はざわついていた。

「まず褒め、半歩前、ドアを開ける、感想と共感……褒める、半歩前……」

 出発前にリュミナから教わったことを反芻する。
 必死に自分に言い聞かせていると、通りの向こうに女性の姿が見えた。

「っ……!」

 マリアだ。
 淡い薄緑のワンピースに、いつもより髪をゆるくまとめている。
 春の光を受けて、琥珀の瞳が柔らかくきらめいた。
 制服姿のときよりずっと大人びて見えて、俺の頭は真っ白になった。
 彼女は俺の姿を見つけると、パタパタと小走りで向かってきた。

「ランドさん! すみません、お待たせしました」
「い、いえっ、俺も今来たところで!」

 慌てて姿勢を正す。
 喉がカラカラに乾いて声が上ずる。
 マリアが小さく笑った。
 そのとき、頭の中でリュミナの声が響く。
 
 ――会ったらまず褒める!

「……に、似合ってます」
「え?」
「すごく、似合ってます!」
「……何が、ですか?」
「え、ええと……全部が! 服も髪型も全部がです!」

 思わず声が裏返った。
 恥ずかしさで耳まで熱くなる。
 マリアは目を丸くしたあと、ふっと笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。ランドさんも、素敵ですよ」
「そ、そうですか……?」
「ええ。いつもより、少し……大人っぽく見えます」

 大人っぽい。
 その言葉に、胸の奥が少し温かくなった。

「それじゃ、行きましょうか。ええと、花屋の向かいのカフェでしたよね」
「あっ――」

 マリアが歩み出そうとする。
 そのとき、再びリュミナの声。
 ――半歩前を歩く!

「ここは俺が先に!」
「え、ええ……お願いします」
「はい。さ、行きましょう!」

 俺は彼女の斜め前に立ち、歩みを進めた。
 つかず離れず、一定の距離感を保ちながら。



------



 カフェのテラス席。
 木漏れ日がテーブルを染め、紅茶の香りが風に混ざって漂う。
 俺は完璧なエスコートを心がけた。
 カフェに入る時には扉を開け、席では椅子を引き、メニューを差し出した。
 マリアはそれらの行為を一通り体感し、困ったような笑顔で言った。

「そんなに気を張らなくてもいいんですよ」
「い、いえ。今日は精一杯、マリアさんをエスコートさせていだたきますから」

 言ったあとで、自分でも顔が熱くなった。
 マリアは驚いたように瞬きをして、すぐに穏やかに微笑んだ。

「……ふふ。嬉しい言葉ですね」

 その笑顔に、少しだけ肩の力が抜けた。
 会話はゆっくりと続き、カップの音が静かに響いた。



------



 食後、二人で街を歩いた。
 昼下がりの通りには、屋台の焼き菓子の匂いと、子どもたちの笑い声。
 どこにでもある平和な光景。
 けれど、それが妙に眩しく感じた。

「本当にいい街ですね」
「ええ。これも冒険者の方々が、市民のために頑張ってくださってるおかげですよ」

 マリアはそう言って、風に髪を揺らした。

「だとしたら、それは冒険者だけじゃなく、ギルドの職員の皆さんの力でもありますよ」
「……もう。ランドさんは、本当に嬉しいことばかり言ってくれますね」
「え、だってそうですよ。依頼の取りまとめや適切な危険度設定、情報収集も……。実際に現地で力を奮うのは俺たちですけど、その力を最大限発揮できるよう、頑張ってくれてるじゃないですか」

 俺がそう言うと、マリアはととっと数歩前に出て、こちらを振り返った。

「そう思っていただいて、ありがとうございます。……これからも、ランドさんのお力になれるよう、頑張りますね」
「え、あ、いや、俺っていうか……あ、ありがとうございます」

 顔がぼうっと熱くなる。
 俺はマリアの横に並んで、通りを歩いた。
 歩くうちに、花屋の前でマリアの足が止まった。
 彼女の視線の先には、橙と白の花束。
 その表情が一瞬だけ、かげった。そして目を伏せ、そっと微笑み直す。
 けれどその笑顔の奥に、何か遠いものがちらりと見えた。

「……疲れましたか?」
「っ……いえ、なんでもないですよ。すみません」
「そうですか……」

 俺はそれ以上、言葉を探せなかった。
 マリアさんも、何かを言いかけてやめた。
 春の風が吹き抜け、花びらが二人の間を通り過ぎていく。

 それからの時間は、どこかぎこちなかった。
 言葉を選びすぎて、沈黙ばかりが残る。
 優しさと不安が交錯するような、落ち着かない静けさだった。



------



 夕方。
 沈みゆく陽光が街をオレンジに染め、遠くで鐘が鳴った。
 ギルドの前に戻ったとき、マリアさんが小さく息を吐く。

「今日は……楽しかったです」
「俺もです。本当にありがとうございました。……また、いつか誘ってもいいでしょうか……!」
「ええ。……いつか」

 マリアさんは軽く会釈をして、街角のほうへ歩き出した。
 その背中が人混みに紛れて見えなくなるまで、俺は立ち尽くしていた。
 楽しかったはずなのに、なんで、こんなに心がざわつくんだろう。
 胸の奥が、少しだけ痛かった。

「――よお、初デートの出来はどうだ?」

 低く響く声。
 振り返ると、ギルド支部長のドレイクが壁にもたれていた。
 腕を組み、いつもより真剣な顔をしている。

「し、支部長……? いつからそこに」
「さっきだ。その様子だと、良くもなく悪くもなく……ってところか」

 なぜわかるんだろう。
 そんなに表情に出ていたんだろうか。

「……少し、話がある。マリアのことだ」

 その声は、冗談めいた響きを一切含んでいなかった。
 胸の鼓動がゆっくりと強くなる。
 笑顔も言葉も出せないまま、俺はただ、支部長と目を合わせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

処理中です...