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第五章ー聖女と魔法使いとー
2人が知らない事
しおりを挟むそれから、パルヴァン邸迄の帰り道にあるパン屋さんでパンを買って、パルヴァン邸に帰った。
「今日はハル殿の体調の事もあったから馬車にしたけど、また一緒に愛馬にも乗ってくれるだろうか?」
「…ノア…」
ーうん。ノアは…嫌いじゃない。嫌いじゃないけどー
「ひょっとして、馬は嫌…だったんだろうか?」
「嫌じゃないんです!逆にノアは好きです!」
「良かった。じゃあ、またノアを連れて来る。」
と、またまたニッコリと微笑むカルザイン様。
ーあれ?最近このパターン多くない?私…嵌められてるよね?私…チョロ過ぎる…よね?ー
好きだと自覚したら、尚更断れなくなった…ような気がするなぁ…。一緒にいる事が…嬉しいと思うから…。
チラリとカルザイン様を盗み見る。
近衛騎士であり貴族であるカルザイン様。そろそろ婚約者ができても不思議じゃない。それまででも良いから、こうやって一緒に居る事くらいは…許されるかな?
いや…私とこうやって2人きりで居る事で、変な噂が出てカルザイン様にキズが付くんじゃない?やっぱり、二人きりって…良くないんじゃないない?
と、悶々としているうちにパルヴァン邸に到着した。
何故か、皆がお母さんみたいに微笑ましい笑顔で出迎えてくれた。
そのまま、サロンで買って来たパンをカルザイン様と一緒に食べた。
「一度、家に帰って色々準備をしてから、また来ます。」
と言って、カルザイン様はパルヴァン邸を後にした。
「“また来ます”?」
ー何故?またパルヴァン邸に来るの?ー
と不思議に思っていると
「暫くの間、カルザイン様が我が邸でお過ごしになるからです。」
「お過ごしになる!?」
ーそんな事、全く聞いてませんけど!?ー
ロンさんの言葉に驚いて、後ろに居るロンさんを振り返った。
「聞いてませんでしたか?こちらでお過ごしになる事は…父君であるルイス=カルザイン第一騎士団長からも、前もってお願いの手紙が届いております。」
「…えっと…そこまで…必要ですか?私…元気…だと思うんですけど…」
本当に、申し訳無いんですけど?と、焦る私とは逆で、ロンさんもルナさんもリディさんもニッコリ微笑んでいる。
「ハル様は何も気にする必要はありませんよ?“付き添い”とは…だいたいそう言うものですから。」
と、ルナさん。
「カルザイン様も、嫌などと思っていないと思いますから、大丈夫ですよ?」
と、リディさん。
「そう…なんです…ね?」
ー何だろう…逆らってはいけない気がするー
あー…丁度良い。この世界での異性との付き合い方のルールが変わっていないか、確認してみよう。
「ルナさん、リディさん、ちょっと時間ありますか?」
と声を掛け、カルザイン様が戻って来る迄の間、こちらの世界のルールについて、再確認をした。
*ハルが寝た後、使用人達の談話室にて*
ルナ、リディ、ロン、クロエが椅子に座り、お茶を飲んでいる。
「今日のハル様は一段と可愛かった…」
「可愛かったと言うか…あそこまで純粋だと、本当に心配になりますよね…。」
『カルザイン様が、私と二人で行動する事で、カルザイン様にキズがつきませんか?』
「って…」
いや、それは逆だ。カルザイン様がハル様を逃がしたくなくて、外堀をガッツリ埋めにかかっているのだ。そこに、親であるルイス第一騎士団長も加わったようだ。勿論、我等が主、グレン様とシルヴィア様も後押ししている。
そう─。もうハルはエディオル=カルザインからは…逃れられない状態になっているのだ。
それを知らない、気付いていないのはハルだけである。
「でも、ハル様も、ようやく自覚されたみたいですね。顔を真っ赤にしてカルザイン様の話をするハル様は、本当に可愛かった…」
「あのゼンが、可愛がっていると聞いて驚いたが…納得だな。」
「ハル様…本当にリスみたいですからね…お義父さんからしたら…癒しであり絶対に守るべき者でしょうね。女の私から見ても、守らなきゃって思っちゃうくらい…ハッキリ言って、チョロい程のお人好しだから…。その上容姿がまた可愛いから、本当に…色々心配になるのよね…。カルザイン様も…大変だろうな…って思うわ。」
「「「あー、それね(な)」」」
「でも、今日のカルザイン様も笑顔でしたね。あれ、本当に“氷の近衛騎士”と呼ばれてる人ですか?」
「ここでは通用しない呼び名ですよねー。」
女嫌いで有名な“氷の近衛騎士”。そんな騎士が、最近ではある特定の女性と二人きりで居る所をよく目撃されているのだが、“氷”の筈が、蕩けるような顔でその女性を見詰めている─。それを知ったご令嬢達の対応は、概ね三つに別れる。
ー1ー
“氷の近衛騎士”が、遂に恋に落ちた─と、婚約者の座を狙っていたが、あれは勝てない─と、諦める。
ー2ー
あれ程優しく微笑む事が出来るようになったのなら、自分にもチャンスがあるのでは?と、逆に猛アピールを始める。
ー3ー
そんな2人を愛でる。
である。これを知らないのは…当の本人達である2人だけである。
「まぁ…兎に角、ハル様がこの世界で幸せになれるように見守りましょう。」
そして、今日も夜は更けていった。
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