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第五章ー聖女と魔法使いとー
ラスボス?
しおりを挟むパルヴァン邸で安静にして3日目。
私は今、レフコースと一緒に広い庭を散歩している。カルザイン様は今、あの魔導師の件で王城に行っている。
「パルヴァン邸にも、色んな色のかすみ草が生ってるんだ…」
後で、部屋に飾って良いか聞いてみようかな─と思っていると
「切って、ハル様のお部屋に飾りましょうか?」
「──へっ?」
急に、背後から声が掛かった─けど…この声って…と振り返ると
「ゼンさん!?」
何故か、領地で留守番?をしている筈のゼンさんが立っていた。
「お久し振りですね。ハル様が倒れたと…聞きましたが…お元気そうで良かったです。」
「本当に、お久し振りです。私はこの通り元気ですよ?皆が心配し過ぎなだけですよ?」
とニッコリ笑えば、ゼンさんも優しく笑ってくれた。
「えっと、ところで…会えて嬉しいんですけど、どうして王都に?」
領地にはパルヴァン様が帰ったから、ゼンさんが領地に居なくても…大丈夫なんだろうけど。王都に何か用事でもあるんだろうか?
「少し…王城に用がありまして…グレン様の許可を得て来ました。数日程、こちらに滞在します。」
ーうん?何となく…背中がゾクッとするけど、気のせいかなぁ?ー
「そうなんですね。私も、また明日か明後日には登城すると思うので、一緒ですね?」
と言うと、ゼンさんは「そうですね」と言って、ダンディー然りな微笑みを浮かべた。
「ゼン殿…予想通りだが…早かったな…」
お昼の時間になると、カルザイン様が王城から帰って来た。そして、ゼンさんの姿を認めると、心なしか少し引き攣った様な顔をした。
「いえいえ、少し…遅くなってしまいました。少し…処置に時間を要しまして…。」
「…そう…か…」
ー何だろう…やっぱり背中がスースー?ゾワゾワ?するのは…気のせい…うん。気のせいだよねー
「あー…カルザインさ─」
「ん?」
「…カ…エディオル様…お帰りなさい。えっと…どうでしたか?」
ー何となく…何となく、ゼンさんの前で名前呼びをするのが、いつもの倍程恥ずかしい!ー
と、あわあわと顔を赤くする私を、ゼンさんは優しい顔で見ていた。
「あぁ、その事なんだが…丁度良い。ゼン殿にも聞いてもらいたい。後でグレン様にも連絡をした方が…良いと思う。」
「では、昼食後にお聞き致します。先ずは、昼食に致しましょう。」
「それで…お話とは?」
昼食後、ゼンさんがサロンにお茶を用意してくれていた。そして、3人だけだからと、ゼンさんにも椅子に座ってもらった。
「結論から先に言うと、ハル殿が明日、あの時の魔導師と面会する事になった。」
「…あの時の魔導師…」
ゼンさんが小さい声で囁くと同時に、ゼンさんの雰囲気がガラリと変わる。
「何故…ハル様が面会に?」
スッと細めた目でエディオル様を見据えるゼンさん。
「あ、それについては、私から説明します。」
恐る恐るゼンさんに話し掛けると、ゼンさんは、私にはいつもと同じ様に優しい目を向けてくれた。
「成る程…ハル様と同郷かもしれないと…。」
「はい。今回調べている事とは関係が無いかもしれないんですけど、確認して悪い事は無いと思うので…。それで、私からお願いしたんです。」
ゼンさんは少し思案した後、少し困ったような顔をして
「それで、ハル様は大丈夫なんですか?牢屋に入れられて、手を出される事はないと思いますが…相手はあの時の魔導師でしょう?今回倒れたのも…それが原因と聞きましたが…。」
「そう…ですね…。正直に言うと、怖くないと言えば嘘になりますけど…。でも…えっと…そのー…」
「「?」」
「…カル…エディオル様が…一緒に…付き添いで居てくれるので…あの…大丈夫だと…思い…ます。勿論!レフコースもいるので!!」
ー私、頑張って言い切りましたよ!ー
握り拳を作ってぐぐっと力を入れたポーズの私の足元では、レフコースが丸まったまま尻尾をフリフリしている。
エディオル様は、一瞬キョトンとした後、片手で顔を覆って何やら呻いている。
ゼンさんも一瞬固まった後、優しく微笑んで
「そうですか。それなら…良いのですが…。でも、無理はしないで下さいね。」
と、更にニコリと笑った。
ーパルヴァン様と言い、ゼンさんと言い…本当に…お父さんって感じで…ほっこりするなぁー
*ハルが寝た後、執務室にて*
「女嫌いの“氷の近衛騎士”とは思えない程に…手際がよろしくて…驚きました。」
と、ゼンはニッコリ微笑みながら、目の前に座っているエディオルを見据える。
「王都では、あの氷の近衛騎士が遂に恋に落ちたと…噂になっていましたよ。しかも、ハル様が“エディオル様”とまさかの名前呼び。あぁ…きっと、ハル様は深くは考えていないでしょうけどね?聞くところによると、ルイス様もノリノリだそうですね?もう、ハル様は逃げられない状態ですね?」
「……」
ー最大の障壁は…グレン様ではなく、ゼン殿だったのか?ー
軽くだが、ゼン殿が威圧を掛けて来たが…
「はぁー…。エディオル様、すみません。」
そう言うと、威圧感が無くなり、ゼン殿が困ったように笑う。
「グレン様と私の命の恩人云々は抜きにしても─いつも笑顔のハル様が本当に可愛らしくて、自分の事より他人を優先するハル様を守ってあげなければと思っていました。元の世界に還れなくなった時も…ハル様は泣きませんでした。元の世界の話も…家族の話すら…聞いた事がありません。だから、私は、その分、ハル様を娘のように…見守っていこうと…思っておりました。」
「ゼン殿…」
「ですから─」
ゼン殿の話を聞き、少し切ない気持ちになり掛けたが…また一瞬にしてゼン殿の雰囲気が一変する。
「俺は、ギデルとあの魔導師が…どうしても赦せないんだよね。あぁ、第一にも行くけどね?第一も、ちょっと腑抜けたよね?腑抜けた分絞めないとね?」
「……」
「──と言う事で、明日はエディオル様達と一緒に登城させて頂きますので、宜しくお願い致します。」
「…あ…あぁ…分かった。こちらこそ…宜しく頼みます…。」
ーやっぱり、色んな意味でのラスボスは…ゼン殿だったな。父上…本当に…御愁傷様ですー
そして、今日も夜は更けていった──。
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