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第23話 カルヴィンの救済 -2-
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ようやくカルヴィンはエリーゼの部屋を訪ねた。ノックはしたが、返事を待たずにドアを開ける。
「旦那さま」
かすれた声。
エリーゼはベッドから体を起こした。泣きはらしたのか、瞼は腫れ、頬には涙の跡があった。こんなに憔悴しているところは初めて見た。
カルヴィンは寝台の端に腰を下ろす。
「悩んでいることがあるのなら話してくれ。家族として支え合おうと約束したじゃないか」
「……言えません」
エリーゼはうつむき唇をかみしめていた。何も話す気はないらしい。しかし、妻を詰めて無理矢理聞き出すことはしたくない。
仕方がない。
「これは僕の独り言だ。大火災でグッドウィン酒造所は全焼してしまったそうだ。いま、社長とその息子が金策に駆けずり回っているようだが、出資者探しは難航しているらしい。このままでは再建は不可能だろう。莫大な借金を抱えて倒産するのは時間の問題だ」
エリーゼは両腕で自分の体を抱きしめて、か細い声で呟く。
「神様から罰が下されたのでしょうか。わたしが旦那さまを裏切るような愚か者だから。……離縁される覚悟はできております」
「離婚などしない」
「旦那さま……? 怒らないのですか?」
「僕に君を責める資格があると思うか? 結婚しながらもずっと兄嫁に懸想していた男だぞ?」
「わたし、ノアに会いに行ったこと後悔しています。旦那さまに申し訳なくて、合わせる顔がありませんでした」
カルヴィンは俯くエリーゼの頬にそっと手を添えた。
「申し訳ないと感じたということは、少しは僕を愛してくれているの?」
「はい、旦那さまをお慕いしています。でも、わたしなんかが愛という言葉を使ってもいいのでしょうか」
エリーゼを抱き寄せ、髪を梳くように撫でる。
「頼むから、もう自分を責めないでくれ」
「わたしを許してくださるんですか?」
「初めから怒ってなどいないよ。妬いてはいるけどね。あの男が君に触れたかと思うとぶん殴ってやりたくなる」
「温厚な旦那さまでもそんな風にお考えになることがあるのですね」
エリーゼの頬が少し緩んだ。
「ようやく笑ってくれたね」
カルヴィンがつむじに口づけると、紺碧の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「旦那さま、ごめんなさい、ごめんなさい」
「もういいんだよ」
カルヴィンに縋りつきながら子供のように泣きじゃくるエリーゼを包み込むように抱きしめる。そして泣き止むまで、やさしく背中をなで続けた。
「君はどうしたい?」
「わたしが、ですか?」
「僕は君の夫だ。妻の願いを叶えたいと思っている。だから、エリーゼ、君はただ僕に頼んでくれればいいんだ」
「旦那さま……」
エリーゼはカルヴィンを見つめた。
「お願いです、ノアを、彼を助けてあげてください」
「ああ、わかったよ。君の言う通りにしよう」
聖ユリダリス学院時代の元同級生たちからの聞き取り調査によると、ノア・グッドウィンはエリーゼを本当に大切にしていたようだ。
大勢の女子生徒の中から、おとなしく目立たなかったエリーゼを見出したノアの慧眼に感心する声も多かった。
多感な思春期を共に過ごし、お互いに影響を与えあった結果、今のエリーゼがある。
そして、関係が終わったとしても、エリーゼにとってノアは特別な存在であり続けるのだろう。カルヴィンにとってミーシャがそうであるように。
愛してはいなくても、苦しんでいると知ってしまったら、決して見捨てることなどできない。
相手の男が遊び半分でエリーゼに手を出したのなら徹底的に潰してやろうと思っていたが、今では同じ女性を愛したノアに対して、おかしな話だが親近感すら抱いていた。
嫉妬しているのも、殴ってやりたいと思ったのも本心だ。ノアに報復するのは簡単だ。今、どん底にいるであろうあの男を、さらに悪い状況に追いやるのも容易い。だが、それではノアの妊娠中だという妻にも累が及んでしまう。それは本意ではない。妻はもちろんお腹の子供も守られるべき存在だ。
ノア・グッドウィンへの対応は決まった。
そしてもう一人、救い出さなければはならない人がいる。
「旦那さま」
かすれた声。
エリーゼはベッドから体を起こした。泣きはらしたのか、瞼は腫れ、頬には涙の跡があった。こんなに憔悴しているところは初めて見た。
カルヴィンは寝台の端に腰を下ろす。
「悩んでいることがあるのなら話してくれ。家族として支え合おうと約束したじゃないか」
「……言えません」
エリーゼはうつむき唇をかみしめていた。何も話す気はないらしい。しかし、妻を詰めて無理矢理聞き出すことはしたくない。
仕方がない。
「これは僕の独り言だ。大火災でグッドウィン酒造所は全焼してしまったそうだ。いま、社長とその息子が金策に駆けずり回っているようだが、出資者探しは難航しているらしい。このままでは再建は不可能だろう。莫大な借金を抱えて倒産するのは時間の問題だ」
エリーゼは両腕で自分の体を抱きしめて、か細い声で呟く。
「神様から罰が下されたのでしょうか。わたしが旦那さまを裏切るような愚か者だから。……離縁される覚悟はできております」
「離婚などしない」
「旦那さま……? 怒らないのですか?」
「僕に君を責める資格があると思うか? 結婚しながらもずっと兄嫁に懸想していた男だぞ?」
「わたし、ノアに会いに行ったこと後悔しています。旦那さまに申し訳なくて、合わせる顔がありませんでした」
カルヴィンは俯くエリーゼの頬にそっと手を添えた。
「申し訳ないと感じたということは、少しは僕を愛してくれているの?」
「はい、旦那さまをお慕いしています。でも、わたしなんかが愛という言葉を使ってもいいのでしょうか」
エリーゼを抱き寄せ、髪を梳くように撫でる。
「頼むから、もう自分を責めないでくれ」
「わたしを許してくださるんですか?」
「初めから怒ってなどいないよ。妬いてはいるけどね。あの男が君に触れたかと思うとぶん殴ってやりたくなる」
「温厚な旦那さまでもそんな風にお考えになることがあるのですね」
エリーゼの頬が少し緩んだ。
「ようやく笑ってくれたね」
カルヴィンがつむじに口づけると、紺碧の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「旦那さま、ごめんなさい、ごめんなさい」
「もういいんだよ」
カルヴィンに縋りつきながら子供のように泣きじゃくるエリーゼを包み込むように抱きしめる。そして泣き止むまで、やさしく背中をなで続けた。
「君はどうしたい?」
「わたしが、ですか?」
「僕は君の夫だ。妻の願いを叶えたいと思っている。だから、エリーゼ、君はただ僕に頼んでくれればいいんだ」
「旦那さま……」
エリーゼはカルヴィンを見つめた。
「お願いです、ノアを、彼を助けてあげてください」
「ああ、わかったよ。君の言う通りにしよう」
聖ユリダリス学院時代の元同級生たちからの聞き取り調査によると、ノア・グッドウィンはエリーゼを本当に大切にしていたようだ。
大勢の女子生徒の中から、おとなしく目立たなかったエリーゼを見出したノアの慧眼に感心する声も多かった。
多感な思春期を共に過ごし、お互いに影響を与えあった結果、今のエリーゼがある。
そして、関係が終わったとしても、エリーゼにとってノアは特別な存在であり続けるのだろう。カルヴィンにとってミーシャがそうであるように。
愛してはいなくても、苦しんでいると知ってしまったら、決して見捨てることなどできない。
相手の男が遊び半分でエリーゼに手を出したのなら徹底的に潰してやろうと思っていたが、今では同じ女性を愛したノアに対して、おかしな話だが親近感すら抱いていた。
嫉妬しているのも、殴ってやりたいと思ったのも本心だ。ノアに報復するのは簡単だ。今、どん底にいるであろうあの男を、さらに悪い状況に追いやるのも容易い。だが、それではノアの妊娠中だという妻にも累が及んでしまう。それは本意ではない。妻はもちろんお腹の子供も守られるべき存在だ。
ノア・グッドウィンへの対応は決まった。
そしてもう一人、救い出さなければはならない人がいる。
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