限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら

フオツグ

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限界オタクと推しとメインキャラと。

ゾンビ男子、住処へ案内する

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 おんぼろ橋が壊れないよう、一人ずつ橋を渡った。
 暫く森を進むと、ノヴァの住処である塔の下へと辿り着いた。
 スコルピオンは塔を見上げた。

「【墓場の森】にこんなところが残っていたとは……」
「昔はこの森も人間の領地じゃった。おんぼろ橋も、この塔も、人間の作ったものじゃ。今や、ゾンビが蔓延る地。昔の人々はこの地を打ち捨てる他なかったのじゃ」

 塔に近づくと、ボコッ、ボコッと、地面から無数の手が飛び出す。
 塔の下に住み着くゾンビ達だ。

「ゾンビ……!」

 リブラとスコルピオンが身構える。

「よーお、元気にしてたかァ? お前ら」

 ノヴァはへらへらと笑いながら、ゾンビ達に歩み寄った。
 リブラは驚いたようにノヴァを見る。

「ノヴァ? 一体何を──」
「あー、のゔぁさまだー」

 ゾンビ達は「のゔぁさま」と言いながら、ノヴァに近寄る。

「のゔぁさま、おかえりー」
「ああ、ただいま。何もなかったか?」

 ノヴァは笑顔で答える。

「なにもないー」
「あじと、まもってたー」
「はは。守っててくれてありがとうな」

 ノヴァは子供のゾンビの頭を撫でる。

「ほめられたー」
「べんきょう、おしえてー」
「勉強はまた今度な。今日はお客さんが来てるから」

 ノヴァは後ろの三人に目を向ける。

「おきゃくさんー?」
「にんげんだー」
「にんげんかむー。なかまにするー」

 ゾンビ達の無邪気で恐ろしい言葉に、リブラとスコルピオンはぎょっとする。
 ノヴァは落ち着いた様子で言った。

「噛むの駄目だぞ。大事なお客さんだから」
「おきゃくさん、かまないー」
「わかったー」

 ゾンビ達は手を上げて、理解を示す。

「……驚いたのう。知性のないゾンビでも、意思の疎通が出来るなど」

 シュタインボックがゾンビ達をまじまじと見て、そう言った。

「まあ、会話が出来るのはほんの一人握りですよ。他のゾンビはほとんど話せません」
「話せるゾンビと話せないゾンビ。一体、何の違いがあるのじゃろうか……」
「どうやら欠損が多いと、知能が低くなるみたいです。ここらへんにいる奴はみんな綺麗に残ってるでしょう?」

 シュタインボックはゾンビを眺める。
 ここにいるゾンビ達は、ところどころ体が欠けているが、四肢は揃っているようだ。

「ふむ。確かに……」
「あとは、ゾンビになるタイミングですね。生前、ゾンビに噛まれてゾンビ化すると、知性が残る確率が高いみたいです。死後、ゾンビになった奴はほとんど話せません」

 ノヴァは後者だ。
 生前、ゾンビに噛まれてゾンビとなった。
 片腕は千切れているが、他に欠損したところはない。

「……それが事実ならば、常識が覆ることになろう」

 シュタインボックは引き攣った笑みを浮かべる。

「今まで、ゾンビは話の通じない魔物じゃった。だから、我々は問答無用に斬り殺していたのじゃ」

 国内にゾンビの侵入を許さず、国内でゾンビに噛まれた者は処分してきた。
 王国にゾンビが少ないのは、そうしてきた歴史があるからだ。

「じゃが、ゾンビに知性も、記憶も、痛覚もあったかもしれないとなれば、話は別じゃ。ゾンビ化したからと、大切な人を手にかけた者はどうなる? 罪悪感に耐え切れるじゃろうか?」
「……今の話は、オレの所感です。根拠はありません」
「否、そなたは五年も実地でゾンビを観察してきた。おそらく、その感覚は間違いではない……」

 シュタインボックは手のひらで目を覆った。

「わしは甘く見ていたのやもしれん。そなただけが特別、会話の出来るゾンビであると。じゃが、特別ではないとしたなら……」
「シュタインボック様、過去のことはどうにもなりません」
「わかっておる。じゃが……」

 シュタインボックは深いため息をつく。

「……『もしも』を考えてしまう」

 シュタインボックは最古の【星の守護者】だ。
 ゾンビ化した人間を数多く見送ってきたに違いない。
 その中には、親しくしていた人達もいたのだろう。

「本当に、申し訳ありません、シュタインボック様。軽率な発言でした……」

 シュタインボックはフッと笑う。

「そなたは聡いな」
「え……?」

 ノヴァは何故今、シュタインボックに誉められたのか、不思議に思った。

「聡い? オレが? 学校にも通ってないのに……?」
「人をよく見ておる。例え膨大な知識を身につけたとしても、出来ぬ者には出来ぬことじゃ」

 シュタインボックはリブラに目を向けた。
 ノヴァはつられて、同じ方を見た。

「あやつもようやく、世界が広がったようじゃ」

 ノヴァはシュタインボックが何を言っているか理解出来なかった。

「……ノヴァ、塔の中に入っても?」

 リブラがノヴァに尋ねる。
 ノヴァは答える。

「良いけど……汚ねえぞ」

 ノヴァは塔の扉を開けた。
 続いて、住処の方の扉を開けた。

「うわ……。やっぱり、暫く掃除してねえから汚ねえな……」

 ノヴァは住処の中へと入っていき、窓を開けて空気の入れ替えを図る。

「何もねえな……。雪国監獄の方がもっと物あるぜ」

 スコルピオンは言った。
 リブラは扉付近から動けないでいた。

「こんなところで……五年も」
「……たく、調子狂う……。別に、ここでぼーっと暮らしてた訳じゃねえ」

 スコルピオンは置いてある家具をまじまじと見た。

「結構良い家具使ってんじゃん? このソファ、魔獣の皮使ってるぜ。もしかして、実家から援助して貰ってたのかあ?」

 スコルピオンは下品に笑う。
 リブラがスコルピオンを睨みつけた。
 ぴり、とその場に緊張が走る。
 ノヴァはへらりと笑った。

「援助して貰えてたら、こんなところに住んでねえよ」
「ま、確かに」
「そのソファは【墓場の森】に捨てられてた奴を拾ってきて、使えるように直したんだ」
「直したって……自分で?」
「そりゃ勿論。……あ、外のゾンビ達にも少し手伝って貰ったっけな。一人じゃ持てねえから」
「器用だな……。お前、貴族のボンボンなんだろ? あの眼鏡と同じんちの出なら」

──眼鏡……。
 ノヴァは『眼鏡』と呼ばれたリブラをちらりと見てしまう。
 リブラはまだ怒っている様子で、眉根を寄せている。

「まあ、同じ家にいたけど」
「金持ちってのは、壊れたもんは直ぐに捨てて、新しいもんを買うんじゃねえの?」
「両親はそうだったかも。オレはガキだったから、自由に使える金が少なくてなくて、買えなかったんだよな。ペンとか服とか、壊れないように使ってたし、壊れたら直して使ってた」
「あいつら……はあ」

 リブラは額に手を当てて、ため息をついた。
 シュタインボックは窓の外を見た。

「……ゾンビが襲ってくる様子はないのう。奴らはわしらをいつでも包囲出来るというのに」
「オレが『襲うな』って言ったからですね」
「そなたはスキルは使っておらんじゃろう。言葉を理解し、本能を制御しておる……」

 シュタインボックは振り返り三人を見た。

「一度、国へ戻ろう」
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