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何故、困惑されているのですか?
しおりを挟むルアン殿下から久しぶりに茶会を設けたから来てほしいと手紙が来た。
書いてある通り、本当に久しぶりだった。茶会と言わずとも、会う事自体が半年前の夜会ぶりだ。
こちらが手紙を出そうとも、会いに行こうとも彼からの返事もその姿を見ることもなかったので、もう私の存在ごと忘れられたのかと思っていた。そして、彼はその間ずっと彼は聖女と共に居た。聖女だけでなく他の令嬢の元に通うのも見たのだと周囲の口さがない者達が騒いでいたのだから尚更だ。何をしようともニコリともせず、目立つ傷もある私などルアン殿下のお心にいないのだと。
そのようなこと私が一番分かっている。
でも私が一番、目にしたくないこと。
だが、ようやくその問題に向き合うべきタイミングが来たのだ。
心を決めた私は王宮に住む聖女様を呼んで茶会へ参加することにした。
私との婚約を破棄し、聖女様との婚約を進めるために。
自らの未練は自らで断ち切りたかったのだ。王家からの通達で知ることや本人から伝えられることを思うと心痛でしかない。
私は、見かけは無表情でも心はあるのだから。
聖女様にも茶会に参加するよう伝えれば、その聖女様を守っている中央教会からも直ぐに、参加いたしますと連絡が来た。参加されなかったらどうしようと思っていたので助かった。
ルアン殿下からも聖女様が参加されても大丈夫だと連絡が来て安心と同時に非難めいた感情が湧いたが、私の今後の人生には関係ないことだろう。
王妃教育で習った通り、感情に必死に蓋をする。感情通り振舞ってはいけない。
そして、私は反抗の気持ちを持って少々派手すぎる衣装で向かうことにした。
ルアン殿下にずっと言われていた、ルアン殿下の色をひとつは身につけてくれ、肌を見せるような服ではなく貞淑な衣装を着てほしいという注意を破って。結婚を強く拒否しているように見えるように。
侍女がつけてくれた仮面の紐を更に硬く引っ張った。
時間通り茶会に向かうと、ルアン殿下は机に聖女のサクラ・ハルノ様といつも共にいる護衛のヴィンテル・ヴルツェル公爵令息と薔薇咲き誇る庭園のテーブルの前に立っていた。
殿下は私を見て目を大きく開いていた。
聖女は彼と私を見比べ困惑していた。というより、呆然としている様だった。
「な、なんで……その服は……」
「もう私には失礼になることかと思いまして」
「……詳しくは席に座ってから聞くよ」
「ありがとうございます」
私は決意して引いていただいた椅子に座り、ルアン殿下に向かい合う。
「早々ではありますが、私、ルアン殿下の婚約者を辞めさせていただきたく本日は参りましたの。他人となる者が貴方様の色を纏うなど許されることではありません。それに、なぜ貴方様は聖女との婚姻が正しい契約であるのに、私との婚約をなぜ続けているのでしょう」
「……は?」
私が冷たい声で発した言葉に、ルアン殿下は陶器のように美しい顏を歪めた。
紅茶を入れようと近づいてきた侍女が酷く肩を揺らす。感情を出さないよう、よくよく教えられているはずなのにここまで感情を外に漏らすことになるほど動揺させてしまった。こんな騒動の間に入れさせてしまい申し訳ないが、仕方ないことなので許して欲しい。
その王宮付きの侍女は手早く紅茶を淹れ終わらせてパタパタと四阿の壁際に戻って行く。
その動きを見て私は、話を進めようと膝の上に置いた手を強く握りしめた。
「私との婚約は元々そういうお話だったでしょう。私も再度、婚約しなければならないのでしょうから早めに通達いただけると嬉しいのですが」
そう言って手元に置かれた紅茶を1口飲む。私の好みの品種を淹れていてくださったようだが、このタイミングで飲むと香り高いはずの味も泥水のようだ。この紅茶には何も罪は無いのに。
「い、いや待って。なんで、リリーがそんなことを言ってくるんだ」
「私だって別れは自らの口でしたいものです。他人の口から決別などさせたくはなかった」
「そうじゃなくて。僕達には約束が……」
「約束、ですか?」
思っていなかった返答に小首を傾げる。もうすぐ解消されることを示す返答が来ると思っていたのにどうして困惑されているの?
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