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婚約破棄はさせないよ
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私の発言に項垂れてしまったルアン殿下に目を向けたハルノ様は、テーブルに手を付いて勢いよく立ち上がった。
「ルアン様、私言いましたよね!こうなるから大切なことは手紙なんかで送るなって!返事も来てないのに約束したって思い込むなって!」
「あ、あぁ……そうだったね……そうだったんだ。ははっ、伝達ミスが起きていたみたいだ」
スタスタとルアン殿下の隣に立った聖女様はそのまま頼りなく言葉を零す殿下の肩を掴んで体をブンブンと揺らした。
おふたりは噂通り仲がよろしいのね。胸がズキリと痛む。
「ミスとか言ってる場合じゃないですよ!今までアナタは何をしてたんですか!それが伝わってないってことですよ!馬鹿なんですか!」
「そうだよな……あのね、リリーには伝わっていなかったようだけど、僕はこの婚約を破棄しないよ。この数ヶ月、君に会うことが出来なかったのはそのために動いていたからなんだ。……決して、婚約破棄などさせないから。君の父にも僕の父にも、貴族たちにも殆ど根回しは済んでる。リリーがなんと言おうとも僕達は絶対に、来年結婚するんだよ」
「え?」
ピリピリとする殺気を滲ませた顔で吐き出された発言に頭がついて行かなかった。そこに付された刺すような視線は、何処か執念じみたものまで感じさせる程であった。
思いもよらなかったそんな姿を見て、大小様々な疑問が尽きなかった。
何もかも分からない現状、私は疑問を直接投げかけることしか出来ない。
「私に何も伝えられていないのは、何故なのですか?」
その発言にまたさらに強い怒りを滲ませて殿下は頭を抱えてしまう。
その隣で、ハルノ様とヴルツェル公爵令息が顔を見せ合いながら溜息をついていた。皆様は、何故そんな反応を?
「……はぁ。父から聖女サクラではなくリリーと結婚することの許しを貰えたのは、この国に存在する複数の重大問題を解決するという条件を達成できたからなんだ。だけど、その条件が確定した時にはもう時間的余裕がなかった。それで、手紙で通達したと思っていたのだけど、届いていなかった?」
「ええ、私にはそのような手紙は来てはおりませんが」
「……ということは一通も行ってないのか。輸送の時点で何者かの手が加えられていたみたいだ。そこまで考えて送るべきだった。ごめんね、詰めが甘かった」
「そうだったのですね……」
その言い方だと、何通も送っていたのかもしれない。だとしたら、どうして私などにそれほどの枚数の手紙を送っていたのだろう。彼の隣にずっと聖女様がいたのではないのか。
「では、なぜあれほど聖女様と共にいたのですか」
「それは仕方なかったんだ。魔物発生地での安全問題について調べなくてはならなくて、それに着いてもらったり私の使える聖魔法だけでは不十分なところに付き添ってもらったりしたんだ。決して、彼女とは何も無かったと誓うよ」
忌々しげにご自身の髪を掴まれていた手を離し、滑るようにルアン殿下が私の手を握った。慣れない男性からの接触に肩がびくりと跳ねる。
殿下の手は、温かいけど硬くてサラサラとした触り心地で私の肌とは全然違う。
「はい。リリー様、私のことはお気になさらないでください!私には、他に好きな者がいますから!」
私がドギマギしている隙に、ハルノ様は隣に控えていた王子の護衛騎士、ヴィンテル・ヴルツェル公爵令息の腕を引っ張っていた。
女性相手には堅物として有名な彼が口角をこんなに緩めている姿を初めて見たかもしれない。
「この方なんです!」
「まぁ……」
明らかに思いあった2人に私は先程以上に動揺する。そう言われて、気にしてみると聖女様のアクセサリーは彼の赤髪と揃えたルビーで作られているようだった。
「私はルアン様に会う度にヴィン様に会えて、ルアン様は愛する女性のための活動を手早く進められる。win-winの関係でしたので!」
「ヴィンさま……あいする………うぃんうぃん……」
ヴィン様と愛称で彼を呼んでいるのも、殿下から愛されていると言われるのも信じ難い事実だ。
今までそんな発想は僅かでも考えられなかったことであった。
「はい、win-winの関係です。私達は利害の一致で動いていただけです!元々、私をお茶会に呼んで下さったのもルアン様の頑張りを私の口からも伝えたらリリー様が喜ぶかと思って来たんですよ。思っていた以上におふたりは会話が足りていないようですが。ヴィン様もそう思いますよね」
「そうだな。俺がこの話を貰った時点で、リリー嬢とは話が付いているという前提だったからな」
「いや、僕からしたらもう伝わっていると思っていたんだ。仕方ないだろう」
「あぁ、そうそう。リリーが世論を気にしているなら、市井と貴族社会共に人気な作家であるとある令嬢が僕の計画に付き合ってくれてね。女性社会の中ではもうこの婚約が破棄されるなどあってはならないと評判らしいよ。端正な王子と麗しい聖女が、お互いの恋人からどうでもいい問題のせいで引き離され、想い人と結婚出来ず2組とも駆け落ちするという話らしい。勿論、登場人物はかなり僕達に寄せてくれたから読んだ9割の人間は意図に気づいているだろうね」
「あぁ、あのお話とっても素敵でしたね!私たちに似せられていながらもロマンチックで」
私が口を挟む暇もないほどの速さで会話が進んでいく。
でも、どうして。
「そうだろう?それに、リリーが顔の傷を気にしているのなら私の伝手で高位の魔術師の力を借りられそうなんだ。とある貸しがある魔術師だから絶対治してくれるはずだ。やっと取引できる関係を作れたからね。彼奴はものを作るのも得意だが、修繕も得意だから。あいつに治せない物はほとんど無いだろうね。僕はリリーが望むようにするけど、リリーはどうしたい?」
どうしてなのでしょう。
私に都合が良すぎるのでは。
「ルアン様、本当に良かったですね。ずっと結婚したがってましたもんね!最愛の婚約者様と!」
何故こんなことになっているの?
「あぁ、そうだね。どれだけ待ちわびたことか……間に合って良かった」
分からない。
わからないわ。
「ん、あれ、リリー様、どうなされたんですか?顔色が悪いですよ」
なぜ?
なぜなの。
「そうだね。リリー、大丈夫?」
ふっと体から力が抜け視界が真っ黒に染まった。
「ルアン様、私言いましたよね!こうなるから大切なことは手紙なんかで送るなって!返事も来てないのに約束したって思い込むなって!」
「あ、あぁ……そうだったね……そうだったんだ。ははっ、伝達ミスが起きていたみたいだ」
スタスタとルアン殿下の隣に立った聖女様はそのまま頼りなく言葉を零す殿下の肩を掴んで体をブンブンと揺らした。
おふたりは噂通り仲がよろしいのね。胸がズキリと痛む。
「ミスとか言ってる場合じゃないですよ!今までアナタは何をしてたんですか!それが伝わってないってことですよ!馬鹿なんですか!」
「そうだよな……あのね、リリーには伝わっていなかったようだけど、僕はこの婚約を破棄しないよ。この数ヶ月、君に会うことが出来なかったのはそのために動いていたからなんだ。……決して、婚約破棄などさせないから。君の父にも僕の父にも、貴族たちにも殆ど根回しは済んでる。リリーがなんと言おうとも僕達は絶対に、来年結婚するんだよ」
「え?」
ピリピリとする殺気を滲ませた顔で吐き出された発言に頭がついて行かなかった。そこに付された刺すような視線は、何処か執念じみたものまで感じさせる程であった。
思いもよらなかったそんな姿を見て、大小様々な疑問が尽きなかった。
何もかも分からない現状、私は疑問を直接投げかけることしか出来ない。
「私に何も伝えられていないのは、何故なのですか?」
その発言にまたさらに強い怒りを滲ませて殿下は頭を抱えてしまう。
その隣で、ハルノ様とヴルツェル公爵令息が顔を見せ合いながら溜息をついていた。皆様は、何故そんな反応を?
「……はぁ。父から聖女サクラではなくリリーと結婚することの許しを貰えたのは、この国に存在する複数の重大問題を解決するという条件を達成できたからなんだ。だけど、その条件が確定した時にはもう時間的余裕がなかった。それで、手紙で通達したと思っていたのだけど、届いていなかった?」
「ええ、私にはそのような手紙は来てはおりませんが」
「……ということは一通も行ってないのか。輸送の時点で何者かの手が加えられていたみたいだ。そこまで考えて送るべきだった。ごめんね、詰めが甘かった」
「そうだったのですね……」
その言い方だと、何通も送っていたのかもしれない。だとしたら、どうして私などにそれほどの枚数の手紙を送っていたのだろう。彼の隣にずっと聖女様がいたのではないのか。
「では、なぜあれほど聖女様と共にいたのですか」
「それは仕方なかったんだ。魔物発生地での安全問題について調べなくてはならなくて、それに着いてもらったり私の使える聖魔法だけでは不十分なところに付き添ってもらったりしたんだ。決して、彼女とは何も無かったと誓うよ」
忌々しげにご自身の髪を掴まれていた手を離し、滑るようにルアン殿下が私の手を握った。慣れない男性からの接触に肩がびくりと跳ねる。
殿下の手は、温かいけど硬くてサラサラとした触り心地で私の肌とは全然違う。
「はい。リリー様、私のことはお気になさらないでください!私には、他に好きな者がいますから!」
私がドギマギしている隙に、ハルノ様は隣に控えていた王子の護衛騎士、ヴィンテル・ヴルツェル公爵令息の腕を引っ張っていた。
女性相手には堅物として有名な彼が口角をこんなに緩めている姿を初めて見たかもしれない。
「この方なんです!」
「まぁ……」
明らかに思いあった2人に私は先程以上に動揺する。そう言われて、気にしてみると聖女様のアクセサリーは彼の赤髪と揃えたルビーで作られているようだった。
「私はルアン様に会う度にヴィン様に会えて、ルアン様は愛する女性のための活動を手早く進められる。win-winの関係でしたので!」
「ヴィンさま……あいする………うぃんうぃん……」
ヴィン様と愛称で彼を呼んでいるのも、殿下から愛されていると言われるのも信じ難い事実だ。
今までそんな発想は僅かでも考えられなかったことであった。
「はい、win-winの関係です。私達は利害の一致で動いていただけです!元々、私をお茶会に呼んで下さったのもルアン様の頑張りを私の口からも伝えたらリリー様が喜ぶかと思って来たんですよ。思っていた以上におふたりは会話が足りていないようですが。ヴィン様もそう思いますよね」
「そうだな。俺がこの話を貰った時点で、リリー嬢とは話が付いているという前提だったからな」
「いや、僕からしたらもう伝わっていると思っていたんだ。仕方ないだろう」
「あぁ、そうそう。リリーが世論を気にしているなら、市井と貴族社会共に人気な作家であるとある令嬢が僕の計画に付き合ってくれてね。女性社会の中ではもうこの婚約が破棄されるなどあってはならないと評判らしいよ。端正な王子と麗しい聖女が、お互いの恋人からどうでもいい問題のせいで引き離され、想い人と結婚出来ず2組とも駆け落ちするという話らしい。勿論、登場人物はかなり僕達に寄せてくれたから読んだ9割の人間は意図に気づいているだろうね」
「あぁ、あのお話とっても素敵でしたね!私たちに似せられていながらもロマンチックで」
私が口を挟む暇もないほどの速さで会話が進んでいく。
でも、どうして。
「そうだろう?それに、リリーが顔の傷を気にしているのなら私の伝手で高位の魔術師の力を借りられそうなんだ。とある貸しがある魔術師だから絶対治してくれるはずだ。やっと取引できる関係を作れたからね。彼奴はものを作るのも得意だが、修繕も得意だから。あいつに治せない物はほとんど無いだろうね。僕はリリーが望むようにするけど、リリーはどうしたい?」
どうしてなのでしょう。
私に都合が良すぎるのでは。
「ルアン様、本当に良かったですね。ずっと結婚したがってましたもんね!最愛の婚約者様と!」
何故こんなことになっているの?
「あぁ、そうだね。どれだけ待ちわびたことか……間に合って良かった」
分からない。
わからないわ。
「ん、あれ、リリー様、どうなされたんですか?顔色が悪いですよ」
なぜ?
なぜなの。
「そうだね。リリー、大丈夫?」
ふっと体から力が抜け視界が真っ黒に染まった。
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