王子に婚約破棄を申し出た仮面令嬢は彼の愛に絡め取られる

月下 雪華

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頑張っていたんですよ

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 見慣れない布団の中で目を覚ます。

 ああ、あの夢のような会話は本当に夢だったのかもしれない。それに、私が今いるのはどこだろう。
 疑問の渦と緩やかな微睡みの中、ゆっくりと頬を触ると硬質な仮面の質感が伝わってくる。服も朱色のデイドレスのままで、布団に寝かされていた。

「あ、起きられましたか?」
「……っ!?」
「わ、すみません。驚かせてしまいましたか?おはようございます。ご気分はいかがですか?」
 ふわふわとしていた視界の中、弾かれるように声がした方に目を向けるとハルノ様が椅子に座られていた。私の手当てをしていただいていたらしい。
 艶々とした黒髪が陽だまりに照らされ、目に緩やかな刺激をもたらす。

「気分は大丈夫ですが、えっと、私は今……」
「ここは王宮にある私の部屋ですよ。茶会で倒れてしまわれたので、医務室より庭園に近いこちらにとルアン様が命じられて」
「そのようなことを……お忙しいのに何度もお手を煩わせてしまい、申し訳ありません」
 私はベッドに座りながら頭を下げた。聖女としての仕事もあるはずなのに、早く解決したいという自己都合でわざわざ呼び寄せ、あまつさえその呼び出した本人が倒れるなんて。なんという失態なのだろう。
 
「いえいえ、そんな!私、こちらの世界では特別かもしれなくても元の世界ではただの一介の市民だったんです。だからそんなに畏まられると逆に慣れなくて。緩くしていてください。お願いします!」
 ハルノ様は先程までタオルを浸けてた水桶から、手を離しワタワタと手を振った。聖女様はまだこちらの伝統と貴族社会に擦れていないからか、動きがまだまだ淑女として求められるものとは違い、素直で可愛らしい。
「そうなのですか?」
「はい、それに私のことは聖女や春野などではなく、桜とお呼びください!」
「サ、サクラ様?」
 私が戸惑いながら言葉を発すると、目の前の不安そうな表情がぱぁっと嬉しそうに変わっていく。
 
「様付けではなく桜と!呼び捨てにしてください!」
「で、では、サクラ……でよいのでしょうか」
「はい!ありがとうございます。それと、あの、お嫌でなければなのですけど、私とお友達になってくださいませんか」
 サクラにぎゅっと両手で手を握られた。私はその距離の近さに心臓が痛いほど驚くが表情筋の活動が死んでいるので、一切外から見える反応は出なかった様だった。
 先程まで、聖女様にも殿下にも触れることなどあるわけが無いと思っていたのだから不思議なこともあるのだ。
 
「私がお友達に?」
「はい、お友達です。私、この世界に来てから友達が出来なくてですね。お恥ずかしい限りなのですが。ですから、私は是非ともリリー様とお友達になりたいのです!」
「聖女というのはこの世界の者達にとって特別なお方ですからお辛いですわよね。この世界には対等なものがおりませんからお友達作りには困るだろうと推測できますし」
 こんなことを言う私も、ちゃんとお友達と呼べるような方はそんなにおりませんが。
 
「だとしても、私は友達が欲しいのです。この世界で対等に話してくれるのはルアン様だけ。ヴィン様はどれだけ心身ともに近い距離になっても結局は下の地位の者として接してきますし……」
「そういうことでしたら勿論。サクラ、今後はお友達としてよろしくお願いしますね。私のこともリリーと」
 ぎこちなくも小さく口角をあげるとそれにつられるよう彼女の口角も上がっていく。じわじわと頬も赤くなっていった。
「わぁ、ありがとうございます。本当に忙しくて、忙しくて何処にも遊びに行けてなかったので、誰か女の子とお話したかったんです!今度何か遊びましょう。こちらの常識がまだよく分からないのですが、女の子同士だとお茶会とかが一般的なんですかね?本当に良かったぁ!」
 サクラは本当に楽しみにしていたようで発言の一つ一つで興奮が隠せないようだった。
「そんな忙しかったのですか?」
「はい。もう何度倒れるかと思ったか……でも、殿下が1番働いてたんですよ。本当に寝てるのかってくらい、いつも濃いクマが付いてて痛々しかったんですよ。それを見て、私も課題を終えて好きな人と一緒にゆっくり過ごすんだって頑張ったんです!やっとです!」
「まぁ。おふたりとも今までそんなにお疲れに……」
 その私の発言を聞いた途端、サクラはピタと体の動きを止めた。
 そして言いづらそうにもごもごと口を動かしたあと、気まずそうに目を逸らしながら私に話しかけられた。


「あ、えっと、そうでした。私の個人的なお話は一旦置いておいてですね。あの、その、申し訳ないのですがルアン様が、ですね……あの。最後の一手が残ってると仰っていたのを思い出したのですが……」
「はい」

「リリーにルアン様と共に寝たという既成事実を作って欲しい、と……」

「はい?」
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