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結婚に至る最後の決め手
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呆然としてしまった私に向けてサクラが早口で言葉を重ねていく。
「と、隣で1晩寝るだけでいいんです!何もそういう行為はしなくとも!そういう事実があれば確実に結婚を否定する声は減らせますから!お願いします!」
これも先程の結婚が確約されているという部分に繋がっているようだ。私がルアン殿下と性的な関係にある可能性があるというのなら、結婚へ反対するものは更に減る。
それによって結婚しなければならない条件を増やす。その行動は私達の望んでいた結婚を進めることに繋がるのだ。私の羞恥心だけを優先しては後に困る問題だ。
「わかったわ。私はこれから具体的にどうしたらいいの?」
「ありがとうございます!今から侍女を呼んできますね!それでお風呂に入って、お化粧をして、服を着替えましょう。終わり次第ルアン様のお部屋で待っててもらえば勝手にルアン様が来ますから」
サクラがベットサイドに置かれたベルを鳴らす。彼女は立ち上がって閉められていたカーテンを開けた。
「私、仮面の下を見られたくないの。外さなくてもいいかしら」
私はベッドの縁に腰掛け仮面の中から上目遣いでサクラを見つめる。
私の顔を覆った白色は私の半身で私を守る鎧だ。人様に見せられるものでは無い。本来、自分で行うべきではなく他者に任せるべき部分も私が担うというのは、大きくあると言えど傷のことを気にし過ぎなのは分かっている。ただ傷を見られ反応されるのが怖いのだ。
「それなら、リリーの顔は見えないようにして色々してもらいましょうよ。折角、ルアン様の前に行くんです。とびっきり可愛くしてもらいましょう!」
サクラは窓に向けていた体をくるりと回してキラキラした瞳でこちらを捉えた。
今日は1歩踏み出して見てもいいはずだ。
そう思いながら声を出した。
「夜着は自由に選んでいいのよね?私、これがいいのだけど」
私は目の前に積まれていく寝間着の中にそれを見つけた。彼が選んでいったという複数の箱の1番下、隠されるように置かれたそれは白のベビードールだった。周囲の質がいいながらも落ち着いた服の数々からは想像できないような服装であった。胸元は大きく開き、脚も惜しげも無く見せつけるような丈の短さをしている。
その他の周囲が求める形のものでは無く、恥ずかしくなるようなこのような格好は、彼の好みでなければどうしてここにあるのだろう。もしくはサクラかヴルツェル公爵令息の意地悪なのだろうかとも思えるが、そこにあったのならば選んだっていいはずだ。妖精のようで可愛いのだし、私に合うかは分からないが、そこにあったのだから。ルアン様が用意したものに紛れていたのだから。
「リリー様はそちらに決めたのですね。もちろんお似合いになりますよ。殿下の使いがここに置いていったのですもの、殿下もお喜びになるでしょうね。ふふっ、このタイミングでもそれを置いておくなんて余程お望みだったのでしょう」
侍女は思いも当たらなかったように大きく目を開くが、次第に堪えられないという風にニコニコと笑みを深めている。
「可愛いかしら?」
「ええ、清純でありながら美しく、とても可愛らしいですよ」
「そう、ありがとう」
そこからはとんとん拍子に進んでいった。
体と髪とを磨かれ、私は自分自身に化粧を施す。
殊更丁寧に。殊更美しく私を整えた。
本当にするのかもと期待する気持ちがドクドクと拍動を早めた。
「もうその時が来てしまったのね」
私は整えられた姿でベッドに座り込んだ。
ルアン様のお部屋なんて初めて入ったかもしれない。王族にしてはシンプルな木目調のものを基調とした部屋だ。ここにルアン様は住まわれている。私はその空間にこの格好でいることを許されている。それがとても素晴らしいことに思える。
私が他にできることは何かしら。手持ち無沙汰に裾のレースを弄ぶ。
コンコンと軽いノックの音が静かな部屋に響く。
ルアン様がいらしたらしい。
「リリー、入るよ」
「は、はい!」
ルアン様が扉を開く音が嫌に大きく聞こえた。彼のいつもより薄く夜らしく畏まらない服装と下ろされた髪が見えると更に私の緊張が進む。惜しげなく晒された彼の気だるげで、美しい色香にふらりとまた倒れてしまいそうな気持ちにされる。
「……本当にそれを選んだんだね」
当たり前のようにソファーに座る私の隣にルアン殿下が滑り込んだ。動くのに連れてふわりと彼の熱とシダーウッドの香りが漂う。
「私、似合っていませんか?」
「ううん、似合いすぎてるくらいだよ。可愛い」
ルアン様の手が私の顔の輪郭をなぞる。仮面の固結びが動いた感触がしてくる。
「……リリー、ごめんね」
開かないよう固く閉じたはずの紐がしゅるりと外れる音がした。
「と、隣で1晩寝るだけでいいんです!何もそういう行為はしなくとも!そういう事実があれば確実に結婚を否定する声は減らせますから!お願いします!」
これも先程の結婚が確約されているという部分に繋がっているようだ。私がルアン殿下と性的な関係にある可能性があるというのなら、結婚へ反対するものは更に減る。
それによって結婚しなければならない条件を増やす。その行動は私達の望んでいた結婚を進めることに繋がるのだ。私の羞恥心だけを優先しては後に困る問題だ。
「わかったわ。私はこれから具体的にどうしたらいいの?」
「ありがとうございます!今から侍女を呼んできますね!それでお風呂に入って、お化粧をして、服を着替えましょう。終わり次第ルアン様のお部屋で待っててもらえば勝手にルアン様が来ますから」
サクラがベットサイドに置かれたベルを鳴らす。彼女は立ち上がって閉められていたカーテンを開けた。
「私、仮面の下を見られたくないの。外さなくてもいいかしら」
私はベッドの縁に腰掛け仮面の中から上目遣いでサクラを見つめる。
私の顔を覆った白色は私の半身で私を守る鎧だ。人様に見せられるものでは無い。本来、自分で行うべきではなく他者に任せるべき部分も私が担うというのは、大きくあると言えど傷のことを気にし過ぎなのは分かっている。ただ傷を見られ反応されるのが怖いのだ。
「それなら、リリーの顔は見えないようにして色々してもらいましょうよ。折角、ルアン様の前に行くんです。とびっきり可愛くしてもらいましょう!」
サクラは窓に向けていた体をくるりと回してキラキラした瞳でこちらを捉えた。
今日は1歩踏み出して見てもいいはずだ。
そう思いながら声を出した。
「夜着は自由に選んでいいのよね?私、これがいいのだけど」
私は目の前に積まれていく寝間着の中にそれを見つけた。彼が選んでいったという複数の箱の1番下、隠されるように置かれたそれは白のベビードールだった。周囲の質がいいながらも落ち着いた服の数々からは想像できないような服装であった。胸元は大きく開き、脚も惜しげも無く見せつけるような丈の短さをしている。
その他の周囲が求める形のものでは無く、恥ずかしくなるようなこのような格好は、彼の好みでなければどうしてここにあるのだろう。もしくはサクラかヴルツェル公爵令息の意地悪なのだろうかとも思えるが、そこにあったのならば選んだっていいはずだ。妖精のようで可愛いのだし、私に合うかは分からないが、そこにあったのだから。ルアン様が用意したものに紛れていたのだから。
「リリー様はそちらに決めたのですね。もちろんお似合いになりますよ。殿下の使いがここに置いていったのですもの、殿下もお喜びになるでしょうね。ふふっ、このタイミングでもそれを置いておくなんて余程お望みだったのでしょう」
侍女は思いも当たらなかったように大きく目を開くが、次第に堪えられないという風にニコニコと笑みを深めている。
「可愛いかしら?」
「ええ、清純でありながら美しく、とても可愛らしいですよ」
「そう、ありがとう」
そこからはとんとん拍子に進んでいった。
体と髪とを磨かれ、私は自分自身に化粧を施す。
殊更丁寧に。殊更美しく私を整えた。
本当にするのかもと期待する気持ちがドクドクと拍動を早めた。
「もうその時が来てしまったのね」
私は整えられた姿でベッドに座り込んだ。
ルアン様のお部屋なんて初めて入ったかもしれない。王族にしてはシンプルな木目調のものを基調とした部屋だ。ここにルアン様は住まわれている。私はその空間にこの格好でいることを許されている。それがとても素晴らしいことに思える。
私が他にできることは何かしら。手持ち無沙汰に裾のレースを弄ぶ。
コンコンと軽いノックの音が静かな部屋に響く。
ルアン様がいらしたらしい。
「リリー、入るよ」
「は、はい!」
ルアン様が扉を開く音が嫌に大きく聞こえた。彼のいつもより薄く夜らしく畏まらない服装と下ろされた髪が見えると更に私の緊張が進む。惜しげなく晒された彼の気だるげで、美しい色香にふらりとまた倒れてしまいそうな気持ちにされる。
「……本当にそれを選んだんだね」
当たり前のようにソファーに座る私の隣にルアン殿下が滑り込んだ。動くのに連れてふわりと彼の熱とシダーウッドの香りが漂う。
「私、似合っていませんか?」
「ううん、似合いすぎてるくらいだよ。可愛い」
ルアン様の手が私の顔の輪郭をなぞる。仮面の固結びが動いた感触がしてくる。
「……リリー、ごめんね」
開かないよう固く閉じたはずの紐がしゅるりと外れる音がした。
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