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番外編2
デジレの恋10
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父との離婚の話が出た後、母は焦りだした。
慌てて、私の婚約の一件を急がせたのだ。
離婚後も自分の生活基盤を確保するために。
※
「デジレ、出かけるわよ」
今日の私は、これでもかというくらい着飾られている。
クリーム色に、紅色の薔薇の花が散らされているドレスだ。
「これは何のつもりですの? お母様?」
答えを返さぬまま、母は鬼の形相で馬車に私を詰め込んだ。
「あなたは黙って私の言うことに従っていれば良いのよ! 既成事実さえ作ってしまえばこっちのものなのだから!」
「えっ……?」
そのまま母を残し、私だけを乗せた馬車は突如として走り出す。
今日は、父も次兄も仕事で留守だった。
長兄は例のごとく引きこもっている。
「ど、どうしたらいいの?」
馬車はガタゴトと進み、速度が落ちる気配はない。
「ちょっと、この馬車は何処へ向かうの?」
声を張り上げて御者に尋ねても、何の返答もない。
御者は無言で馬車を操縦している。
ふと、頭に先程の母の言葉が浮かんだ。
――既成事実さえ作ってしまえば、こっちのものなのだから!
それって、どういうことなの?
なんだか嫌な予感がする。
父や次兄のいないうちに、大慌てで馬車に私を押し込んだ母。
父に離婚を切り出され焦っていた母……!
(次兄の口ぶりから察するに、彼らが離婚したら、親権は完全に父側に移るでしょうね)
そうしたら、母は私を好きに結婚なんてさせられなくなる。
子爵家を追い出され、お金が入ってくる先もなくなってしまうわよね。
(だから……強硬手段に出たのね)
離婚される前に、私を男爵家に送り込もうと、強引に婚姻を結ばせてしまおうと画策した。
馬車は速度を下げながら、ゆっくりと森の中を進んでいく。奥へ、奥へと……
一応、道は舗装されているみたいだ。
(確か、森を抜ければウジェ男爵の邸がある町へ着くわね)
このまま馬車に乗っていたら、男爵家に送りつけられるという算段のようだ。
(嫌だわ。こんな、物みたいな扱い)
自分が贈答品にでもなったような気分だ。
綺麗な花柄のドレスに包装された贈り物。
しかも、送られた相手が喜ぶのは中身の私自身ではなく、私に付随する身分だなんて。
「ふふ、ふふふふ……」
もう、嫌になってしまう。
これも貴族女性の義務。
(でも、本当にそうなのかしら?)
ようやく冷静になった頭で考える。
少なくとも今回の件に関しては、義務なんて関係ない。
「あはは。私ってば、なんて間抜けなのかしら、今頃気が付くなんて」
男爵家へ嫁ぐことが子爵家を助ける結果になると思っていただなんて。
貴族の義務も何もない。
私は母の金策のための、ただの道具だったのだ。
「愚かなお母様、私と同じね」
仮に私が男爵家の次男と結婚したとしても、男爵が子爵家と縁の切れた母に永続的に金を渡すなんてありえない。
離婚の話が公になるのも時間の問題だ。
きっと、母が手に出来るのは一時的なお金だけ。
「それに、お父様がお母様と離婚するのなら、もう予定外の出費で子爵家の家計が苦しくなることなんてないじゃないの」
なんといっても、無駄な出費の元凶である母がいなくなるのだから。
彼女が出て行けば、父も次兄も普通に家にお金を入れてくれるのではないだろうか。
勿論、私の働きによる収入も消えずに済む。
「狭い枠の中で、必死にもがいて。私ってば、一体何をやっていたのかしら」
身近で、もっと根本的な解決方法が、進められていたというのに。
「ああ、だからお兄様は……」
父と次兄の行動の理由に、私はようやく思い当たった。
もう、母の言いなりになって大人しくウジェ男爵家に嫁に行く気なんてない。
今、私が逃げ出したとしても問題ないはずだ。
向こうは怒るかもしれないけれど、責を負うのは勝手に婚約を決めた母。
そして、その母とはもうすぐ縁を切る。
仮にジェイド子爵家が責められても、次兄が何とか収拾をつけるだろう。
彼らだって、家にいたのだから今回の婚約の件は知っている。
――心配いらないよ
――エリクとは上手くやっていけそう?
――彼がボドワン夫人と再婚したら、その家族とも親しくする機会があるだろうと思って
次兄は言っていた。
(……それって、私が子爵家にいることが前提の話じゃない)
だって、ウジェ男爵家にお嫁に行ったら、エリクと会うことなんて叶わない。
(そうと決まれば、こんな馬車に乗っている場合ではないわ)
私は再び御者に向かって大きな声を出した。
「止めて! 馬車を止めてちょうだい!」
慌てて、私の婚約の一件を急がせたのだ。
離婚後も自分の生活基盤を確保するために。
※
「デジレ、出かけるわよ」
今日の私は、これでもかというくらい着飾られている。
クリーム色に、紅色の薔薇の花が散らされているドレスだ。
「これは何のつもりですの? お母様?」
答えを返さぬまま、母は鬼の形相で馬車に私を詰め込んだ。
「あなたは黙って私の言うことに従っていれば良いのよ! 既成事実さえ作ってしまえばこっちのものなのだから!」
「えっ……?」
そのまま母を残し、私だけを乗せた馬車は突如として走り出す。
今日は、父も次兄も仕事で留守だった。
長兄は例のごとく引きこもっている。
「ど、どうしたらいいの?」
馬車はガタゴトと進み、速度が落ちる気配はない。
「ちょっと、この馬車は何処へ向かうの?」
声を張り上げて御者に尋ねても、何の返答もない。
御者は無言で馬車を操縦している。
ふと、頭に先程の母の言葉が浮かんだ。
――既成事実さえ作ってしまえば、こっちのものなのだから!
それって、どういうことなの?
なんだか嫌な予感がする。
父や次兄のいないうちに、大慌てで馬車に私を押し込んだ母。
父に離婚を切り出され焦っていた母……!
(次兄の口ぶりから察するに、彼らが離婚したら、親権は完全に父側に移るでしょうね)
そうしたら、母は私を好きに結婚なんてさせられなくなる。
子爵家を追い出され、お金が入ってくる先もなくなってしまうわよね。
(だから……強硬手段に出たのね)
離婚される前に、私を男爵家に送り込もうと、強引に婚姻を結ばせてしまおうと画策した。
馬車は速度を下げながら、ゆっくりと森の中を進んでいく。奥へ、奥へと……
一応、道は舗装されているみたいだ。
(確か、森を抜ければウジェ男爵の邸がある町へ着くわね)
このまま馬車に乗っていたら、男爵家に送りつけられるという算段のようだ。
(嫌だわ。こんな、物みたいな扱い)
自分が贈答品にでもなったような気分だ。
綺麗な花柄のドレスに包装された贈り物。
しかも、送られた相手が喜ぶのは中身の私自身ではなく、私に付随する身分だなんて。
「ふふ、ふふふふ……」
もう、嫌になってしまう。
これも貴族女性の義務。
(でも、本当にそうなのかしら?)
ようやく冷静になった頭で考える。
少なくとも今回の件に関しては、義務なんて関係ない。
「あはは。私ってば、なんて間抜けなのかしら、今頃気が付くなんて」
男爵家へ嫁ぐことが子爵家を助ける結果になると思っていただなんて。
貴族の義務も何もない。
私は母の金策のための、ただの道具だったのだ。
「愚かなお母様、私と同じね」
仮に私が男爵家の次男と結婚したとしても、男爵が子爵家と縁の切れた母に永続的に金を渡すなんてありえない。
離婚の話が公になるのも時間の問題だ。
きっと、母が手に出来るのは一時的なお金だけ。
「それに、お父様がお母様と離婚するのなら、もう予定外の出費で子爵家の家計が苦しくなることなんてないじゃないの」
なんといっても、無駄な出費の元凶である母がいなくなるのだから。
彼女が出て行けば、父も次兄も普通に家にお金を入れてくれるのではないだろうか。
勿論、私の働きによる収入も消えずに済む。
「狭い枠の中で、必死にもがいて。私ってば、一体何をやっていたのかしら」
身近で、もっと根本的な解決方法が、進められていたというのに。
「ああ、だからお兄様は……」
父と次兄の行動の理由に、私はようやく思い当たった。
もう、母の言いなりになって大人しくウジェ男爵家に嫁に行く気なんてない。
今、私が逃げ出したとしても問題ないはずだ。
向こうは怒るかもしれないけれど、責を負うのは勝手に婚約を決めた母。
そして、その母とはもうすぐ縁を切る。
仮にジェイド子爵家が責められても、次兄が何とか収拾をつけるだろう。
彼らだって、家にいたのだから今回の婚約の件は知っている。
――心配いらないよ
――エリクとは上手くやっていけそう?
――彼がボドワン夫人と再婚したら、その家族とも親しくする機会があるだろうと思って
次兄は言っていた。
(……それって、私が子爵家にいることが前提の話じゃない)
だって、ウジェ男爵家にお嫁に行ったら、エリクと会うことなんて叶わない。
(そうと決まれば、こんな馬車に乗っている場合ではないわ)
私は再び御者に向かって大きな声を出した。
「止めて! 馬車を止めてちょうだい!」
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