ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

文字の大きさ
90 / 101
番外編2

デジレの恋10

しおりを挟む
 父との離婚の話が出た後、母は焦りだした。
 慌てて、私の婚約の一件を急がせたのだ。
 
 離婚後も自分の生活基盤を確保するために。

 ※

「デジレ、出かけるわよ」
 
 今日の私は、これでもかというくらい着飾られている。
 クリーム色に、紅色の薔薇の花が散らされているドレスだ。
 
「これは何のつもりですの? お母様?」

 答えを返さぬまま、母は鬼の形相で馬車に私を詰め込んだ。

「あなたは黙って私の言うことに従っていれば良いのよ! 既成事実さえ作ってしまえばこっちのものなのだから!」
「えっ……?」

 そのまま母を残し、私だけを乗せた馬車は突如として走り出す。
 今日は、父も次兄も仕事で留守だった。
 長兄は例のごとく引きこもっている。

「ど、どうしたらいいの?」

 馬車はガタゴトと進み、速度が落ちる気配はない。

「ちょっと、この馬車は何処へ向かうの?」

 声を張り上げて御者に尋ねても、何の返答もない。
 御者は無言で馬車を操縦している。

 ふと、頭に先程の母の言葉が浮かんだ。

 ――既成事実さえ作ってしまえば、こっちのものなのだから!

 それって、どういうことなの?
 なんだか嫌な予感がする。
 
 父や次兄のいないうちに、大慌てで馬車に私を押し込んだ母。
 父に離婚を切り出され焦っていた母……!

(次兄の口ぶりから察するに、彼らが離婚したら、親権は完全に父側に移るでしょうね)
 
 そうしたら、母は私を好きに結婚なんてさせられなくなる。
 子爵家を追い出され、お金が入ってくる先もなくなってしまうわよね。

(だから……強硬手段に出たのね)

 離婚される前に、私を男爵家に送り込もうと、強引に婚姻を結ばせてしまおうと画策した。

 馬車は速度を下げながら、ゆっくりと森の中を進んでいく。奥へ、奥へと……
 一応、道は舗装されているみたいだ。
 
(確か、森を抜ければウジェ男爵の邸がある町へ着くわね)
 
 このまま馬車に乗っていたら、男爵家に送りつけられるという算段のようだ。

(嫌だわ。こんな、物みたいな扱い)
 
 自分が贈答品にでもなったような気分だ。
 綺麗な花柄のドレスに包装された贈り物。
 しかも、送られた相手が喜ぶのは中身の私自身ではなく、私に付随する身分だなんて。

「ふふ、ふふふふ……」

 もう、嫌になってしまう。
 これも貴族女性の義務。
 
(でも、本当にそうなのかしら?)

 ようやく冷静になった頭で考える。
 少なくとも今回の件に関しては、義務なんて関係ない。

「あはは。私ってば、なんて間抜けなのかしら、今頃気が付くなんて」

 男爵家へ嫁ぐことが子爵家を助ける結果になると思っていただなんて。
 貴族の義務も何もない。
 私は母の金策のための、ただの道具だったのだ。

「愚かなお母様、私と同じね」

 仮に私が男爵家の次男と結婚したとしても、男爵が子爵家と縁の切れた母に永続的に金を渡すなんてありえない。
 離婚の話が公になるのも時間の問題だ。
 きっと、母が手に出来るのは一時的なお金だけ。

「それに、お父様がお母様と離婚するのなら、もう予定外の出費で子爵家の家計が苦しくなることなんてないじゃないの」

 なんといっても、無駄な出費の元凶である母がいなくなるのだから。
 彼女が出て行けば、父も次兄も普通に家にお金を入れてくれるのではないだろうか。
 勿論、私の働きによる収入も消えずに済む。

「狭い枠の中で、必死にもがいて。私ってば、一体何をやっていたのかしら」

 身近で、もっと根本的な解決方法が、進められていたというのに。

「ああ、だからお兄様は……」

 父と次兄の行動の理由に、私はようやく思い当たった。

 もう、母の言いなりになって大人しくウジェ男爵家に嫁に行く気なんてない。
 今、私が逃げ出したとしても問題ないはずだ。
 向こうは怒るかもしれないけれど、責を負うのは勝手に婚約を決めた母。
 そして、その母とはもうすぐ縁を切る。

 仮にジェイド子爵家が責められても、次兄が何とか収拾をつけるだろう。
 彼らだって、家にいたのだから今回の婚約の件は知っている。

 ――心配いらないよ
 ――エリクとは上手くやっていけそう?
 ――彼がボドワン夫人と再婚したら、その家族とも親しくする機会があるだろうと思って

 次兄は言っていた。
 
(……それって、私が子爵家にいることが前提の話じゃない)
 
 だって、ウジェ男爵家にお嫁に行ったら、エリクと会うことなんて叶わない。

(そうと決まれば、こんな馬車に乗っている場合ではないわ)
 
 私は再び御者に向かって大きな声を出した。

「止めて! 馬車を止めてちょうだい!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。