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4章【炎と氷】
12.30分早く帰っていたら
しおりを挟む悔しいけれど、街中を初めて歩くユークリッドには道案内役のヴィルヘルムが居てくれて大いに助かったし、事実楽しいと感じている。
「…ヘル兄さんって、顔は知られてるけど色々バレてないんですね。」
「王宮勤めの騎士も街中をよく歩くからな。騎士の一人として覚えられた」
街中に出没するというヴィルヘルムは王族として知られていないらしく、また騎士も言いふらすような者は居ないということで
堂々と歩き回ってはどこにどんな店があるか案内してもらっていた。
「あ。ユーク、武器屋に寄っていいか?」
「いいですよ」
ユークリッド位の我が子が居るからか、ヴィルヘルムの歩幅はユークリッドの倍あるのに合わせて歩いてくれるので特に疲れることもなく散策出来ている。
(前世も今世も縁がない武器屋か…)
ついワクワクしてしまうのは男心というものだ。女性でも護身用に装飾された短剣を身に付けることもあると聞いたし、いつか必要になった時の為に相場を知っておかねば。
そう自分に言い訳をしながらヴィルヘルムオススメの武器屋の扉をくぐった。
「わぁ…!」
設置された棚、壁の至る所、店主らしい男が座るカウンターの奥。
所狭しと武器が展示されている様に、ユークリッドは思わず感嘆の声をあげた。
「好きに見ていていいぞ。店主と話してくる」
ユークリッドの反応を見て小さく笑ったヴィルヘルムは店主と話す為にカウンターへと歩いて行ってしまった。
好きに見ていいとは言われたものの、刃物に触れるのは少し怖い。剣に、槍に、斧までここで扱っているのかと「へぇ」とか「すご…」など時々漏らしながら手を触れることなく歩いて回るユークリッドに店主とヴィルヘルムは目を合わせて微笑ましく笑った。
武器屋で武器に怖がって触れない者はそう居ないし、見るからに武器を握れそうな筋肉も付いていない。そして小柄なユークリッドは二人にとっては子供も同然なのだ。
「あ…」
興味津々に店内を散策していたユークリッドの足が止まる。
ギュッと胸が締め付けられて、苦しくなった。
(弓、あるんだ…)
─────ユークリッドの中に眠る記憶が溢れる。
「カンナギマコトってやつ、顧問が職員室に来いってー」
ガヤガヤと色んな声が混ざり合った教室に割り込むように、喉を張った声が俺の耳に届いた。
空気を読んで会話の声量を落とす周囲のお陰で少しだけ静かになった教室で、窓際から廊下へと視線を移して声を張り上げる。
「それ俺の事だー、ありがとー!」
「おー。ってか俺は先輩だからなー」
「すんません!ありがとうございました!」
俺の焦った様子にククッと笑って立ち去った先輩に軽く頭を下げながら職員室に向かおうと立ち上がり、教室を出る頃には元のざわめきに戻っていた。
───職員室に着いて、失礼しますとキョロキョロしながら踏み込めば
待ち受けていた顧問が注文用紙の束を持ち上げて見せてきた。
「神無木、道着の注文票がまだ出てないが…部室にある予備をしばらく使う予定か?買うなら他の部員の分もまとめて発注かけるから早めに出してくれ」
「あ…すみません。母の許可がなかなか下りなくて…」
「あー、まぁ高いしなぁ。うーん…もう少し待つから、どうするか決めてくれ、な。」
「はい…」
腰を軽く曲げて一礼して、職員室から出た。
高校に入学して一週間、俺が通っていた中学には無かった弓道部が気になって、勢いで入部届を出したものの「また思いつきで始めて…飽きっぽい性格なんだから道着は買わなくていいでしょ」と母親に道着の購入を断られてしまったまま放置してしまっているのだ。
「まーこーとー。先生なんだって?」
「道着のこと…こんな事なら小遣い貯めとけば良かったぁぁ」
「お前すぐ使うもんな。まー色々揃えて2万円くらいだっけ」
「うぅぅぅ…俺以外はみんな新品で揃えるか中学で使ってたやつ持ってくるし、部室にあるやつ全部ボロいし…」
「仕方ねーべ。しばらく借り物で小遣い貯めれ」
「それっきゃないよなぁ」
俺は飽き性で、でも好奇心強いらしくて。なんでも手を出してはすぐに飽きて触らなくなるって母親によく怒られる。
そんな前科が山ほどあるのにいきなり2万も出せなんて、そりゃ無理かぁって自分でも思ってるよ。でも新しいの、欲しかったなぁ。
──その日の夜に、ダメ元で母さんにお願いすると、渋い顔をしながらも一万円札を二枚差し出してきた。
「マジで?!母さんいいの?!やった!!!」
「母さんは反対したいけど、これはお父さんからよ。煙草やめてお小遣いに余裕があるから買ってあげるんですって」
「ッ…父さん!ありがとう!!」
「…真面目に取り組みなさい。」
「お釣りはちゃんとお父さんに返しなさいよ。」
嬉しくて嬉しくて、二万円を握り締めそうになって母さんにまた叱られた。
父さんはあまり笑ったりしないし口数少ないけど、どんな時でも最後には必ず助け舟を出してくれるんだ。
───それから一年、俺はすっかり弓道が好きになってた。
「神無木、随分と姿勢が良くなってきたな。」
「先生、どうしたら手を離すタイミングをもっと我慢出来るんですか?しっかり狙いたいのに離しちゃって…」
「そうだな…」
弓道は思ってたより難しくて、練習も大変で、でも楽しい。
大会には出た事ないけど、部活を始めてからもうすぐ一年になる今もずっと楽しい。周りには姿勢が良くなったとか言われるし、俺は静かな時間が好きみたいだ。弓道に夢中になればなるほど俺の世界は静かになる。
「お、時間だ。今日は…神無木が後片付けの当番だな。鍵を忘れないように。」
「ういっす!少しだけ残って練習していいですか?」
「30分だけな。あまり暗くなる前に帰れよー」
「はーい」
もう一度、集中してみよう。今よりもっと上手くなりたいから。
そうして弦に手をかけた──────
「────ク、ユーク、大丈夫か?おい、ユーク!」
「………あ」
肩を揺さぶられて、ユークリッドはハッとした。
(道着はすぐ、捨てられて……)
グッと唇を噛む。弓を見ないように別の方向へ頭を向ける。
「どうした」と心配するヴィルヘルムには首を振って返すのが精一杯だ。
店主も心配して色々話し掛けてくれていたが、結局ユークリッドは取り繕う事が出来ないままヴィルヘルムに促されて店を後にした。
(ユークリッド・ロズウェルなら、どんな時でも笑顔を作れたはず、だろ)
「……すみません、用事は済ませられましたか」
「おう。心配すんな。…さて、疲れたなぁ!今日はもう帰るか!」
「わっ!」
ヒョイとヴィルヘルムの肩に座るような形で担がれて、びっくりして頭にしがみついたらガハハと笑い声をあげる様子に、もう反抗する気力もないユークリッドは視界が遮られないよう気をつけながらそのまま頭に捕まって、前を向いた。
「今日はありがとよ、ユーク。また遊ぼうぜ」
「…うん。……ヘル兄さん」
何も聞かないヴィルヘルムは、大きな歩幅で王城へと足を進める。ユークリッドには有難い限りだった。
──自分だけでは見る事の出来ない高さから見えた景色はカラフルな頭ばかりで。やっぱり花畑みたいだなと改めて思った。
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