ノースキャンプの見張り台

こいちろう

文字の大きさ
6 / 27

6.大グモ伝説

しおりを挟む
 百番地は子どもの遊び場に恵まれている。広い空き地がいっぱいあるのだ。オニごっこにしたって、かくれんぼにしたって、いくらだって場所がある。逃げほうだい、かくれほうだいだ。
 中でも人気なのが監視塔そばの空き地だ。草もはえていないし、まるで学校の運動場みたいに広いのだ。広場の端っこには松の木がこんもり茂った築山があって、その木陰に丸太ん棒のベンチが並んでいて休みやすい。
 学校から帰ってそこに行けば、たいがいだれかが遊んでいた。遊ぶ仲間は小学生だけではない。幼稚園の子どもたちや中学生まで一緒になって遊ぶ。少し大きい子たちはソフトボールやドッジボールをする。メンコやビー玉は二人でもできるが、オ二ごっこやかくれんぼは、大きい子も小さい子もみんなで集まって大勢でやるほうが楽しいのだ。
 なんといってもカンけりが人気だっだ。みんなでジャンケンして最初のオ二を決める。オ二が五十数える間に、空きカンを遠くへけとばしてみんながかくれる。オ二は数え終わったらカンを拾って元の場所にもどし、一人ずつ探していく。マゴマゴしているとかくれていた人にまたカンをけられて、最初からやり直しだ。広い空き地だし、五十も数えていたら、たいがいみんな築山の裏っかわのずっと遠くに消えてしまう。かくれ場所はいっぱいあるのだ。だから、オ二になったら大変だ。
 ユーイチはオ二になることが多かった。寛太と健太という双子の六年生が、たいがいユーイチがオ二の時は近い所にかくれていてわざと見つかるのだ。双子だからどっちがどっちかよく分からない。
「寛太くん見つけた!」
というと
「オレ健太やぞ」
と言って、近くにいた寛太の方がすぐにカンまで走ってきてけっとばす。結局、足の遅いユーイチはオ二をいつまでも続けることになる。
 そんなとき、たいがいコウちゃんが交代してくれる。コウちゃんがオ二ならだれにもかけっこで負けないから、簡単に勝負がつく。コウちゃんは強くてやさしいのだ。

 監視塔のそばの大きな広場では、ラジオ体操をしたり子ども会の行事をしたりもする。そんな時にはたいがい町内会長のガミガミさんが出てくる。
 ガミガミさんの家は、築山の真ん前だ。いつも昼過ぎに、築山と、その前にある水の抜けた空っぽの池をそうじしている。ガミガミさんの姿が見えるときは、ユーイチたちはその周りでは絶対遊ばない。
「ルールを守れ!」とか、
「小さい子たちばっかりオニになっとるじゃないか」とか、
何をしていてもうるさく言ってくるのだ。ガミガミさんがガミガミ言わない日はない。
 余計なお世話なんだよ!ルールって、結局大人の勝手じゃないか。ルールを破るやつがいて、でもそれを止めるやつがいて、言われたら言い返して、そうやって面白いからみんな集まってくるんだよ。
 ガミガミさんは、きげんの良いときは子どもを集めていろいろな話をしてくれる。集まるのは、低学年の子どもたちがほとんどだ。大体がお説教みたいな話で、ユーイチたちはこれまでもずい分聞かされてきた。だから、今ではもう聞こうとしない。
 でも、百番地の昔話を話しているときは、つい周りに寄っていく。なんたって、ガミガミさんは昔話の時代を生きてきたような人で、話ぶりがけっこう面白いのだ。
「今日の話は戦国時代というて、日本じゅうが戦争ばかりしておった大昔の話じゃ」
ほら、今日も低学年の子どもたちをを丸太のベンチに座らせて、昔話が始まった。ユーイチは後ろに立って聞いていた。

 北門の向こうに大川が流れておるじゃろう。川上小学校のすぐ裏のおむすび山じゃが、あの山の向こうにはいくつもの山が続いておって、その奥の山のずっと奥の方から、たくさんの山水が集まって大川になって流れてくるんじゃ。
 そのずっと上流の方の山の上に、昔、大きなお寺があった。あるとき、そのお寺に山賊が押し入ってきて、
「飯を食わせろ!」
と言うておどしたそうな。ところが、戦争ばかりのころで食べるものなんかありはしない。
「それなら金めの物をもろうていくぞ!」
そう言うて探し回ったが、寺の中にお金になりそうなものなんて何もない。
「なんじゃ、貧乏寺じゃのう」
腹いせにお坊様の着ている衣をはぎ取って、しぶしぶ去って行った。
 その山賊の中に一人の大男がおったそうな。仲間からも恐れられた力じまんの乱暴者で、帰りぎわに大きな釣鐘を抱えて持って帰ろうとした。ところがあんまり重とうて、途中で大川にほうり落としてしもうたそうじゃ。釣鐘は川の流れの中をゴロンゴロンと転がりながら少しずつ川下の方へ流れていって、やがて行方がわからんようになった。
 その晩の事。大男が居眠りしていると、どうもウデがガサガサする。手でさわってみたら、ハリがねのような太い毛がいっぱい生えておった。
「ありゃ、夢でも見とるんか?」
あわてて起き上がって、足やら顔やらを触ってみたら、なんと体じゅうが毛むくじゃらじゃった。周りで寝ておった仲間に声をかけたら、仲間の名前を呼んだつもりが恐ろしいうめき声になった。そのうめき声で、仲間はみんなとび起きて一目散に逃げていってしもうたそうじゃ。
 夜が明けて、一人ぼっちになった大男は、河原で毛むくじゃらになってしまった体を洗おうとして、水面に映った自分の姿を見てたまげてしもうた。
「ありゃあ、どうやらわしはクモになってしもうたみたいじゃのう!」
毛むくじゃらの顔をして、その真ん中に大きくて赤い目ん玉が二つ、こちらの方をにらんどる。そう、大男はでっかいでっかい大グモになってしもうたんじゃ。悪いことばかりしとるから、天のバツがあたったんじゃろう。
 大グモになった大男は、それからは人目をさけて、どこかへかくれて暮らすようになったそうな。
 それからしばらくして、この辺の大きなクスノキの周りでは、
「夜になったら大グモの化け物が出てきて人を食うぞ!」
と言ううわさが広がった。このあたりの河原のクスノキが、かくれがにちょうどよかったんじゃろう。そのため、村の人たちは恐ろしくて、夕方になると外を出歩かなくなった。
 あるとき、旅のお侍がこの村を通りかかって、大グモのうわさを聞いた。
「よし、それならわしが退治してやろう。そのかわり、見事に仕留めたら、この河原一帯の草むらをわしの領地としてもろうてもええか」
そう村人と約束した。
 昼の間、大グモは一番大きなクスノキの中にかくれているらしい。そう聞いたお侍は、クスノキの前まで行って、でんと仁王立ちに立った。
「やい、こらっ!夜しか出てこれぬような気の小さいひきょう者め。おまえは力自慢じゃそうなが、このわしにはとても勝てまい。どうじゃ、くやしかったらみにくいその姿をわしの前に出して、勝負してみよ!」
 そう言われて、大グモも腹が立ったらしい。クスノキの茂みから、毛むくじゃらの太くて長い脚を二本伸ばして、どっしり地面に下ろした。だけど、やっぱり用心深く、茂みのかげから赤い目を光らせて様子をうかがっているだけで、なかなかそれ以上は姿を現さなんだ。そこで、お侍は刀を抜いてその脚を一本、エイヤッと切り落とした。
「きさまがそのまま出てこぬのなら、この脚はわしがもろうて帰るぞ!」
そう言ってクモの大きな脚を肩にかついで河原を歩いていく。あわててやっと姿を現した大グモは、その後をはって追いかけた。
「かえせえ、かえせえー」
 何度もほえるような大声で叫びながら、脚を取り返そうと追いかけたが、侍はどんどん河原をいってしまう。やがて周りには草も木もなくなった。広い砂丘の真ん中だ。侍は立ち止まると、振り向かいざまに長いヤリで、エイッ!と一突き、追いかけてきたクモのおなかを突き刺した。
「どうじゃ!人に悪さをしたむくいじゃ」
 恐る恐る村人が集まって見てみると、クモは山賊の姿にもどって死んでおった。人間の姿にもどった山賊を見て、
「かわいそうに、せめてここに埋めて墓石でも置いてやろう」
村人がそう言ってその場を少し掘ったところ、砂の中から古めかしい釣鐘が出てきたそうじゃ。山のお寺から流されて、ゆくえが分からなくなった釣鐘じゃった。だから、今でも大川の向こう岸にあるお寺には、その釣鐘がある。
 今でもこの釣鐘をついたら、
「脚をかえせ!脚をかえせ!」
と悲しそうに鳴るんだそうじゃ。

 ユーイチたちは何度も聞かされていた大グモ伝説だ。
「その大グモが埋められた所に、小さな墓石があったんじゃが、進駐軍が来て、その上に監視塔を作ってしもうた」
 ほら、また見張り台の話になる。いつものこじつけだ。
「違うよ。その釣鐘は、『かえせ!かえせ!』じゃなくて、『帰りたい!帰りたい!』と言っては、昔のお寺を恋しがって鳴るんだって、この間土山先生が言ってたよ。だいたい、クモに毛が生えるなんて話しはおかしいじゃろ」
ユーイチはつい言葉をはさんだ。
 ガミガミさんはちょっと困っていたが、一息ついて、低学年の子たちにむけて話をした。
「そういう言い伝えもあるということじゃ。どっちでもいいが、わたしが言いたいことはな、君らは知らずにあの監視塔の周りで遊んでるおるが、あそこは大グモのうらみがこもってるから、絶対近寄っちゃいけない所なんよ。時々鉄条網をくぐって中に入る子がいるらしいが、大グモがたたると怖いぞお。迷信だからだいじょうぶ、なんて思ったら大まちがいじゃ。大人の人から『いけない!』と言われたことは守らなきゃいけん。『いけない!』っていうことは絶対やっちゃあいけないことなんよ」
最後はユーイチの方を見ながらそう言った。
『監視塔に上がってはいけないんだ。近づいてもいけないんだ』
ユーイチみたいな言いつけを守らない子に、そう言いたいんだろう。
 でもユーイチは知っているんだ。ガミガミさんだって、時々あそこの上にあがって、カメラで写真をとったりして、こっそり景色を楽しんでいるってことを。

    
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

小鳥

水翔
絵本
小鳥と少女の物語

処理中です...