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21.クリスマス会
しおりを挟む今日はアイジエンのクリスマス会だ。ケイコちゃんから手作りの招待状をもらった。
昼からコウちゃんと二人でアイジエンに行った。ユーイチの母親はあまりいい顔をしなかった。コウちゃんも
「行っちゃいけん。とは言われんかったけど」と言っていた。
アイジエンの中はとても広かった。中庭を囲むようにコの字型に長い廊下があって小さな部屋がいくつもあった。その奥に大広間があって、レンガ造りの大きな暖炉がある。今日はその中に石炭ストーブが置かれて赤々ともえていた。時々、アイジエンのレンガのえんとつから、黒い煙が上がっていたのはこのせいだったのだ。
その広間の端には、大きなクリスマスツリーがきれいに飾り付けされていた。もう、たくさんの子どもたちが来ていた。席が決まっているわけじゃないけれど、みんな、ストーブの周りを広く開けて、それを囲むようにして床に座っている。
ユーイチとコウちゃんは、入り口でお菓子袋と缶ジュースをもらって、後ろの方にすわった。数えてみると、三十人くらいは子どもたちがいる。
ヒロくんもいた。この間用水池で意地悪をした三人組の間にはさまれて、どちらも顔を見合わせて二コ二コ笑っている。もう仲直りをしたんだ。
川上小の子たちも中町小の子たちも、一緒になってとてもにぎやかだ。
「さあ、みなさん。アイジエンにサンタさんがやってきましたよ。みんなでサンタさーん!と呼んでみて」
園長さんがいつもと違うやさしい声でそう言った。
みんなのかけ声で、サンタクロースが入り口から登場した。
「みなさん、メリークリスマス!」
赤い三角ぼうしと白いヒゲ、顔がかくれてよく見えなかったけれど、声を聞いただけで絶対ガミガミさんだと分かった。いっしょに入ってきた二人のお姉さんもサンタさんのかっこうをして、大きな袋を持っている。
「今日はみなさんにたくさんのクリスマスプレゼントを持ってきました。今からみなさんの席を回っていきますから、一つずつ受け取ってくださいね」
そう言うと、サンタのお姉さんが持った大きな袋の中から、紙包みを一つずつ取り出してみんなに渡してくれた。紙包みの中には自由帳とえんぴつが入っていた。後で聞いた話だと、なんとか会という団体なんだそうだ。お菓子とジュースもそこから出ているらしい。
「今日来てくださったみなさん、いつもアイジエンの子どもたちと仲良くしてくれてありがとう。今日は、ここの子たちみんなで発表会をします。お菓子を食べながら楽しく過ごしてください。では、最初はみんなでクリスマスの歌をうたいます。一緒に歌ってくださいね」
園長さんはとてもうれしそうな顔だった。
アイジエンの子たちがおそろいの服を着て、クリスマスの歌をうたった。トモコちゃんもその中にいた。聞いたことのあるような曲もあれば、全然知らない曲もあった。ユーイチとコウちゃんはお菓子をボリボリほおばった。
おや、ケイコちゃんがいない。ちょっと気になった。
アイジリョウの子たちは一人ずつ発表した。これまでずいぶんけいこしたらしく、みんなの声が合って上手だった。そのあと、ハーモニカの演奏があったり奇術があったり、ジョージは剣舞を舞った。トモコちゃんは指人形劇をした。発表を済ませた子たちは、うれしそうな顔をしてみんなの間に入ってすわった。トモコちゃんも、ユーイチたちの向かい側にすわった。
でも、ケイコちゃんがいない!
そう思っていたら、
「それでは最後にケイコちゃんが日本舞踊をおどってくれます。ケイコちゃんはこれまでずいぶんがんばって練習をしてきました。でも、今日はちょっと緊張してるみたいです。みなさん、しっかり応援してあげてくださいね」
園長先生にうながされて、ケイコちゃんが今日初めて顔を出した。赤い着物を着て、髪もまげに結って、顔もおしろいで真っ白だ。言われなければ、ケイコちゃんとは分からない。まるで時代劇のお姫様のようだ。
「ケイコちゃん、うまいうまい!」
「ケイコちゃん、がんばれ!」
みんなが声援する。ユーイチとコウちゃんはお菓子も食べ終わり、ケイコちゃんの日本舞踊をじっと見ていた。踊る姿はきれいだった。でも、二人にはいいんだか悪いんだかはよく分らない。
ただ、いつもと違ってケイコちゃんの様子が変だ。かっこうが変なだけじゃない。いくら変そうしたって分かる。いつもと違うのだ。緊張してるのか?いや違う。怒っているのか?違う!悲しい顔?いや、悲しいときの顔でもない。でもいつもとなんか違っていた。目が違うのだ。みんなの方を全然見ようとしないのだ。いや、ケイコちゃんの目はどこも見ていない。いつもはもっと茶目っ気のある目だ。いままでこんな目つきをしたことなんてなかった。ちっとも楽しそうにないんだ。見ているユーイチの方が息が苦しくなってきた。何か胸さわぎがして、心臓がドキドキしてきた。
終わった。見ていて疲れた。
踊りが終わってすぐケイコちゃんは出て行った。みんなが拍手をしている間に、広間から出て行った。そして、それっきりもどってこなかった。トモコちゃんが顔をふせて泣いていた。離れているからよく見えないけれど、だまりこくって、ハンカチで涙をふいていた。
帰りがけ、ユーイチの家の前でユーイチとコウちゃんの母親が、二人で立ち話をしていた。
「あら終わったの?」
「楽しかったかい?」
明らかにアイジエンのクリスマス会に行ったことを良く思っていないのだ。
「楽しかったよ。ケイコちゃんの日本舞踊すごかったよ」
とユーイチが言うと、
「そう、それは良かったね。でも、そろそろ女の子のうちに行って遊ぶのはやめとこうね」
そう言って母親同士が目くばせをした。
「なんで?」
とコウちゃんが聞き返した。
「もうすぐ六年生だもの。男の子と遊べばいいじゃないの」
コウちゃんのお母さんが答えた。
「外にいくらでも遊べるところがあるでしょ。野球だって、サッカーだって、外でみんなと遊べばいいじゃない」
いつもは外で遊んでいると、勉強しろとか言ってるくせに、だ。
「はっきり言えよ!結局、ケイコちゃんたちと遊ぶのがいやなんだろ!」
コウちゃんは怒ったように言って、一人で帰っていった。おばさんは困ったような顔をしていた。
次の日、学校の帰りがけにアイジエンの前を通ると、トモコちゃんが一人、門の前でしゃがみこんでいた。
さびしそうだった。トモコちゃんは小さな声で話した。涙を流していた。
「ケイコちゃんがね、ケイコちゃんがいなくなっちゃったんよ」
「えっ!何で?」
ユーイチもコウちゃんもびっくりした。
「昨日ね、あれからおじさんが迎えに来て、そのまんま遠いところに行ってしまったの」
「近いうちにここからいなくなるんだって、ケイコちゃん前から言ってたんよ。でもね、でもそれ以外何にも話してくれなかった。クリスマス会のときね、ひょっとして今日なのかなって感じがしてたんよ。でも、なんにも話す間なんてなかった」
トモコちゃんはとうとう声を上げて泣き始めた。
「声をかけてあげたかったんよ。がんばれって言ってあげたかったんよ。でもね、さよならも言えんかった」
そうなのか。全然知らなかった。
そばで聞いていたコウちゃんが、
「チクショウ!」と言って走って行った。
しばらくして、トモコちゃんがひとり言のように言った。
「わたしとケイコちゃん、本当はね、姉妹じゃあないんよ。わたしとジョージは兄妹だけど、ケイコちゃんは違うんよ。園長さんから、あんたたち三人は兄妹よ、って言われて、それからアイジエンの中ではそういうことになったんよ。わたしの母さんは朝鮮人でわたしの本当の名前はソユン」
アイジリョウの玄関の方を振り返って大きく叫んだ。
「わたしはソユンだアッ!」
涙ぐんで、でも強い、力のこもった声だった。
「ここは大好きなんよ。百番地はね。でもね、わたしももうじき朝鮮に帰ることになる」
ユーイチは、ケイコちゃんがいなくなったことを連絡ノートに書いた。
なんでいなくなったんだろう。どこに行ったんだろう。これまでのいろんなことを思い出しながら考えた。
下校の時に、土山先生はユーイチを呼び止めて言った。
「ケイコちゃんのこと、これまでありがとう。ユーイチくんの連絡ノートのおかげで、ケイコちゃんの最近の様子を知ることができて、先生うれしかったわ。お別れはさびしいよね。でもね、ケイコちゃん、これから幸せになるといいね」
先生の目に少し涙が光っていた。
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