ノースキャンプの見張り台

こいちろう

文字の大きさ
22 / 27

22.もちつき

しおりを挟む
   
 十二月二十八日が来た。リューイチの家が一番忙しい日だ。
 リューイチの家では、毎年この日にモチつきをする。年々近所の家からたのまれる数が増えてきて、たくさんのおモチをつかなくちゃならない。この日は、隣のタッちゃんの家からもみんなが手伝いに来る。近所のおばさんたちも手伝いに来て、リューイチの家の庭先はとてもにぎやかだ。
 ふだんはほとんど閉まったままの納屋の中で、一年間眠っていたモチつき機。それを、みんなで中庭のど真ん中に引きずり出してくる。『ダイガラ』っていう古い道具だけど、年に一度の晴れ舞台だ。
 ダイガラは、長いキネの先を足でふんでモチをつく機械で、片足でふみこむのにけっこう力がいるのだ。リューイチのお父さんとタッちゃんのお父さんが交代でふむ。思いっきりふんでキネを高く上まであげる。キネが真上に上がったところで足をはずす。するとまっすぐウスの中に落ちて、ドスン。ウスの中の蒸したご飯の上でペッタン。それを繰り返し、ドスンペッタンとやってモチをつく。
 じーちゃんが、ウスの中のモチをしゃもじでひっくり返す役だ。ときどき近所のおじさんたちが交代してくれる。
 中庭には、ハガマが二つ置かれて、モチ米が次から次へ蒸し上がる。そのそばに大きな台があって、モチとり粉を敷いた上につきあがったモチが運ばれてくると、母さんやばーちゃんが、近所のおばさんたちと一緒に、小さくちぎっては丸めていく。
 おじさんたちはお酒を飲みながら、うれしそうにダイガラを囲んでいる。おばさんたちはよくしゃべる。手より口の方がよく動いている。
 今年はユーイチの家からもたのまれた。リューイチは絵画教室の時、
「もちつきを見に来いよ」
と、ユーイチを誘った。
 ユーイチは、朝から真法寺橋を渡ってやってきた。初めて見るモチつきにびっくりしたみたいだ。
「馬が思いっきり前足を上げた姿に似とるね。これでヒヒーンと鳴いたらまるで西部劇みたいじゃ!」
足で踏むモチつきに目を丸めてそう言った。
「なるほど!西部劇か」
いつも面白いことを言い出すユーイチだ。言われて見ると、モチに向かって振り下ろすキネが台座から長くのびていて、まるで馬が高くいなないているみたいだ。
「こりゃあ、ダイガラというてのう、昔はお米のだっこくにも使うておった。農家には大事な道具じゃったんよ。ユーイチくんの言うように、『うま』というておる地方もたしかにあるみたいじゃ。どうじゃ、ちょっとうまに乗ってやってみるか?」
リューイチたちの話を聞いていたじーちゃんが言った
「えっ!いいの?」
ユーイチは喜んでさっそくふみ台に上がった。右足で思いっきりふみ込んで、うまの首をぐっと持ち上げる。
「わあっ、馬の頭が上がった!簡単に持ち上がったよ!」
「そうそう、その調子で首を上げたら今度は足をはなす。そしたら馬の頭がウスの真ん中にドスンと落ちるんじゃ!」
ウマの首はまっすぐウスの中のモチにドスンで、ペッタン。
「つけたぞ!つけたぞ!モチがつけた」
「うまいうまい。今度はまた思い切り足でふみこんで、頭が上がったら、もう一回ドスンとやってごらん」
周りのおじさんたちがおだてるものだから、ユーイチはますます調子にのった。
 でも、
「あっ、あれ?今度は踏んでも上がらんよ。もちがキネにくっついてしもうて、うまく上がらん!」
ウスの中のモチをしゃもじでこねていたじーちゃんが、キネからくっついたモチをはずして助けてくれた。
「ようし、これでもう一回上にあげて、ぺったん・・・。あれ思い切り踏んだけど、今度もまた上がらん。一つも動かんぞ。モチにモチャッとつかまってしもうた」
お調子者のユーイチでも、ぺったんこぺったんこと調子よくはモチがつけないんだ。
「ああ、もう力が出ないよ。モチつきって、ずい分力がいるんじゃね。モチにつかまってしもうて、足がモチの中に吸い込まれるような感じじゃった」
ユーイチは二回目でもうダウンだ。
「よしっ!」
交代だ。こんどはリューイチがやってみる。
 うまくついてユーイチにいいところを見せてやろう。去年も少しやっていたから、コツは分かっている。そう思ったのに、
「あれっ、でもうまく上がらないぞ。本当に、モチのねばり腰って強いや。去年は出来てたんだぞ」
これじゃユーイチの前で自慢できない。
 今度はタッちゃんがやってみた。さすが名投手タッちゃん。まっすぐうまを上にあげて真っすぐぺったん。あれっ、やっぱりここからが上がらない。
「うまがうまく上がらんのぉ。ふんでもふんでも動きゃあせん。うまがうまいこと動かん」
力持ちのタッちゃんでもだめか。三人ともウマが合わないんだ。

 つきたてのモチにきな粉をつけて食べていると、テンテケ、テンテケ、タイコの音がする。
「あれは何の音なんじゃろ?」
ユーイチは知らないらしい。リューイチたちには聞きなれた『紙芝居屋』のおっちゃんが鳴らすタイコの音だ。
「あれは紙芝居屋の合図じゃ。ユーイチくんは紙芝居屋を知らんの?」
「紙芝居の店屋が来るんかあ。うわあ見てみたいよ。百番地にはそんなの来ない」
リューイチとタッちゃんは、ユーイチを連れて真法寺の境内まで行った。ベロンも一緒に散歩だ。
「真法寺ってこの寺なんか。リューイチくん、ここの寺の鐘の音は、やっぱり『帰りたい、帰りたい』って鳴るんかねえ?」
 大川の上流から流れてきたという大グモ伝説の鐘だ。
「いいや。百番地の子はよく大グモの話をするけどね。でも、ぼくらには『ここがええ!ここがええ!』と、楽しそうに響いて聞こえるんじゃ」
 真法寺の門前に広い空き地があって、もうたくさんの子どもが集まっていた。
テンテケテンテケ、トトントン。紙芝居屋のタイコが鳴りやんだ。
「さあさあ、おっちゃんに会えるのは、今年は今日でおしまいだ!しまいにしっかりアメを買っとくれ」
紙芝居のおっちゃんは、自転車の荷台に大きな駄菓子の箱をのせている。
「おっちゃん、今日は水あめとスルメをちょうだい」
城田さんが一番最初に買った。
 それに続いて次から次へと駄菓子が売れていく。水あめやソースせんべいが一番よく売れるみたいだ。カルメラやニッキやスコンブなんかも売れていって、いろんなにおいが一緒になって鼻をくすぐってくる。子どもが欲しくてたまらなくなる匂いだ。ベロンはこの甘い匂いにとても弱い。すぐに城田さんにくっついておねだりをする。忍者犬ベロンはどうも女の子の方が好きみたいだ。
「さあ、じゃあ紙芝居を始めるよ。買ってくれた子たちは前に集まって見てちょうだい。買ってくれなかった子は後ろに行って」
「なんじゃ、買ってくれた子ばっかりひいきするんか!」
初めて見るユーイチは不満そうにそう言った。
「ちょっと声が大きいよ!そういうことに決まっとるんよ。おっちゃんもアメを売るのが商売なんじゃから」
リューイチは小声でそう言って、後ろから紙芝居を見た。
 おっちゃんが拍子木をたたく。
「さあさあ、今年一番人気の『快傑黒潮丸』だよ。お姫様を連れて、城を抜け出した黒潮丸。さてその行く手はいかに!始まり始まりィー。カチカチカチカチ」
いつの間にか、ユーイチは一番前の真ん中に立っていた。

 帰り際、土手を歩きながらユーイチが言った。
「どんな悪事も黒頭巾が解決ダア、江戸の平和は守ってみせる、だって。でも、なんで日本が平和じゃないとモチがつけんのじゃろうか?」
さっきじーちゃんがもちを食べながら言っていた。それを思い出したんだろう。
「今年も平和な一年じゃった。平和はありがたいのう。平和じゃからこうやってモチがつけるんじゃ」
じいちゃんは、たしか去年も同じことを言っていた。
 川の向こうに監視塔が見えている。夕陽があたってまぶしい。
「あっ、リューイチくん。ほらまた見張り台から赤い光が出とるぞ!」
「あれはね、夕陽が反射して光ってるんよ」
「いや、その光とは違うんじゃ。特別な光じゃ。ほら、一本の赤いすじがスーッと見張り台の中から、今こっちに向かって光った。間違いない。やっぱりあそこからだれかがぼくらを見張ってるんじゃ!」
 相変わらず、ユーイチは不思議な少年だ。
川北小学校には、まずいないタイプだ。でも、変わってるけど面白いやつだ。

 不思議な少年は真法寺橋を渡って、不思議な世界に帰って行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

処理中です...