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父さんが帰ってきた。渡し船に乗って、タケルに思いっきり手を振って。
渡し船は人でいっぱいだった。こんなにたくさんの人が、島に帰ってくるんだ。もう島じゅうが人でいっぱいだ。
父さんのバッグを両手でかかえた。
「重たいよォ」
「元気だったか?」
イイヤ、って首を横に振った。元気だったような、でも・・・
「台風、メチャクチャこわかったんだぞ!」
「そうか。ハハハ、おばあちゃんがぜんざいを炊いてくれたろう。とうさんは子どものころ、あのぜんざいが大好きだったんだ」
「うん。でもあのぜんざいで、台風は余計に長く居たくなったんじゃないのかなあ」
「そうかも知れないね。ワハハ」
じいちゃんちのビワの木のかげから、ぽんちゃんがそっとのぞいていた。
「ぽんちゃん、とうさんだよ」
「そうか、ぽんちゃんか。たしか、きみには以前会ったことがあるよね。いつもタケルのこと、遊んでくれてありがとう」
ぽんちゃんはうれしそうに、大きなしっぽをプルプルふった。そして、山の方に帰って行った。
「遊んでもらってなんかないぞ。遊んでやってるんだぞ。オレがモモタロウで、ぽんちゃんもモンタもウリ坊も、みんなオレの家来なんだぞ」
「そうかそうか。ハハハ」
じいちゃんもばあちゃんもうれしそうだった。人がふえると、晩ご飯っておいしい。
次の日、早くから海岸そうじに行った。朝からずい分暑かった。それなのにライフジャケットと長ぐつだ。
「これ暑いよ」って言ったら、
「海岸に近づくときは何があるかわからん。ちゃんと着けとけ」って、じいちゃんが言ってた。
父さんと二人で、学校の横の山道を抜けて、島のうらっかわの浜に下りた。うらっかわにつながるこんな道があったんだ。今まで森の中にかくれていたのを、島の人たちが、生い茂った雑草や横に伸びた木の枝なんかを切って、きれいな道にもどしたらしい。
「とうさんの子どものころは、しょっちゅうここを通って、うらの浜でキャンプごっこをしたもんだ」
「へえ!あの浜は、ぼくらモモタロウ探検隊が、初めて発見したんだと思ってた!」
「あの浜はね、子どもの絶好の遊び場所だったんだ。漁港のじゃまにならないしな。夏休みはたいがいあそこで泳いだり、いかだを組んで沖の方までこいでいったり、浜でビーチバレーをしたこともあったな」
浜にはもうたくさんの人が集まっていた。子どももたくさんいる。小学生くらいの子どもだってずい分いた。これだけいれば、この島の学校だってにぎやかで楽しかったのに
父さんは会う人ひとりひとりに、なつかしそうに声を掛けていた。
村上のおじさんも、父さんが子どものころの遊び仲間だったみたいで、笑い声をあげながら長いこと話していた。もう一人、漁協の組合長さんとも仲が良かったみたいだ。組合長さんてガキ大将だったんじゃないのかな・・・
「よっ!島の宝のタケルくん。おーい、みんな!この子が今日の海岸そうじの発案者だ。この間、一人でここまで来て、ずいぶんきれいにしてくれたんだぞ。今日はそうじ範囲を広げて、ふだん使わないこのあたりの漂着物を、みんなで手分けしてかたずけるからな。遠くから帰ってきたばかりでつかれてるだろうけど、よろしくたのむよ!」
組合長さんの一声で、みんなゴミを拾い始めた。
「タケルは島の宝になったんだってな」
父さんが笑いながら言った。
「うん。なんかそうみたい。でも、一人でじゃなくて、ゴミ拾いをしたのは、ホントは・・・」
あれ、ぽんちゃんとモンタとウリ坊が、こっそり木かげからこっちを見てる。
「いい仲間ができてよかったな。でも島の宝じゃ、東京に帰れなくなっちゃうな」
「東京なんて・・・、こっちのほうがずっと楽しいよ」
でも、違うよ。違う
タケルは、それは違うと思ったんだ。だけど・・・
夕方からは盆踊りに行った。漁港の近くに広場があって、そこにやぐらが建てられ、提灯がいっぱいぶらさがっている。
「どうしてやぐらの上だけあんなに明るくするの」
タケルがそう聞くと、
「お盆になったら、亡くなったご先祖様がみんな島に帰ってくるんじゃ。そのときの目印に、島の真ん中を明るくしとるんじゃ」
そう、じいちゃんが教えてくれた。
「今年は特に、お母さんが亡くなって初めてのお盆だから、しっかり明るくしておかないと、お母さん、タケルのところに戻ってこれないだろ」
そう父さんも言った。
「そうか、母さんが帰ってくるのか。それじゃあ、ぼくはここだぞって、しっかり目立っておかなきゃな」
でも、亡くなった人だけじゃなくて、都会から帰ってきた人も多い。小さい島が沈みそうだ。もう広場はいっぱい人がいるし、海岸の道だって人でいっぱいだ。こんなに人がいて、母さん気が付くだろうか。
「父さんたちが子どものころは、ここの広場に小学校があったんだ。今は校舎もブランコもなんにもなくなったけどね」
「ああ、ブランコなら小学校に持ってったよ。ぼくのために、校長先生と村上のおじさんが移してくれたんだ。シーソーもあるし、すべり台も、今組み立ててるところだよ」
「そうか。なつかしいな。タケルは幸せものだな」
周りの提灯にも明かりがともされ始め、広場全部がまるで昼間みたいな明るさだ。突然やぐらの上のおじさんが、マイクを持って大声で話し始めた。漁協の組合長さんだ。
「えーっ、昼間は海岸清掃にご協力いただき、ありがとうございました。久しぶりに、なつかしい人たちの声がいっぱい聞こえて、島じゅうがパッと明るくなったような気がします。さて、これからはにぎやかに盆踊りや花火を一緒に楽しみましょう。タケルくん、タケルくんはいるか。ここに上がっておいで」
急に呼ばれてタケルはびっくりした。とうさんに「ほれ、上がっておいで」って言われて、やぐらの下まで連れていかれた。はずかしかったけど、タケルはやぐらの上にあがった。
わあ、思った以上に高い!とうさんもじいちゃんもばあちゃんも、みんな小さく見える。三百六十度、まわり全部が、たくさんの人に囲まれている。
「えー、今年の応援団長のタケルくんです。海岸清掃を思い立ってくれた、島のヒーロー、いや島の宝のタケルくんです。さあ、タケルくん。おじさんとおそろいのこのハッピを着けて、今夜はやぐらの上から、みなさんの踊りの応援団長だ」
えっ、はずかしいっ!運動会はまだ先だぞ
でも、おじさんとおそろいのハッピを着せられた。青いハッピに、大きな白文字で大漁って書いてある大漁ハッピだ。
盆踊りの歌が流れ始めた。
「さあ、応援団長。しっかり応援するぞォ!」
そんな!
この上に立ってるだけで恥ずかしいのに、声を出すなんてもっと恥ずかしいよ。
「ソーレ、ソレソレ!今夜は楽しい盆踊りィ。みんなで踊ろう。ゆかいに踊ろう。村上のなみちゃん、みなちゃん、ゆかたがかわいいよ!楽しく楽しくがんばってねぇ。吉川くんのご家族、おかえりなさい。太田のおじいちゃんとおばあちゃん、今年もとってもお元気だ。ソーレ、ソレソレ、ソレソレソレソレ!踊ろう踊ろう。みんなで楽しく楽しく、楽しく踊ろう。ソレソレソレソレ!」
おじさん、自分もやぐらの上で踊りだした。タケルがはじっこでよけてると、タケルの両手をつかんで、一緒に手を振り、足を上げて踊りだした。はしゃぎすぎだよ。はずかしいなんてものじゃない。
でもみんな、おじさんから名前を呼ばれるたびに笑って手を振り、ソレソレソレソレッてヤグラの周りで楽しく踊る。
漁協組合長の大漁おじさん、応援団長にぴったりだ。
おじさんはますます調子にのって、いろんな人に声をかけて、ホレッ楽しく楽しくって、両手の扇をヒラヒラさせて・・・
もう無茶苦茶だ。タケルも、おじさんと手を上げ足を上げて、やぐらの上でぐるぐるまわりだ。でも、そのうちひとりでに体が動き出した。そして、
「がんばれ、がんばれ」って、いつの間にか叫んでた。周りを踊ってるみんなの小さな顔が、一人ずつよく見えた。よく見かける人だっているし、そうでない人だっている。
あれ、ぽんちゃんだ!モンタもいる。ウリ坊もだ。みんな踊りの輪の中にいるぞ。楽しそうだ。楽しそうに踊ってるよ。
「おーい、ぽんちゃんがんばれッ!モンタもっともっと手を振るんだよ。ウリ坊もしっかりしっかり鼻を上げて、みんな楽しく楽しく、楽しく踊れぇ!」
「おッ!応援団長、元気ないい声が出るようになったじゃないか」
だって、体と口が勝手に動くんだ。
わあ、楽しいよ。楽しくてしょうがないや。
あれ、母さんだ!母さんもみんなと一緒に、楽しそうに踊ってるぞ。道を迷わず、島に戻ってきたんだ。よかったなあ
「おーい母さーん!ぼくがんばってんだぞォ!」
次の日、父さんは一日タケルと遊んでくれた。
まず、サッカーだ。学校の校庭で二人だけのサッカーだ。思いっきりけった。父さんは追いかける。タケルがあともうちょっとのところで追いついた。球を渡すもんか。タケルは次もけった。すると横にそれてとんでもないところに飛んでった。父さんはすぐに追いついて、タケルが走ってる方にパスしてくれた。
ぼくが動きやすいようにアシストしてくれてるんだ
「タケル、よく飛ばせるようになったじゃないか。ずい分練習したな」
「うん。ぽんちゃんたちがけっこう練習相手になるんだ。校長先生だってすごいんだぞ」
「そうか。よかったな」
「野球だって、すもうだって本気で向かってくるから、相手になってやるの、大変だぜ」
「よかったよかった。この校庭は父さんたちが中学校の時に使ってたグランドでね、父さんはここの野球部に入ってたんだよ。なつかしいなあ。向こうのバックネット裏の木かげで、いつもコーチの岡田さんが腕組みして立っていた。オニみたいなコーチでね。いつもズボンの後ろポケットから赤手ぬぐいをぶら下げてた。だから、みんなから『赤シッポ』なんて呼ばれてたけど、部活の時間になると必ずグランドに現れてみっちり指導してくれるんだ。島の人なんだけど、みんなよく知らないって言ってた。今どこにいるんだろうなあ」
赤いシッポ・・・
「そうだ。体育倉庫の屋根がこわれたって言ってたな。ちょっとできるところを修理しておこう」
「あそこでね、ぽんちゃんたちがいつも寝てるみたいだよ」
「そりゃ、タケルがいつもお世話になってる友達だ。雨もりしないようにちゃんと修理しなくちゃね」
お盆の間は、校長先生も中原先生もいない。体育倉庫はトタン屋根がめくれ上がって、カベも穴が開いて、中のものがぐちゃぐちゃだ。でも柱はしっかりしていた。父さんは家からベニヤ板や道具を一とおり持ってきて、本格的に修理を始めた。
「この倉庫はね、昔、野球部の用具入れとして、岡田さんと部員のみんなで作ったものなんだ。なつかしいなあ」
なんて言いながら、屋根に上がってトタン板を打ち直した。
「キャッ!」
モンタだ。モンタが柱のかげにかくれてたんだ。
「モンタ、下りて来いよ。父さんだよ。心配ないからさ」
「ごめんな。休んでるところをじゃましたね。おどかすつもりはなかったんだ。いつもタケルと遊んでくれてありがとう。今すぐに君たちのすみかを修理するから、少しだけがまんしてね」
モンタのやつ、父さんが言うとすなおだ。タケルのそばで父さんの作業を見ていたけど、すぐにやり方を覚えたのか、小さい板やら、工具なんかをとうさんに渡しだした。
「モンタくん、お手伝いをするんだ。えらいなあ。よし、一緒に作ろうや。前よりずっと立派なきみたちの家を作ろう」
そう言われたものだから、モンタは余計に調子に乗って、手伝いだした。タケルだって負けてはいられない。
「モンタって気分屋だな。いつもはオレの命令にちっとも従わないんだぞ」
「そんなことないよ。モンタくんは自分でやんなきゃいけないことは、よく分かってるんだよな」
「でもさ、モモタロウ隊の家来なんだぞ。もうちょっとオレの言うことを聞かなくっちゃ」
「だめだよ。モモタロウはモンタくんたちを家来なんて思っちゃいけないぞ。みんな一緒に生きてる仲間なんだ」
モンタはタケルに向かって「キキッ」と言った。
なまいきだよ!
「さて、屋根が出来上がりました。これで、カベの穴にベニヤ板を打ち付けたらおしまいだ」
ちょっと直すつもりが大仕事になった。タケルも一緒に手伝いながらやっと完成させた。
「昔より、きれいになったかな。もうしばらくは持ちそうだ」
父さんは満足そうにながめていた。モンタも父さんの横で、一人前の顔をしてながめていた。
夕方の渡し船で父さんが帰っていった。桟橋のタケルとじいちゃんとばあちゃんに、思いっきり手を振って、夕陽のまぶしい海の中を、また一人で島からはなれて行った。
渡し船は人でいっぱいだった。こんなにたくさんの人が、島に帰ってくるんだ。もう島じゅうが人でいっぱいだ。
父さんのバッグを両手でかかえた。
「重たいよォ」
「元気だったか?」
イイヤ、って首を横に振った。元気だったような、でも・・・
「台風、メチャクチャこわかったんだぞ!」
「そうか。ハハハ、おばあちゃんがぜんざいを炊いてくれたろう。とうさんは子どものころ、あのぜんざいが大好きだったんだ」
「うん。でもあのぜんざいで、台風は余計に長く居たくなったんじゃないのかなあ」
「そうかも知れないね。ワハハ」
じいちゃんちのビワの木のかげから、ぽんちゃんがそっとのぞいていた。
「ぽんちゃん、とうさんだよ」
「そうか、ぽんちゃんか。たしか、きみには以前会ったことがあるよね。いつもタケルのこと、遊んでくれてありがとう」
ぽんちゃんはうれしそうに、大きなしっぽをプルプルふった。そして、山の方に帰って行った。
「遊んでもらってなんかないぞ。遊んでやってるんだぞ。オレがモモタロウで、ぽんちゃんもモンタもウリ坊も、みんなオレの家来なんだぞ」
「そうかそうか。ハハハ」
じいちゃんもばあちゃんもうれしそうだった。人がふえると、晩ご飯っておいしい。
次の日、早くから海岸そうじに行った。朝からずい分暑かった。それなのにライフジャケットと長ぐつだ。
「これ暑いよ」って言ったら、
「海岸に近づくときは何があるかわからん。ちゃんと着けとけ」って、じいちゃんが言ってた。
父さんと二人で、学校の横の山道を抜けて、島のうらっかわの浜に下りた。うらっかわにつながるこんな道があったんだ。今まで森の中にかくれていたのを、島の人たちが、生い茂った雑草や横に伸びた木の枝なんかを切って、きれいな道にもどしたらしい。
「とうさんの子どものころは、しょっちゅうここを通って、うらの浜でキャンプごっこをしたもんだ」
「へえ!あの浜は、ぼくらモモタロウ探検隊が、初めて発見したんだと思ってた!」
「あの浜はね、子どもの絶好の遊び場所だったんだ。漁港のじゃまにならないしな。夏休みはたいがいあそこで泳いだり、いかだを組んで沖の方までこいでいったり、浜でビーチバレーをしたこともあったな」
浜にはもうたくさんの人が集まっていた。子どももたくさんいる。小学生くらいの子どもだってずい分いた。これだけいれば、この島の学校だってにぎやかで楽しかったのに
父さんは会う人ひとりひとりに、なつかしそうに声を掛けていた。
村上のおじさんも、父さんが子どものころの遊び仲間だったみたいで、笑い声をあげながら長いこと話していた。もう一人、漁協の組合長さんとも仲が良かったみたいだ。組合長さんてガキ大将だったんじゃないのかな・・・
「よっ!島の宝のタケルくん。おーい、みんな!この子が今日の海岸そうじの発案者だ。この間、一人でここまで来て、ずいぶんきれいにしてくれたんだぞ。今日はそうじ範囲を広げて、ふだん使わないこのあたりの漂着物を、みんなで手分けしてかたずけるからな。遠くから帰ってきたばかりでつかれてるだろうけど、よろしくたのむよ!」
組合長さんの一声で、みんなゴミを拾い始めた。
「タケルは島の宝になったんだってな」
父さんが笑いながら言った。
「うん。なんかそうみたい。でも、一人でじゃなくて、ゴミ拾いをしたのは、ホントは・・・」
あれ、ぽんちゃんとモンタとウリ坊が、こっそり木かげからこっちを見てる。
「いい仲間ができてよかったな。でも島の宝じゃ、東京に帰れなくなっちゃうな」
「東京なんて・・・、こっちのほうがずっと楽しいよ」
でも、違うよ。違う
タケルは、それは違うと思ったんだ。だけど・・・
夕方からは盆踊りに行った。漁港の近くに広場があって、そこにやぐらが建てられ、提灯がいっぱいぶらさがっている。
「どうしてやぐらの上だけあんなに明るくするの」
タケルがそう聞くと、
「お盆になったら、亡くなったご先祖様がみんな島に帰ってくるんじゃ。そのときの目印に、島の真ん中を明るくしとるんじゃ」
そう、じいちゃんが教えてくれた。
「今年は特に、お母さんが亡くなって初めてのお盆だから、しっかり明るくしておかないと、お母さん、タケルのところに戻ってこれないだろ」
そう父さんも言った。
「そうか、母さんが帰ってくるのか。それじゃあ、ぼくはここだぞって、しっかり目立っておかなきゃな」
でも、亡くなった人だけじゃなくて、都会から帰ってきた人も多い。小さい島が沈みそうだ。もう広場はいっぱい人がいるし、海岸の道だって人でいっぱいだ。こんなに人がいて、母さん気が付くだろうか。
「父さんたちが子どものころは、ここの広場に小学校があったんだ。今は校舎もブランコもなんにもなくなったけどね」
「ああ、ブランコなら小学校に持ってったよ。ぼくのために、校長先生と村上のおじさんが移してくれたんだ。シーソーもあるし、すべり台も、今組み立ててるところだよ」
「そうか。なつかしいな。タケルは幸せものだな」
周りの提灯にも明かりがともされ始め、広場全部がまるで昼間みたいな明るさだ。突然やぐらの上のおじさんが、マイクを持って大声で話し始めた。漁協の組合長さんだ。
「えーっ、昼間は海岸清掃にご協力いただき、ありがとうございました。久しぶりに、なつかしい人たちの声がいっぱい聞こえて、島じゅうがパッと明るくなったような気がします。さて、これからはにぎやかに盆踊りや花火を一緒に楽しみましょう。タケルくん、タケルくんはいるか。ここに上がっておいで」
急に呼ばれてタケルはびっくりした。とうさんに「ほれ、上がっておいで」って言われて、やぐらの下まで連れていかれた。はずかしかったけど、タケルはやぐらの上にあがった。
わあ、思った以上に高い!とうさんもじいちゃんもばあちゃんも、みんな小さく見える。三百六十度、まわり全部が、たくさんの人に囲まれている。
「えー、今年の応援団長のタケルくんです。海岸清掃を思い立ってくれた、島のヒーロー、いや島の宝のタケルくんです。さあ、タケルくん。おじさんとおそろいのこのハッピを着けて、今夜はやぐらの上から、みなさんの踊りの応援団長だ」
えっ、はずかしいっ!運動会はまだ先だぞ
でも、おじさんとおそろいのハッピを着せられた。青いハッピに、大きな白文字で大漁って書いてある大漁ハッピだ。
盆踊りの歌が流れ始めた。
「さあ、応援団長。しっかり応援するぞォ!」
そんな!
この上に立ってるだけで恥ずかしいのに、声を出すなんてもっと恥ずかしいよ。
「ソーレ、ソレソレ!今夜は楽しい盆踊りィ。みんなで踊ろう。ゆかいに踊ろう。村上のなみちゃん、みなちゃん、ゆかたがかわいいよ!楽しく楽しくがんばってねぇ。吉川くんのご家族、おかえりなさい。太田のおじいちゃんとおばあちゃん、今年もとってもお元気だ。ソーレ、ソレソレ、ソレソレソレソレ!踊ろう踊ろう。みんなで楽しく楽しく、楽しく踊ろう。ソレソレソレソレ!」
おじさん、自分もやぐらの上で踊りだした。タケルがはじっこでよけてると、タケルの両手をつかんで、一緒に手を振り、足を上げて踊りだした。はしゃぎすぎだよ。はずかしいなんてものじゃない。
でもみんな、おじさんから名前を呼ばれるたびに笑って手を振り、ソレソレソレソレッてヤグラの周りで楽しく踊る。
漁協組合長の大漁おじさん、応援団長にぴったりだ。
おじさんはますます調子にのって、いろんな人に声をかけて、ホレッ楽しく楽しくって、両手の扇をヒラヒラさせて・・・
もう無茶苦茶だ。タケルも、おじさんと手を上げ足を上げて、やぐらの上でぐるぐるまわりだ。でも、そのうちひとりでに体が動き出した。そして、
「がんばれ、がんばれ」って、いつの間にか叫んでた。周りを踊ってるみんなの小さな顔が、一人ずつよく見えた。よく見かける人だっているし、そうでない人だっている。
あれ、ぽんちゃんだ!モンタもいる。ウリ坊もだ。みんな踊りの輪の中にいるぞ。楽しそうだ。楽しそうに踊ってるよ。
「おーい、ぽんちゃんがんばれッ!モンタもっともっと手を振るんだよ。ウリ坊もしっかりしっかり鼻を上げて、みんな楽しく楽しく、楽しく踊れぇ!」
「おッ!応援団長、元気ないい声が出るようになったじゃないか」
だって、体と口が勝手に動くんだ。
わあ、楽しいよ。楽しくてしょうがないや。
あれ、母さんだ!母さんもみんなと一緒に、楽しそうに踊ってるぞ。道を迷わず、島に戻ってきたんだ。よかったなあ
「おーい母さーん!ぼくがんばってんだぞォ!」
次の日、父さんは一日タケルと遊んでくれた。
まず、サッカーだ。学校の校庭で二人だけのサッカーだ。思いっきりけった。父さんは追いかける。タケルがあともうちょっとのところで追いついた。球を渡すもんか。タケルは次もけった。すると横にそれてとんでもないところに飛んでった。父さんはすぐに追いついて、タケルが走ってる方にパスしてくれた。
ぼくが動きやすいようにアシストしてくれてるんだ
「タケル、よく飛ばせるようになったじゃないか。ずい分練習したな」
「うん。ぽんちゃんたちがけっこう練習相手になるんだ。校長先生だってすごいんだぞ」
「そうか。よかったな」
「野球だって、すもうだって本気で向かってくるから、相手になってやるの、大変だぜ」
「よかったよかった。この校庭は父さんたちが中学校の時に使ってたグランドでね、父さんはここの野球部に入ってたんだよ。なつかしいなあ。向こうのバックネット裏の木かげで、いつもコーチの岡田さんが腕組みして立っていた。オニみたいなコーチでね。いつもズボンの後ろポケットから赤手ぬぐいをぶら下げてた。だから、みんなから『赤シッポ』なんて呼ばれてたけど、部活の時間になると必ずグランドに現れてみっちり指導してくれるんだ。島の人なんだけど、みんなよく知らないって言ってた。今どこにいるんだろうなあ」
赤いシッポ・・・
「そうだ。体育倉庫の屋根がこわれたって言ってたな。ちょっとできるところを修理しておこう」
「あそこでね、ぽんちゃんたちがいつも寝てるみたいだよ」
「そりゃ、タケルがいつもお世話になってる友達だ。雨もりしないようにちゃんと修理しなくちゃね」
お盆の間は、校長先生も中原先生もいない。体育倉庫はトタン屋根がめくれ上がって、カベも穴が開いて、中のものがぐちゃぐちゃだ。でも柱はしっかりしていた。父さんは家からベニヤ板や道具を一とおり持ってきて、本格的に修理を始めた。
「この倉庫はね、昔、野球部の用具入れとして、岡田さんと部員のみんなで作ったものなんだ。なつかしいなあ」
なんて言いながら、屋根に上がってトタン板を打ち直した。
「キャッ!」
モンタだ。モンタが柱のかげにかくれてたんだ。
「モンタ、下りて来いよ。父さんだよ。心配ないからさ」
「ごめんな。休んでるところをじゃましたね。おどかすつもりはなかったんだ。いつもタケルと遊んでくれてありがとう。今すぐに君たちのすみかを修理するから、少しだけがまんしてね」
モンタのやつ、父さんが言うとすなおだ。タケルのそばで父さんの作業を見ていたけど、すぐにやり方を覚えたのか、小さい板やら、工具なんかをとうさんに渡しだした。
「モンタくん、お手伝いをするんだ。えらいなあ。よし、一緒に作ろうや。前よりずっと立派なきみたちの家を作ろう」
そう言われたものだから、モンタは余計に調子に乗って、手伝いだした。タケルだって負けてはいられない。
「モンタって気分屋だな。いつもはオレの命令にちっとも従わないんだぞ」
「そんなことないよ。モンタくんは自分でやんなきゃいけないことは、よく分かってるんだよな」
「でもさ、モモタロウ隊の家来なんだぞ。もうちょっとオレの言うことを聞かなくっちゃ」
「だめだよ。モモタロウはモンタくんたちを家来なんて思っちゃいけないぞ。みんな一緒に生きてる仲間なんだ」
モンタはタケルに向かって「キキッ」と言った。
なまいきだよ!
「さて、屋根が出来上がりました。これで、カベの穴にベニヤ板を打ち付けたらおしまいだ」
ちょっと直すつもりが大仕事になった。タケルも一緒に手伝いながらやっと完成させた。
「昔より、きれいになったかな。もうしばらくは持ちそうだ」
父さんは満足そうにながめていた。モンタも父さんの横で、一人前の顔をしてながめていた。
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