ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう

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 新学期だ。
 昨日までと変わって、急に海からの風が涼しくなった。
 秋だぞ!登校中にみかん畑でウリ坊に会った。あいかわらず、摘果した青いみかんをむしゃむしゃ食べている。
「ウリ坊、また大きくなったじゃないか」
今では、モンタもぽんちゃんもタケルも全然かなわない大きさだ。背中のたてじまも消えてしまって、もうりっぱなイノシシだ。
「何を食べても、おいしくっておいしくって。でも、タケルくんだってずい分大きくなったぞ」
そうか。校庭のフェンスから顔が少しのぞけるようになったもんな。

 新学期早々、なみ子さんとみな子さんのきげんが悪い。中原先生が教室に来たらすぐに不満を言いはじめた。
「先生、なんで応援団はハオリとハカマじゃないん」
「そうよ。ハオリ、ハカマに赤タスキはぜったいいるんよ!今年は副団長のうちらも合わせて、三人ともハオリハカマにするって、この間言ってたじゃない」
応援団の服装が変わったんだって。
「うちのおとうちゃんが言ってたよ。今年は漁協から頼まれて、大漁ハッピを団長も副団長もみんなが着るんじゃって」
「大漁ハッピなんて、うち、そんなかっこうイヤじゃ!」
えっ、ハッピになるのか?
「あのね、今までのハオリとハカマはタケルくんには大きすぎるの。それでハッピなら三人そろって準備しやすいし、この間の盆踊りで、タケルくん、良く似合ってたっていうじゃない。ハッピの方が着たり脱いだりしやすいしね」
なみ子さんとみな子さんはまだ当分文句を言いそうだ。

 体育館での始業式が終わって、校長先生と中原先生が相談していた。
 すぐ裏にある体育倉庫の話だ。
「最近、倉庫が毎朝きれいにきちんと整とんされてるんだ」
「あの、それぼくと父さんで、台風でこわれてたのを修理しました」
タケルはすぐに言った。
「ああ、それは村上会長さんからよく話を聞いたんだ。ありがとうね。お父さんにも、お会いした時ちゃんとお礼を言わなきゃね。おかげで、前よりずっとじょうぶで、りっぱな倉庫になったよ」
村上のおじさん、知ってたのか。
「それは分かってるんだけど、ここ何日か、どうも夜ここに侵入してる人がいるらしいんだ」
「だから、それは・・・」
ぽんちゃんたちだよって、言おうとしたら、
「動物たちが入り込むってのはよくあることだけど、ちょっとちがうんだ。棚の上がいつもきちんと整とんされてるし、ほうきで掃いたあとなんかも残ってる。近所の人からも、夜おそくライトがついてることがある、って聞いたしね」
 それはぽんちゃんたちじゃないな。
「夕涼みに、学校に来る人がいるんじゃないですか」
「島の人ならいいんだけどね。PTA会長さんとも話したんだが、時々裏の浜にボートでやってきて、無断でキャンプをする人もいるらしい」
「そういう人が勝手に学校内に入ってくるようになったら心配ですね」
「そうだ。明日のひなん訓練、地震ひなんじゃなくて、不審者ひなんにしよう」
校長先生と中原先生が相談して、そういうことになった。必要な時にすぐに予定を変えられる。島の学校って便利だ。

 今日はひなん訓練の日。不審者が学校にやってくる。隣の島の駐在さんもやってくることになった。PTA会長さんも朝から学校に来ている。
 不審者が来るって、こんな小さな島に誰が来るんだろう。でも校長先生はけさからやる気まんまんだ。不審者ひなん訓練なんて、この学校始まって以来初めてじゃないのかな。
 中原先生も朝からたびたび繰り返して、三人の全校児童に言った。
「いいわね。『いかのおすし』よ。知らない人から声をかけられてもついては『いか』ない。車に乗れと言われても絶対『の』らない」
「でも、島の人はみんな知ってる人だよ。それに、車なんて軽トラしか走ってないし」
タケルが言うと、なみ子さんとみな子さんも「そうそう」って、笑っていた。
「あのね、タケルくんはいつかは島の外に出るでしょ、なみちゃんとみなちゃんだって、中学生になったら島の外で生活することが多くなるわよ。その時のための訓練よ。誘われても、簡単に人について行ったり、車に乗せてもらったりしちゃだめなの。それからね、思いっきり大声を出す。変だと思ったら直ぐ逃げる。それからおおぜいの周りの大人に知らせる」
 となりの島のでっぷり太った駐在さんがやってきた。
 二時間目の途中に、前もって打合せのあったとおり、緊急放送が入った。中原先生がなみ子さんとみな子さんと、その間にタケルをはさんで誘導して、非常口から校庭の真ん中に避難した。
 玄関前で、さす股を持った校長先生と、犯人役の駐在さんが取っ組み合っている。
「ぜったい、ここは通さんぞ。私には子どもたちを守る責任があるんだ」
校長先生、なんか刑事ドラマみたいに力が入ってるよ。そのとき、不審者役の駐在さんが
持っていた銀紙のナイフで、校長先生の腕をぐさり。
「校長先生、そんなに近寄ると刺されますよ。ほれ、もう腕を切られて大けがをしました」
「いや、なんのこれしき。私は子どもたちを守る。死んでも、何度でも立ち上がって、この学校を守ってみせる」
「校長先生、そんなテレビまんがみたいなことがありますかいな。ひなん訓練ですよ。どうやってけが人をださずに、うまくひなんするかの訓練でしょう。むやみに不審者と立ち向かってちゃ、かえって回りに迷惑がかかるじゃないですか」
駐在さんが笑って言っていた。
 その様子を見ていたなみ子さんとみな子とタケルは大笑いした。
「きみたち、笑い事じゃないんだよ。今日の訓練はきみたちの命を守る大切な訓練だ。どうだ、三人とも、中原先生の言うことをよく聞いて、指示通りに動けたかね。六年生はタケルくんをちゃんと守れたか?」
校長先生はもみ合ったあとで、ぜいぜい息をしながら言った。
「校長先生、ぼくは一人でだいじょうぶだよ」
そうなんだ。かえってじゃまだよ。自分一人で逃げたほうが動きやすい。六年生といったって女だぞ。助けなんていらないや。
「タケルくん、ひなんするときはみんなで行動することが大切なのよ。年上の人の誘導にちゃんとしたがって動くのよ」
中原先生もおせっかいだ。
「この間テレビで言ってたけどさ、皆で動くより一人一人がかけって逃げたほうが安全だよ。見つからないような場所でじっとしてて、それでも危ない時は大声で仲間をいっぱいいっぱい呼ぶんだ」
 ぽんちゃんとうり坊はみかん畑からこっちのほうをみていた。タケルの方を向いて、「うんうん、そうだ」ってうなずいている。
「いや、それは津波なんかの時のことで、不審者が出た時はみんなで一緒にまとまっていた方がいいんだ。一人の勝手な行動がみんなに迷惑をかけるんだ。タケルくんも、なみ子さんもみな子さんも、そして中原先生も、みんなわたしが守ってやる。みかん畑のきみたちも、もちろん一緒だぞ」
 ぽんちゃんたちはびっくりした。
「えっ、校長先生オレたちのことまで守ってくれるのか!」
モンタだけは一人で離れて、みかん畑の奥の方からのぞいていた。モンタは、駐在さんがいやなんだ。
「だって、なんにもしてないのに、サルを見つけたら大きな網を持って、どこまでも追いまわすんだぞ。おっかなくてしょうがないや」
以前そう言っていた。

 教室に入ろうとしていた時、見慣れたバイクが学校に入ってきた。和尚さんだ。
「なんだ、不審者かと思ったよ」
ふざけてタケルがそう言ったら、
「そうだよね。やっぱり突然人が来れば不審者だと思われちゃうよね」
と和尚さんが笑った。
「実はね、校長先生。お話しておいた方がいいと思ってお伺いしたんですが、夜間の不審者について何かお聞きでしょうか?」
「ああ、実は裏の体育倉庫にどうも度々人が入っている気配があるんです。いえ、何も取られた訳じゃなく、きれいにそうじされているんですよ。それで、少し気味が悪いんで、今日はひなん訓練をしてたところです」
「やはりそうですか」
和尚さんはちょっと困ったように話しを続けた。
「実は、わたしのおじが、今島に帰ってきておりましてね。絵を趣味にして、あちこち旅をしているんですが、時々、島に帰ってきては、お寺の裏山にあるログハウスで気楽に過ごしているんです。それがこの何日か、夜になると裏山を下りてどこともなく歩いていく。この間気付いて、「どこへ行くの」って聞いたら、「学校へ行く」っていうんです。こんな時間、学校は開いてないよっていうと、野球部の部室のそうじじゃって。そういえば、おじがまだ若いころ、この学校の野球部でコーチみたいなことをやっていたと聞いたことがあったんですが、もうかなり高齢になったんで、そのころのことがなつかしくなったんだろうなと思います。それで、ご迷惑をかけていないかと心配になりましてお話に伺ったんです」
「なんだ、そうだったんですか。それが分かって安心しました。台風の被害も気になったでしょうしね。おじさんが毎晩そうじに来てくださってたんだ」
 PTA会長さんが急に話の間に入ってきた。
「ひょっとして、岡田コーチ?」
「ええ、勝手にコーチみたいなことをしていたころがあったみたいですが」
「やっぱり!伝説の岡田コーチだ。赤手ぬぐいの岡田さんだ。我々野球部だったものはみんなよく教えていただいたものですよ。なつかしいなあ。やっと島に帰られたんだ。そりゃあ、台風のあとだもの。体育倉庫が気になるはずだ。なんたって岡田コーチとみんなで一緒に作った思い出の倉庫だから」
 なんだ、赤シッポの岡田さんか!
 台風でこわれた体育倉庫を心配したり、島のうらっかわのよごれを心配したり、これはタケルよりずっと島の宝みたいな人じゃないのかな


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