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第4話 時間の歪み
しおりを挟む資料室に閉じ込められてから、丸一日が過ぎた。
影は壁だけでなく、机や椅子、天井、床にまで広がり、部屋全体を覆っている。
息を吸うだけで重く、空気は冷たく粘着する。
時間は、もう秒単位ではなく、空間ごと歪んでいた。
私は壁に貼りつき、机の上の書類を凝視する。
そこには、昨日の赤文字だけでなく、今日の文字、明日の文字、すべてが重なり、脈打つように光っていた。
「ここは…現実か?」
囁く声に答える人はいない。
振り返ると、壁の影の中で私の姿がゆっくり揺れ、手を伸ばすたびに、影も微妙にずれる。
影のひとつが床から立ち上がり、空中で私の動きを再現する。
その瞬間、私は理解した――
この部屋は、ただ閉ざされているわけではない。
時間そのものが、部屋に閉じ込められているのだ。
秒針は狂い、時計は進んだり止まったり、さらに逆に動いたりする。
窓の外の世界も、影響を受けて揺れているように見える。
廊下を歩く人の足音は、遅れて届き、瞬時に消える。
過去も未来も、混ざり合い、今という感覚は消えかかっていた。
私は壁に背を押しつけ、天井を仰ぐ。
そこに無数の赤文字が浮かんでいる――
「逃げるな」
「消える」
「時間の中に取り込まれる」
文字と影は絡み合い、私の体を締め付ける。
息を吐くたび、影は深く潜り込み、呼吸のリズムを狂わせる。
「これは…部屋じゃない。時間そのものだ――」
机の上の書類が、突然燃え始めた。
焦げる匂いとともに、光の中で赤文字が踊り、私の肩を撫でる。
振り返ると、壁の影はもう私の形をしていない。
無数の歪んだ顔が、私を見つめ、囁き、笑っている。
秒針が再び狂う。
影は私を包み込み、書類の文字が現実をえぐるように刻まれる。
時間の歪みの中で、私は自分の位置さえ分からなくなった。
そして低く囁く声――
「ここから…永遠に出られない」
私は震えながら、壁の角に押し付けられる。
影は無数に絡みつき、秒針は狂ったまま、私の存在を数える。
部屋はもう部屋ではない。
時間の歪みが、すべてを飲み込み、私を中心に固定している――。
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