大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人

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第2章 辺境の地で快適に暮らす土の聖女

挿話19 ダークエルフの斥候マリウス

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「こ、これは大変だっ! 今すぐ族長へ知らせないと!」

 走れっ! 走るんだっ! 力の限りっ!
 おそらく、この任務に就いてから……いや、これまで生きてきた中で、最も速く走っているだろう。
 とにかく全力で森の中を走り、ようやく目的地である隠れ家へ到着した。

「……こちら、偵察隊のマリウスです。族長! 族長、聞こえますか!?」

 声を伝えるマジックアイテムに向かって何度か呼びかけると、少しして返事があった。

「あー、あー、こちらは本部だ。どうした? このマジックアイテムは、緊急時しか使うなと言ったはずだが」
「今がその緊急事態です! エレンさんが……エレンさんが殺されましたっ!」
「はぁっ!? ど、どういう事だ!? エレンは人間族の聖女に、ソースを作れと言いに行っただけだろ!? わかるように、時系列で最初から説明しろっ!」
「は、はいっ! あれは僕が生まれた日……」
「そんな所からは要らんっ! エレンがケンタウロスどもの所へ着いてからを話せっ!」

 族長が最初から話せって言ったのに……。
 とりあえず、エレンさんがケンタウロスの村へ来て、マヨネーズの美味しさに驚いた事と、鬼人族の村へ寄ってから、川沿いに歩き出した事と、そこが聖女の家だった事を伝えた。

「エレンがその聖女に殺されたというのか!? だが、聖女は人間族だろ!? エレンが人間族に遅れをとるとは思えんぞ!?」
「いえ、それが……どうやら聖女はグリフォンを手懐けているようでして」
「ぐ……グリフォンだと!? 神獣ではないか!」
「はい。どのような手を使ったのかは分かりませんが、聖女の側には常にグリフォンが控えているようです。そして、そのグリフォンがエレンさんを咥えて……」
「え、エレンを咥えてどうしたのだっ!?」
「……天高くへ舞い上がり、遙かに高い位置から地上へ落として……」
「な……なんだとっ!? そ、そんな。エレンが……俺の娘が……」

 突然声を伝えるマジックアイテムでの会話が、一方的に遮断された。
 族長も親なので、おそらく泣いているのだろう。
 それから暫くして、再び族長の声が届いてきた。

「マリウスよ。その聖女の居場所はわかるな?」
「は、はい。しかしながら、エレンさんが何処に落下したかまでは……」
「それはもう良い。エレンが亡くなったのは残念な事だが、それはグリフォンを従えるという聖女の力を見誤ったエレンが未熟だったのだ」
「……え?」
「それより、その聖女が我らダークエルフにケンカを売った事の方が許せぬ! 既に皆へ周知し、戦の準備を整えた。聖女の家は、今から走れば深夜には着く場所か?」
「え? はぁ……一応は」

 あれ? 族長はエレンさんの死を全く悲しんで居ない?
 いやでも、物凄く怒っているみたいだし……え、エレンさんが亡くなった事に怒っているんですよね!?

「ふっふっふ。聖女め。誇り高き我らダークエルフにケンカを売った事を後悔させてやろう」
「あ、あの。族長……相手はグリフォンですが」
「ふっ! 確かにグリフォンは強敵だ。だが、相手がグリフォンと分かっていれば、幾らでも手の打ちようがある。エレンは、我ら一族の勝利の為に、その身をもって聖女がグリフォンを使役しているという情報を、引き出してくれたのだ」
「はぁ……」
「ふっふっふ。如何にグリフォンであっても、眠っている所に、遠くから弓と魔法で攻撃されれば、ひとたまりも無いだろう。はっはっは。はーっはっはっはーっ!」

 えーっと、僕は逃げても良いかな?
 グリフォンと戦うなんて、絶対に嫌なんだけど。
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