【完結】政略結婚だからこそ、婚約者を大切にするのは当然でしょう?

つくも茄子

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13.落胆(ソフィアside)

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「ソフィア、お前の婚約が決まった」

 それが全ての始まりでした。
 私のハルト伯爵家は領地持ち貴族。
 鉱山を持ち、貴族の中では裕福な部類でしょう。
 私には姉と兄がいて、姉は中央との関係を保つために宮廷貴族の子爵家に嫁いでいきました。兄は同じ領地持ちの伯爵令嬢と婚約。

 いずれ私に婚約の話しがあるとは分かっていましたが、こんなに早く話しがくるとは思わなかったのです。
 もっとも、兄からすると「十四歳で婚約するのは何も早くない」とのこと。

『お前は末っ子だからな』

 事あるごとに、私は言われ続けました。
 末っ子だから何なのでしょうか?
 兄がなにを言いたいのか理解できません。

 私の婚約者が決まったと両親に伝えられても「そうですか」としか言えませんでした。


「お相手は、どなたなのですか?」
「セルジューク辺境伯家の子息だ」

 父は誇らしげに言いました。

「私が辺境伯家の子息とですか?」
「そうだ。ソフィアにとって、悪い話ではない」
「わかりました……」



 隣のセルジューク辺境伯領。
 おじい様と仲が良い、とは伺っていました。

 領土争い?というものが昔はあったと聞いたこともあります。ただ、それも私にとってはあまり関係のない話でした。自分の家の歴史の一つ。その程度の認識でしたから。だからでしょうか。辺境伯家との縁談が決まった時は酷く驚きました。



 この婚姻によって両家の絆が強くなり、領土問題が解決するとお父様が言っておりました。難しいことは分かりませんが、おじい様がお亡くなりになってから、両家がギクシャクしいるというのです。それを婚姻によって平和的に解決することができるのだ、と。

 私に拒否権はありませんでした。
 私は、ただ頷くことしか出来ませんでした。

 本当は嫌で嫌でたまらなかったのですが、私も貴族の娘。
 貴族の義務は理解しています。それに、この結婚は両家のためになるのです。

 ハルト伯爵の娘として。
 家のために身を捧げる。
 それが貴族の娘としての正しい選択なのでしょう。

 覚悟は出来ていました。

 ただ、できうることなら……あの方に少しでも似ていると良いな、などと淡い期待をしておりました。
 私が秘かに恋い慕う方。アルバート様。
 お兄様の親友で、私の想い人。
 ずっと前から私はアルバート様に恋をしております。
 叶うことなら、この方と結ばれたい、と何度思ったことでしょう。
 ですが、それは叶わぬ願い。
 アルバート様の実家は伯爵家ですが、宮廷貴族。
 しかも、ご三男。
 既に宮廷貴族に嫁いでいる姉がいる以上、妹の私が宮廷貴族の方と婚姻できる要素はありませんでした。
 せめてアルバート様が跡取りの長男であれば可能性はあったかもしれませんが。
 アルバート様は王宮の近衛騎士。
 騎士侯の爵位を得られるのは、団長以上。
 若いアルバート様が団長になるのはまだまだ先の話し。
 だから……私はこの恋を諦めるしかなかったのです。


 婚約者となったセルジューク辺境伯家の子息は、私より三つ年上。

「ソフィア・ハルトと申します」
「アルスラーン・セルジュークだ」
「どうぞ、よろしくお願い致します」
「こちらこそ」

 金髪だと聞いていました。
 けれど、アルバート様とは似ても似つかない、くすんだ金髪でした。
 目の色もそうです。
 アルバート様は青い瞳ですが、対するアルスラーン様は紫の瞳。
 珍しい色の目で、なんだか不気味に思えました。
 肌の色も、アルバート様は白磁のような白い肌ですが、アルスラーン様は浅黒い肌をしておりました。
 お母様が異国の方だからでしょうか? 
 この国では見掛けない肌色でした。
 いえ、異国風の容貌です。背も高くて……アルバート様も長身ですが、アルスラーン様の方が背が高い。……高すぎです。見上げるのに首が痛くなりそうです。
 そして、なによりも気になったのは……目でした。

 私を見下ろす瞳はどこか冷たくて、まるで心まで見透かされているような感じがして……居心地が悪くてたまりませんでした。

「ソフィア嬢、と呼んで良いかな?」
「はい。どうぞご自由にお呼びください」

 アルスラーン様との婚約期間は三年。
 その後、結婚となります。

 金髪の美丈夫だとお聞きしていたので、てっきりアルバート様のような方を想像していた私は、この初合わせですっかり意気消沈してしまいました。
 期待が高かっただけにその落胆も大きいものでした。



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