【完結】政略結婚だからこそ、婚約者を大切にするのは当然でしょう?

つくも茄子

文字の大きさ
14 / 27

14.初恋(ソフィアside)

しおりを挟む
 アルバート様との出会いは十一歳の夏。
 白馬に跨がったアルバート様は、それは素敵でした。
 兄の友人として紹介されたアルバート様は、小説に出てくる騎士様のようで、私の胸は高鳴りました。
 甘やかな声で「ソフィア嬢、はじめまして」と微笑むアルバート様。
 優しい声に私は頭がくらくらして……
 ただただ頷くことしかできませんでした。
 アルバート様がお屋敷に来てくださった時は、胸が高鳴りました。
 日の光でキラキラと輝く金の髪。
 深みのある青い瞳は澄んでいて……目が合うと、途端に顔が熱くなってしまいました。
 そして、スッと通った鼻筋に、形の良い唇。
 立ち居振舞いも優雅で気品があって……まるで物語の王子様のようでした。
 彼以上の男性などこの世に存在しません。

 兄のおまけに過ぎない私との交流を嫌な顔一つせず、アルバート様はいつも紳士的に接してくださいました。

 それは今も同じ。
 文通を通して、交流は続いております。

【ソフィア嬢、お元気ですか?私は元気です。】

 アルバート様の手紙には、いつも私を気遣う言葉が溢れています。

【今日は天気が良かったので、馬に乗って遠乗りに出かけました。気持ちの良い一日でしたよ。ソフィア嬢はどんな風に過ごされましたか?】

 手紙を読む度に心が踊ります。
 まるで恋文を頂いているかのような錯覚さえ覚えてしまうほど。

 この文通も終わりにしなければなりません。婚約したのですから。ですが、いざ手紙を書こうとすると……なんと言葉を綴れば良いのか分からなくなってしまうのです。
 文通は私の心の拠り所となっていましたから。

 そうして婚約したことを伝えられないまま、ずるずると文通は続いていきました。

 アルバート様との文通を止められないからといって、婚約者であるアルスラーン様を蔑ろにしている訳ではございません。
 いずれは結婚しなければならない相手です。
 自分のなすべきことは、きちんと弁えております。

 アルスラーン様からの手紙にも、きちんと目を通しております。
 ただ……やはり気乗りはいたしません。
 私は字が綺麗な方ではないのです。
 アルバート様は「可愛らしい字だね」と褒めてくださいますが、会ったばかりの方ならば、そうは思わないでしょう。
 少しでも綺麗な字を書けるように、お母様に手解きを受けておりますが、一向に上達する気配はありません。

 お兄様からは「拙い字を見られて恥をかくのはソフィアだ。婚約期間中に侮られかねない。それくらいなら代筆させた方がまだマシだ」と言われました。
 確かにその通りです。
 ちょうど、侍女の中に字が上手い子が数名いましたので、代筆を頼むことにしました。

 月に一度行われる我が家での茶会にも、毎回断ることなく参加しました。
 誕生日プレゼント、季節折々の品々。

 私は、与えられた物を文句一つ言わずに受け取りました。
 口答えすることのない従順な態度は、将来の辺境伯夫人に相応しいと自負しております。
 淑女という仮面を被り、アルスラーン様の望む婚約者という役柄を必死に演じました。

 結婚して妻になれば、今度は『妻の役柄』に徹しなければなりません。

 憂鬱な未来に溜め息をつきそうになりますが、私はそれを飲み込みます。
 いいえ。我慢しなければなりません。
 貴族の娘に生まれたからには、己の心を殺してでも義務を全うしなければなりません。
 それが、貴族の娘として生まれてしまった運命なのですから。



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

最初から間違っていたんですよ

わらびもち
恋愛
二人の門出を祝う晴れの日に、彼は別の女性の手を取った。 花嫁を置き去りにして駆け落ちする花婿。 でも不思議、どうしてそれで幸せになれると思ったの……?

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

6年前の私へ~その6年は無駄になる~

夏見颯一
恋愛
モルディス侯爵家に嫁いだウィニアは帰ってこない夫・フォレートを待っていた。6年も経ってからようやく帰ってきたフォレートは、妻と子供を連れていた。 テンプレものです。テンプレから脱却はしておりません。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

侯爵家に不要な者を追い出した後のこと

mios
恋愛
「さあ、侯爵家に関係のない方は出て行ってくださる?」 父の死後、すぐに私は後妻とその娘を追い出した。

処理中です...