【完結】政略結婚だからこそ、婚約者を大切にするのは当然でしょう?

つくも茄子

文字の大きさ
15 / 27

15.困惑(ソフィアside)

しおりを挟む
 婚約して三年目。
 私とアルスラーン様の婚約はあっけなく終わりました。
 理由は、貴族同士の婚約の見直しです。
 王家主導で行われると発表されました。
 両親はその発表に一喜一憂しておりましたが、私はいつものように大人しく義務に従うだけです。

 私の結婚相手を決めるのが親から王家に代わっただけのこと。
 大した違いはございません。

 アルスラーン様が侯爵令嬢と結婚したというニュースが飛び込んできました。


「セルジューク辺境伯の子倅に侯爵令嬢だと!?」
「あのが、侯爵令嬢を妻に娶るとは……」
「なんてことでしょう!しかもランドルト侯爵家の令嬢だなんて!」

 両親と兄の怒りは相当なものでした。
 それと同時に、家族がアルスラーン様を“異国の血を引く者”として見下していることを知りました。
 これには驚くばかり。
 中央貴族は、他国の血を入れることを毛嫌いする人が多いことは知っていました。

 現に義兄もその一人。
 あからさまな差別発言はしませんが、異国の血を受け入れることはできない様子でした。
 私がアルスラーン様との婚約が決まった時も随分と同情されたものです。
「あのと婚約など、災難だな」と。
 ニヤニヤと嫌な笑い付きで。
 お姉様が諫めてくださったのですが、その笑いはすぐには消えませんでした。
 義兄とはいえ、嫌な人だと心の中で思ったものです。

 でも、まさか両親と兄までもが、そうだとは夢にも思いませんでした。
 意外な一面にただただ驚くばかり。



 私の次のお相手。
 それが決まるのに少し時間が掛かりました。
 アルスラーン様の家との協議があるとかで。
 詳しいことは分かりませんが、両親や兄は最近とても機嫌がいいので、きっと良い結果だったのでしょう。

 数ヶ月後、漸く、私に相手が決まったと知らされました。
 相手はラヴィル・レーゲンブルク公爵子息とのこと。
 それも跡取りだというではありませんか。

 伯爵家の娘でしかない私が?
 次期公爵の妻に?

「ソフィア、お前はなんと幸運な娘なのだろう」と両親と兄は大喜び。

「私に公爵夫人が務まるでしょうか?」
「心配する必要はない。お前は黙って夫に従っていればいい」
「そうですよ、ソフィア。貴女は公爵夫人になることだけを考えればいいんです。余計なことは考えなくていいのですよ」
「……はい。わかりました……」

 そうしてレーゲンブルク公爵家との縁談が決まりました。
 一度目と同じ。私の意志など何処にもありません。
 しかも今回は王家主導です。
 格上過ぎる相手に嫁ぐことに、私は不安を隠せませんでした。

「安心しろ、ソフィア」
「お兄様?」
「レーゲンブルク公爵子息は嫡出ではない。お前が無碍に扱われることはないだろうよ」

 嫡出ではない……とは。
 一体どういう意味なのでしょう。

「ラヴィル様は跡取りだとお聞きしていますが?」
「そうだ。レーゲンブルク公爵家には嫡出の双子のご子息がいた」
「双子ですか……」
「そうだ。だが、この双子が貴族に相応しくない言動故に廃嫡となった。ラヴィル殿は公爵閣下の庶子だ。母親が子爵家出身だからな。血筋的に少々落ちるが、お前との婚姻にはなんの問題もない」
「そうですか……」

 私はお兄様の言葉をそのまま受け入れました。
 貴族社会は血筋がものをいいます。
 もしかすると私との婚姻もそのためなのかもしれません。

 こうして決まった婚約。
 私にとっては二度目の婚約です。
 最初の時と同様に相手に合わせていけば大丈夫でしょう。それが、貴族の娘の宿命なのですから。


 ――――連絡がありません。

 ラヴィル様から私への連絡は、三ヶ月経ちましたが一度もありません。
 手紙も、贈り物もありません。

「ラヴィル様はお忙しいのかしら?」
「そうかもしれないな。だが、心配する必要はないだろう」とお父様は言いました。

 確かに、レーゲンブルク公爵領は遠いです。
 伯爵領から離れています。
 先触れを出してもすぐには来られないでしょうし、手紙だって遅れてしまうでしょう。

 けれど……半年経っても一年経ってもラヴィル様からの音沙汰はありません。

 アルスラーン様の時とは真逆です。
 これはどういうことでしょう。
 分かりません。

 どうすればいいのかしら?

 こういう場合、どう行動すれば良いのか分からなかった。

 淑女から連絡するなど、はしたないにも程があります。
 普通は、男性の方からお手紙を出すのが礼儀のはず。
 アルバート様もそうでした。
 アルスラーン様の時も彼から最初の手紙を頂きました。

 こうして、一度も交流のないまま月日は流れていってしまい……

 気が付けば、結婚式の日取りも決まっていたのです。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

最初から間違っていたんですよ

わらびもち
恋愛
二人の門出を祝う晴れの日に、彼は別の女性の手を取った。 花嫁を置き去りにして駆け落ちする花婿。 でも不思議、どうしてそれで幸せになれると思ったの……?

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

侯爵家に不要な者を追い出した後のこと

mios
恋愛
「さあ、侯爵家に関係のない方は出て行ってくださる?」 父の死後、すぐに私は後妻とその娘を追い出した。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

処理中です...