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番外編
5.愛情
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「叔父上は本当に宜しいのですか?」
「ん?なにがだい?」
「僕を後継者に指定して……」
「ははっ。なんだそんなことか。当たり前だよ。僕には子供がいないからね。甥っ子君に跡を継いでもらわないと」
先王陛下と姉との間に生まれた王子。
彼の頭を優しく撫でながら言った。
「でも……叔父上は未だお若いのに。これから奥方をお迎えになっても……」
「はっはっは。それはないよ」
きっぱりと否定すると、甥は不満気に頬を膨らませた。
「私に再婚の意思はないからね」
妻となった女性は病弱で、子を成すことなく数年前に他界した。
私は妻を愛していた。
だからこそ、再婚は考えていない。
「それにね」
「はい」
「エリックは、僕の大事な甥だ。だから君に継いでもらいたいんだ」
「叔父上……」
「エリックには申し訳ないけどね」
「そんなこと……」
「あるよ。君達兄弟を臣籍降下させることになったんだ。陛下は、君達に王族として生きて欲しかったはずだ」
「そうでしょうか?」
「多分ね。憶測に過ぎないけど」
「……叔父上、僕も……兄も感謝しています。叔父上とお爺様に。臣籍降下せずにいれば否応なく王位争いに巻き込まれるかもしれませんから」
「エリック……」
甥の言っていることは正しい。
新国王は異母兄弟を可愛がっている。その伴侶である王妃陛下も同じ。甥も、国王夫妻を慕っている。
それでも、だ。
周囲の全てが“そう”とは限らない。
国王夫妻の仲は良好だ。世継ぎにも恵まれている。
だからこそ、と言うべきなのかもしれない。
私も甥っ子達に危ない目にあってほしくはない。
だからこその臣籍降下。
そうか。
甥っ子達は知っていたか。
私も父も……勿論、姉も、君達兄弟には王位争いに関わってほしくない。杞憂だと、そう願いたい。だが絶対とは言い切れない。
「エリック」
「はい」
「私達はね、君達兄弟をとても大切に思っているんだ」
「叔父上……」
「だから……幸せになってほしい。これは国王陛下と王妃陛下の願いでもあるよ」
「……ありがとうございます」
甥っ子は微笑んだ。
私はその笑顔を見て、安堵した。
私には今、甥二人と姪一人がいる。
三人とも可愛い。
姉によく似ている。
だから余計に可愛いのかもしれない。
双子の甥は全く似ていなかったから。
ああ、そうか。
だからか。
父上が切り捨てた訳だ。
あの双子は嫌になるくらい、先代のレーゲンブルク公爵夫人にそっくりだった。
愛情が持てない筈だ。
私は苦笑し、甥の頭を撫でた。
春の日差しは暖かい。
この心地よい暖かさは、これからの未来を予感させるようだ。
「ん?なにがだい?」
「僕を後継者に指定して……」
「ははっ。なんだそんなことか。当たり前だよ。僕には子供がいないからね。甥っ子君に跡を継いでもらわないと」
先王陛下と姉との間に生まれた王子。
彼の頭を優しく撫でながら言った。
「でも……叔父上は未だお若いのに。これから奥方をお迎えになっても……」
「はっはっは。それはないよ」
きっぱりと否定すると、甥は不満気に頬を膨らませた。
「私に再婚の意思はないからね」
妻となった女性は病弱で、子を成すことなく数年前に他界した。
私は妻を愛していた。
だからこそ、再婚は考えていない。
「それにね」
「はい」
「エリックは、僕の大事な甥だ。だから君に継いでもらいたいんだ」
「叔父上……」
「エリックには申し訳ないけどね」
「そんなこと……」
「あるよ。君達兄弟を臣籍降下させることになったんだ。陛下は、君達に王族として生きて欲しかったはずだ」
「そうでしょうか?」
「多分ね。憶測に過ぎないけど」
「……叔父上、僕も……兄も感謝しています。叔父上とお爺様に。臣籍降下せずにいれば否応なく王位争いに巻き込まれるかもしれませんから」
「エリック……」
甥の言っていることは正しい。
新国王は異母兄弟を可愛がっている。その伴侶である王妃陛下も同じ。甥も、国王夫妻を慕っている。
それでも、だ。
周囲の全てが“そう”とは限らない。
国王夫妻の仲は良好だ。世継ぎにも恵まれている。
だからこそ、と言うべきなのかもしれない。
私も甥っ子達に危ない目にあってほしくはない。
だからこその臣籍降下。
そうか。
甥っ子達は知っていたか。
私も父も……勿論、姉も、君達兄弟には王位争いに関わってほしくない。杞憂だと、そう願いたい。だが絶対とは言い切れない。
「エリック」
「はい」
「私達はね、君達兄弟をとても大切に思っているんだ」
「叔父上……」
「だから……幸せになってほしい。これは国王陛下と王妃陛下の願いでもあるよ」
「……ありがとうございます」
甥っ子は微笑んだ。
私はその笑顔を見て、安堵した。
私には今、甥二人と姪一人がいる。
三人とも可愛い。
姉によく似ている。
だから余計に可愛いのかもしれない。
双子の甥は全く似ていなかったから。
ああ、そうか。
だからか。
父上が切り捨てた訳だ。
あの双子は嫌になるくらい、先代のレーゲンブルク公爵夫人にそっくりだった。
愛情が持てない筈だ。
私は苦笑し、甥の頭を撫でた。
春の日差しは暖かい。
この心地よい暖かさは、これからの未来を予感させるようだ。
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