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第七話 ディミトゥラの二度目の終わり
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「でも……夢の中の子爵は愛人と別れて求婚して来たけれど、現実の彼は愛人と別れないまま求婚して来たのよ?」
「ちょっとしたことで未来は変わるものです。子爵が愛人と別れて求婚して来たときに備えて、そういう予知夢を見せられたのではないですか?」
「……」
それとですね、とエラフィスは溜息をつきます。
「貴族の方々が政略結婚で離縁したり死別したりして、新しいお相手と再婚するのは珍しいことではないでしょう? そもそも夢の話なのですから、ディミトゥラ様は穢れてなんかいらっしゃいません。……俺が嫌いですか? そうでないのなら妻になっていただけませんか?」
「……」
「俺の母親が呪木様の神官でも罵声を浴びせたり嘲ったりせず、俺達の知識を価値あるものだと評価してくださったのはディミトゥラ様とヤノプロス侯爵家の方々だけでした。さっきも俺のおこないを認めてくださいましたよね? 俺はディミトゥラ様が好きです。だれにも渡したくないと思うほど愛しています」
「……エラフィス……っ!」
私は感極まって彼に抱き着いてしまいました。
彼の逞しい腕が、優しく私の背中に回りました。
エラフィスの肩越しに、貴族令嬢の感情に任せた行動を止めるためにいたはずの侍女が満足そうに頷いているのが見えました。たぶん館の窓から見ていた家族も、私の行動に安堵していることでしょう。
……仕方がありません。私がエラフィスを大好きなのは事実なのですから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ケラトはご機嫌斜めですねー」
私とエラフィスが結婚して、気が付くと一年以上が過ぎていました。
そろそろ予知夢で見た年月を追い越します。
エラフィスは廃鉱から魔導金属を見つけ出した褒賞として新しい家を興すことを許されたので、私が彼の子どもとして産んだ男の子はヤノプロス侯爵家の血筋で家の跡取りということでケラトの名前を許されました。成長したら義姉が産んだ侯爵家の跡取りは大ケラトで、うちの子は小ケラトと呼ばれるようになるでしょう。
私はエラフィスがいなくて不機嫌なケラトを抱き締めて、優しく背中を叩きました。
幸せな日々がずっと続くと信じていたのに、今我が家にエラフィスはいません。
カラマンリス子爵領へ行っているのです。オルガ様がお亡くなりになられて、子爵家に向けて兵を挙げたアサナソプロス辺境伯を父や兄とともに止めに行ったのです。
予知夢の中では亡くなっていた父は現実では健在です。
軽い風邪が原因で亡くなるはずだった父は、エラフィスが開発した新薬によって命を取り留めました。もちろん薬師と相談の上で処方されたものです。
エラフィスが新薬を開発してくれたのは、私の予知夢によって父の死を知ったからでした。
「お嬢様、そんな捕らえられたばかりの熊みたいに部屋の中でウロウロしていても仕方がありませんよ。旦那様が作り置きしていってくださったお茶でも飲んで落ち着いてくださいませ」
いつものお茶の香りに、私の腕の中でぐずっていたケラトが笑顔になります。
「そうね。ふふ、お父様のお茶の香りで笑顔になって……ケラトは本当にお父様が大好きなのね」
「旦那様を大好きなのはお嬢様もでしょう?」
「いつまでもお嬢様と呼ぶのはやめて。……貴女も一緒にお茶を飲みましょう?」
ケラトを子ども用の寝台に寝かせ、私は侍女と卓に着きました。
侍女の言った通りエラフィスが調合してくれたお茶を唇に運びます。
心を落ち着かせてくれる爽やかな香りに包まれていると、突然、世界が歪んで──
「ちょっとしたことで未来は変わるものです。子爵が愛人と別れて求婚して来たときに備えて、そういう予知夢を見せられたのではないですか?」
「……」
それとですね、とエラフィスは溜息をつきます。
「貴族の方々が政略結婚で離縁したり死別したりして、新しいお相手と再婚するのは珍しいことではないでしょう? そもそも夢の話なのですから、ディミトゥラ様は穢れてなんかいらっしゃいません。……俺が嫌いですか? そうでないのなら妻になっていただけませんか?」
「……」
「俺の母親が呪木様の神官でも罵声を浴びせたり嘲ったりせず、俺達の知識を価値あるものだと評価してくださったのはディミトゥラ様とヤノプロス侯爵家の方々だけでした。さっきも俺のおこないを認めてくださいましたよね? 俺はディミトゥラ様が好きです。だれにも渡したくないと思うほど愛しています」
「……エラフィス……っ!」
私は感極まって彼に抱き着いてしまいました。
彼の逞しい腕が、優しく私の背中に回りました。
エラフィスの肩越しに、貴族令嬢の感情に任せた行動を止めるためにいたはずの侍女が満足そうに頷いているのが見えました。たぶん館の窓から見ていた家族も、私の行動に安堵していることでしょう。
……仕方がありません。私がエラフィスを大好きなのは事実なのですから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ケラトはご機嫌斜めですねー」
私とエラフィスが結婚して、気が付くと一年以上が過ぎていました。
そろそろ予知夢で見た年月を追い越します。
エラフィスは廃鉱から魔導金属を見つけ出した褒賞として新しい家を興すことを許されたので、私が彼の子どもとして産んだ男の子はヤノプロス侯爵家の血筋で家の跡取りということでケラトの名前を許されました。成長したら義姉が産んだ侯爵家の跡取りは大ケラトで、うちの子は小ケラトと呼ばれるようになるでしょう。
私はエラフィスがいなくて不機嫌なケラトを抱き締めて、優しく背中を叩きました。
幸せな日々がずっと続くと信じていたのに、今我が家にエラフィスはいません。
カラマンリス子爵領へ行っているのです。オルガ様がお亡くなりになられて、子爵家に向けて兵を挙げたアサナソプロス辺境伯を父や兄とともに止めに行ったのです。
予知夢の中では亡くなっていた父は現実では健在です。
軽い風邪が原因で亡くなるはずだった父は、エラフィスが開発した新薬によって命を取り留めました。もちろん薬師と相談の上で処方されたものです。
エラフィスが新薬を開発してくれたのは、私の予知夢によって父の死を知ったからでした。
「お嬢様、そんな捕らえられたばかりの熊みたいに部屋の中でウロウロしていても仕方がありませんよ。旦那様が作り置きしていってくださったお茶でも飲んで落ち着いてくださいませ」
いつものお茶の香りに、私の腕の中でぐずっていたケラトが笑顔になります。
「そうね。ふふ、お父様のお茶の香りで笑顔になって……ケラトは本当にお父様が大好きなのね」
「旦那様を大好きなのはお嬢様もでしょう?」
「いつまでもお嬢様と呼ぶのはやめて。……貴女も一緒にお茶を飲みましょう?」
ケラトを子ども用の寝台に寝かせ、私は侍女と卓に着きました。
侍女の言った通りエラフィスが調合してくれたお茶を唇に運びます。
心を落ち着かせてくれる爽やかな香りに包まれていると、突然、世界が歪んで──
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