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第六話 ディミトゥラとエラフィス
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前回はカラマンリス子爵家との縁談が来てから半年ほどで結婚しました。
今回は縁談を断ったのですが、なぜか結婚式の準備が進んでいます。
ヤノプロス侯爵家の跡取りを産んで戻っていらした義姉も含め、家族みんなして私がエラフィスと結婚するのだと思っているようです。それは私が頬に傷を負ったせいだけではなく、エラフィスが廃鉱から魔導金属を見つけ出したからでもあります。
もしかしてエラフィスにも前回の記憶があるのでしょうか。
メンダークスが廃鉱から魔導金属を見つけ出したことを覚えていて、自分も探してみたということでしょうか。
とはいえ、くだんの廃鉱は元々ヤノプロス侯爵家のものです。エラフィスは呪木に祈りを捧げるためと薬草採取を目的に、以前から廃鉱近くの森へ通っていました。
考えてみると、自領に鉱脈がなく森へ行くこともないメンダークスが廃鉱から魔導金属を見つけ出したこと自体が不思議なことでした。
私の持参金として、あの廃鉱を求めたのも彼自身でした。
……考えても仕方のないことですね。もうメンダークスと会うことはありません。
私はエラフィスに前回の記憶について話すことにしました。
このまま周囲に流されて結婚するのは嫌だったのです。彼が好きだから、大好きだからこそ、こんな私が彼の妻になってはいけないと思ったのです。
おとぎ話のように莫迦げた物語を聞き終わって、エラフィスは言いました。
「それは本当に起こったことなのでしょうか? ディミトゥラ様を疑うわけではありませんが、時間が戻ったのではなく予知夢だったのではないのですか?」
「予知夢……?」
「今はおこなっていませんが、遠い昔呪木様の神官は幻覚作用のある植物を煎じて飲むことで未来を予知していました」
「……」
実は、カラマンリス子爵メンダークスの母親はエラフィスや彼の母親と同じ呪木の信者でした。
呪木の信者が植物に詳しいことは知られています。
そのためメンダークスの母親が中毒性のある麻薬植物を先代子爵に飲ませて、意のままに操ったのではないかという噂が流れたのです。実際にはそんなことはなかったし、その噂によって被害を受けたのはメンダークスの母親ではなく、罪のない呪木の信者達でした。
エラフィスの母親が死んだのは、自殺だったのではないかと言われています。
呪木の神官である自分の存在が夫や息子を苦しめていると思ったのかもしれません。
それでもエラフィスは母親を継いで呪木の神官になりましたし、彼の植物知識はヤノプロス侯爵家に大きな恵みを与えてくれています。メンダークスの母親の真実はわかりませんが、どんな知識も使う人間次第なのです。
ここは侯爵邸の中庭です。
結婚するのではないかと見做されていても、未婚の男女がふたりきりで話をするのには問題があるので、声は届かないけれど姿が見える程度の位置に侍女がいます。館の窓から家族にも見下ろされているような気がしますが、それには気づかなかったことにしておきます。
私の沈黙を誤解したのか、エラフィスは悲しげに微笑みました。
「こんなことをしていたから呪木様の信者は気持ち悪がられているのですよね」
「いいえ、気持ち悪くなどないわ。呪木の神官であるエラフィスのおかげで、私は助かっているのですもの。貴方の匂い袋やお茶がなかったら、この記憶に押し潰されて心を病んでいたかもしれないわ」
「俺がディミトゥラ様のお役に立てていたのなら光栄です。……その記憶はいずれ産まれてくるであろうケラト様が、母君のディミトゥラ様に見せた予知夢ではないかと俺は思います」
「ケラトが?」
「はい。ディミトゥラ様がカラマンリス子爵と結婚して、彼を父親として生まれたら不幸になってしまう。そう察したケラト様がディミトゥラ様に見せたのでしょう」
今回は縁談を断ったのですが、なぜか結婚式の準備が進んでいます。
ヤノプロス侯爵家の跡取りを産んで戻っていらした義姉も含め、家族みんなして私がエラフィスと結婚するのだと思っているようです。それは私が頬に傷を負ったせいだけではなく、エラフィスが廃鉱から魔導金属を見つけ出したからでもあります。
もしかしてエラフィスにも前回の記憶があるのでしょうか。
メンダークスが廃鉱から魔導金属を見つけ出したことを覚えていて、自分も探してみたということでしょうか。
とはいえ、くだんの廃鉱は元々ヤノプロス侯爵家のものです。エラフィスは呪木に祈りを捧げるためと薬草採取を目的に、以前から廃鉱近くの森へ通っていました。
考えてみると、自領に鉱脈がなく森へ行くこともないメンダークスが廃鉱から魔導金属を見つけ出したこと自体が不思議なことでした。
私の持参金として、あの廃鉱を求めたのも彼自身でした。
……考えても仕方のないことですね。もうメンダークスと会うことはありません。
私はエラフィスに前回の記憶について話すことにしました。
このまま周囲に流されて結婚するのは嫌だったのです。彼が好きだから、大好きだからこそ、こんな私が彼の妻になってはいけないと思ったのです。
おとぎ話のように莫迦げた物語を聞き終わって、エラフィスは言いました。
「それは本当に起こったことなのでしょうか? ディミトゥラ様を疑うわけではありませんが、時間が戻ったのではなく予知夢だったのではないのですか?」
「予知夢……?」
「今はおこなっていませんが、遠い昔呪木様の神官は幻覚作用のある植物を煎じて飲むことで未来を予知していました」
「……」
実は、カラマンリス子爵メンダークスの母親はエラフィスや彼の母親と同じ呪木の信者でした。
呪木の信者が植物に詳しいことは知られています。
そのためメンダークスの母親が中毒性のある麻薬植物を先代子爵に飲ませて、意のままに操ったのではないかという噂が流れたのです。実際にはそんなことはなかったし、その噂によって被害を受けたのはメンダークスの母親ではなく、罪のない呪木の信者達でした。
エラフィスの母親が死んだのは、自殺だったのではないかと言われています。
呪木の神官である自分の存在が夫や息子を苦しめていると思ったのかもしれません。
それでもエラフィスは母親を継いで呪木の神官になりましたし、彼の植物知識はヤノプロス侯爵家に大きな恵みを与えてくれています。メンダークスの母親の真実はわかりませんが、どんな知識も使う人間次第なのです。
ここは侯爵邸の中庭です。
結婚するのではないかと見做されていても、未婚の男女がふたりきりで話をするのには問題があるので、声は届かないけれど姿が見える程度の位置に侍女がいます。館の窓から家族にも見下ろされているような気がしますが、それには気づかなかったことにしておきます。
私の沈黙を誤解したのか、エラフィスは悲しげに微笑みました。
「こんなことをしていたから呪木様の信者は気持ち悪がられているのですよね」
「いいえ、気持ち悪くなどないわ。呪木の神官であるエラフィスのおかげで、私は助かっているのですもの。貴方の匂い袋やお茶がなかったら、この記憶に押し潰されて心を病んでいたかもしれないわ」
「俺がディミトゥラ様のお役に立てていたのなら光栄です。……その記憶はいずれ産まれてくるであろうケラト様が、母君のディミトゥラ様に見せた予知夢ではないかと俺は思います」
「ケラトが?」
「はい。ディミトゥラ様がカラマンリス子爵と結婚して、彼を父親として生まれたら不幸になってしまう。そう察したケラト様がディミトゥラ様に見せたのでしょう」
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