15 / 41
捻挫。
しおりを挟む雄大さんの姿を見た瞬間、新隊員さんは立ち上がった。
背筋をシュッと伸ばして敬礼をしてる。
さっきまでの姿からの変わり様に・・・私は吹きだしながら笑ってしまった。
雪華「あははっ。」
圭「?」
雄大「どうした?」
雪華「急に背筋がビシッて伸びたから面白くてっ。」
圭「---っ!」
雄大「面白いって・・・ほら、肉のおかわりは?」
雄大さんの手にはお皿があった。
お皿にはてんこ盛りのお肉がある。
雪華「私はもう大丈夫だよ。歓迎会なんだし、みなさんでどうぞ?」
雄大「そう?」
雪華「あ、川のほうに行ってきてもいい?こっちはあんまり来たことないけど上の方見てみたい。」
カフェの仕事が終わったら家に帰ってくる。
休みの日は春樹とデートか、新しいレシピを作るために家で料理を作りまくってるからこの辺近辺のことはあまり知らないのだ。
雄大「いいけど・・川に落ちるなよ?」
雪華「そこまで鈍くさくないよ!」
雄大「ま、落ちても全員が助けに行くけど(笑)」
雪華「じゃあ安心して落ちれるね!」
雄大「だから落ちちゃダメなんだってば・・・。」
雪華「ふふっ。」
私は新隊員さんに話をしてくれたお礼をいい、河原を歩き始めた。
大きい石がごろごろと転がっていて歩きにくいけど、水が流れる音には心が躍った。
済んだ水がちゃぷちゃぷと音を立てながら流れていて・・・癒される。
雪華「きれいー・・・あ、木陰がある。」
ふと見上げれば大きな木がせり出してるのが見えた。
葉が影を作ってる。
雪華「ちょっと座ろっかなー。」
昼間は日差しが強い。
水辺の風は涼しいから・・・木陰に座ると気持ちイイこと間違いなしだ。
私は木陰を目指して歩くことにし、足を踏み出した。
雪華「ちょ・・・この辺、大きい石ばっかり・・・」
上流に近づいているからか、河原に転がってる石が大きいものになっていく。
気をつけながら歩いて行くものの、踏みしめる石が自分の足よりも大きくなっていき、重心が定まらない。
雪華「よっ・・・ほっ・・・」
上手くバランスを取りながら歩いて行くものの、ふとした拍子に足を滑らせて・・・左の足首が一瞬、おかしな方向を向いた。
ぐきっ・・・!
雪華「あいたっ・・・!」
無事なほうの足で片足立ちをする。
そーっと足を下ろして体重をかけると・・・足首に電流が走ったみたいな痛みが襲った。
どうも足首をやっちゃったらしい。
雪華「痛い・・・。」
とりあえず木陰まで行こうと思い、足を進める。
ひょこひょこと歩きながら両手でバランスを取り、なんとか木陰にたどり着いた。
大きな石に腰かけて、足首を見つめる。
雪華「見るの怖いけど・・・見たほうがいいよね・・・。」
ドキドキしながら靴を脱ぎ、くつしたを脱いだ。
雪華「あー・・・これはヤバい・・・?」
青くなってるのがわかる足首。
痛みから考えたら捻ったことは間違いなさそうだ。
雪華「わー・・呼ばれておきながらケガとか・・・雄大さんには言えないや・・。」
私は脱いだ靴下を履き、靴を履いた。
足の痛みを忘れようと、木陰から川を見つめる。
少し下流を見れば、雄大さんたち消防署員さんたちが集まってるのが見えた。
雪華「みんな仲がいいとか・・・素敵だなー・・・。」
カフェの従業員は人数が少ない。
加えて入れ替わりの業務だから・・・顔を合わせる時間が少ない人の方が多い。
だからこんな大人数とか・・・羨ましい。
雪華「あ、雄大さんがこっちに向かって来てる。」
私に向かって足を進める人が一人。
良く知った背格好の人は・・・雄大さんだ。
雪華「どうしたんだろ。もう片づけの時間かな。」
私に向かって駆けてくる雄大さんを、座ったまま見ていた。
彼は大きい石を避けながら、ひょいひょいと走ってきた。
雄大「せーつかっ。」
雪華「ふふ。もう片付け?」
雄大「うん。迎えに来た。」
『迎えに来た』と言われて一瞬言葉が詰まった。
来てくれたことは嬉しいけど、足をケガしてしまってる。
この状態で立ち上がると・・・雄大さんたちに迷惑をかけてしまうことは確実だ。
雪華「わ・・たし、もうちょっと休んでたいんだけど・・いい?」
雄大「いいけど・・・なんかあった?」
雪華「涼しくて気持ちいいから・・・。」
そよそよと吹く風に、私は自分の髪の毛を耳に引っ掛けた。
雄大「・・・今日、このあと家に帰るだけ?」
雪華「え?・・・うん。そうだけど?」
雄大「雪華って・・・すごく美人だよね。」
雪華「えぇ?そんなことないよ。」
雄大「いいや、そんなことある。」
雄大さんは私の前に屈み、じーっと顔を覗き込んできた。
雄大「かわいいのか・・美人なのかはその時々によって変わる。今、髪の毛を引っかけたのは・・・すごく艶っぽかった。」
雪華「~~~~っ!」
雄大さんの両手が伸びてきて、私の両頬を捕らえる。
それは・・・キスの合図だ。
何度も・・・何度も何度もしてきたことだからわかる。
雄大「ほんとはここで食べちゃいたいけど・・・これで我慢するよ。」
そう言って私は唇を塞がれた。
雪華「んっ・・・。」
雄大「ほら、今は『かわいい』。」
雪華「もうっ・・・!」
雄大「ははっ。そこそこで戻ってきなよ?片づけしてるから。」
雪華「うん、ありがとう。」
雄大さんは軽く手を振りながら戻って行き、私はそれを見つめていた。
雄大さんに愛されてることがひしひしと伝わってくることが・・・この上なく幸せだ。
雪華「このまま・・・雄大さんと結婚とか・・・するのかな。」
そんなことを考えながら川を見つめてると、いつの間にか時間は過ぎていき、バーベキューをしていたところの人数が少なくなってることに気がついた。
片づけが終盤のようだ。
雪華「そろそろ戻んないとね。」
痛む足を庇いながら立ち上がる。
一歩踏み出すと相変わらず激痛が走るけど、歩けないことはなさそうだった。
雪華「河原だから変な歩き方してても怪しまれないし・・・ちょうどよかったかも。」
ひょこひょこと石を避けるようにして歩いて行く。
足のケガがバレないように、地面ばっかり見ながら歩いて行くといつの間にか結構な距離を歩いてるもので・・・
気がつくと目の前に雄大さんが立っていた。
雪華「わっ・・・!」
雄大「ほい、キャッチ。」
私の身体をぎゅっと抱きしめた雄大さん。
驚いてすぐに離れようと思ったけど、足に力を入れることができない私は抱きしめられるがままだ。
雄大「おかえり、雪華。」
雪華「た・・ただいま・・。離してくれる?」
そう聞くと雄大さんは残念そうな顔をしながら私の身体を解放してくれた。
それと引き換えに・・・他の署員さんたちが私たちを冷やかし始めた。
「おー?らっぶらぶだな(笑)」
雪華「!?」
「どう見ても雄大が惚れてるな(笑)」
雪華「!?!?」
「せっちゃん、苦労するねぇ(笑)」
雪華「~~~っ!?」
顔が赤くなっていく私を、雄大さんがクスクス笑いながら見てる。
雄大「ほら雪華。」
雄大さんは私のバスケットを手に持っていた。
雪華「?」
雄大「ごちそうさま。全部なくなったけど・・・どうする?入れ物、署のキッチンで洗う?」
雪華「・・・全部無くなったの!?一升炊いたんだよ!?」
朝から炊いたお米は全部で十合・・・つまり一升だ。
おにぎりの数も相当な数になった。
それが全部無くなったなんて・・・信じられなかった。
雄大「美味かった。ありがとな。」
雄大さんの言葉を聞いた他の署員さんたちが続く。
「わざわざ持って来てくれてありがとな、せっちゃん。」
「めっちゃ美味かったよー!」
「雄大なんかやめて俺と付き合わない?」
不穏な言葉も若干聞こえたけど、みんなが喜んでくれたようでほっと胸を撫でおろした。
雪華「喜んでもらえたなら・・・よかったです。」
雄大「ほんとありがと。で、署で洗って帰る?」
できれば洗って帰りたいところだ。
でも痛む足で消防署の中に入って洗うことは不可能。
雪華「・・・ううん、家で洗うよ。ありがとう。」
そう言って雄大さんからバスケットを受け取った。
その時、足に力が入り・・・激痛が走った。
雪華「いぃっ・・!」
雄大「?・・・どうした?」
雪華「ううんっ、なんでもないっ・・。」
私は受け取ったバスケットを石の上に置いた。
もう片づけも終わりで・・・みんな撤収していく姿が見える。
雄大「雪華、送っていきたいんだけど・・・ちょっと引き継ぎがあってさ・・・。」
雪華「あ、そうなの?私、もうちょっと川を見てから帰るね?」
雄大「ん。気をつけてな。」
荷物を持って撤収していく署員さんと雄大さんを見送り、私はまた地面に座り込んだ。
さっきよりも痛みが増してる気がする足を・・・恐る恐る見る。
雪華「どうしよう・・・脱いだほうがいいかな。」
靴を脱ぎ、靴下を脱ぐと・・青紫になった足首が目に入った。
右足と比べてみるけど・・・腫れてることは瞬時にわかるくらい差がある。
雪華「うわー・・・。帰れるかな。」
腫れが少しでも引くように足首を擦る。
何度もそっと触ってると・・・私の後ろから声が聞こえた。
雄大「・・・・雪華?」
75
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる