「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾

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第3話 辺境の荒野 〜呪われた土地への到着〜

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第3話 辺境の荒野 ~呪われた土地への到着~

馬車の車輪が、乾いた大地を軋ませながら進む。  
王都から丸一日以上かけて到着したのは、ルミナス領の入り口。  
かつては豊かな森と湖に恵まれた土地だったというが、今は違う。  
空は灰色に曇り、風は枯れた草の匂いを運んでくる。  
木々は黒く枯れ、地面には不気味な紫色の霧が薄く立ち込めていた。

馬車を降りたアリシア・ルナミアは、ゆっくりと周囲を見回した。  
白いドレスは埃にまみれ、銀糸の刺繍がくすんでいた。  
それでも、彼女の瞳は澄んでいた。

「ここが……私の新しい家」

荷物を下ろした御者が、恐る恐る声をかけた。

「アリシア様……本当に、ここでよろしいのですか?  
この土地は、魔物の呪いで人が住めないと……」

アリシアは静かに微笑んだ。

「ありがとう。でも、大丈夫よ。  
私はここに来ることを選んだの」

御者は頭を下げ、馬車を引いて去っていった。  
残されたアリシアは、荒れた道を歩き始めた。  
足元に散らばる枯葉が、乾いた音を立てる。

少し進むと、小さな村が見えてきた。  
木造の家々は半壊し、屋根は崩れ落ちている。  
村人たちは、道端に座り込んでいた。  
子供たちは痩せ細り、大人たちは咳き込み、肌は青白い。  
誰もが、紫色の霧に覆われたように、苦しそうだった。

一人の老婆が、アリシアに気づいて立ち上がった。  
杖をつきながら、震える声で言った。

「貴女は……王都から来た聖女様か?」

アリシアは首を横に振った。

「いいえ。  
聖女ではありません。  
ただの追放された者です」

村人たちがざわめいた。  
老婆は、涙を浮かべて続けた。

「それでも……お願いです。  
この土地は、10年前に魔物が現れてから呪われました。  
作物は枯れ、子供たちは病に苦しみ……  
癒しの聖女様が来てくれれば、きっと……」

アリシアは、静かに村の中心へ歩いた。  
村人たちが、彼女の後ろについてくる。  
中央に、古い井戸があった。  
周囲の地面は、紫色の結晶がびっしりと生え、まるで呪いの象徴のようだった。

アリシアは、そっと膝をつき、手を井戸の縁に置いた。  
心臓の奥で、何かが疼く。  
それは、抑え込まれていた「呪い解き」の力。  
今、静かに呼び覚まされる。

「この呪いは……古いものね」

彼女は目を閉じ、深く息を吸った。  
紫色の霧が、アリシアの周囲に集まり始めた。  
村人たちは息を呑む。

「アリシア様……危ない!」

誰かが叫んだが、アリシアは動かなかった。  
霧が彼女の体に触れる瞬間――  
アリシアの掌から、淡い銀色の光が溢れた。

光は霧を吸い込み、紫色の結晶を溶かしていく。  
井戸の底から、黒い影のようなものが浮かび上がり、アリシアの手に吸い込まれていく。  
それは、呪いの本体。  
10年前に魔物が残した、強力な「腐敗の呪い」。

アリシアは、静かに呟いた。

「解け……」

銀色の光が爆発的に広がり、村全体を包んだ。  
紫色の霧が一瞬で消え、枯れた木々がわずかに芽吹き始めた。  
村人たちの肌色が、少しずつ戻る。

沈黙が広がった後、誰かが泣き出した。

「奇跡だ……!」

老婆が、アリシアの足元に跪いた。

「ありがとうございます……聖女様!」

アリシアは首を振った。

「私は聖女ではありません。  
ただ、呪いを解くことができるだけです」

村人たちは、信じられないという顔でアリシアを見た。  
子供の一人が、恐る恐る手を伸ばし、アリシアのドレスの裾に触れた。

「本当に……痛くなくなったよ」

アリシアは、優しくその子の頭を撫でた。

「よかった。  
これで、少しは楽になるわね」

村人たちは、次々とアリシアに感謝の言葉をかけ始めた。  
「ありがとうございます」「神様が遣わした人だ」「ここにいてください」  
アリシアは、静かに微笑んだ。

「私は、ここに住むことにします。  
この土地を、元に戻す手伝いをさせてください」

村人たちは、歓声を上げた。  
誰かが、崩れた家の一角を指差した。

「アリシア様、まずはあの家に!  
一番ましな部屋があります!」

アリシアは頷き、村人たちに導かれて歩き出した。  
背後で、風が枯葉を舞わせる。  
空はまだ灰色だが、少しだけ明るくなった気がした。

その夜、アリシアは簡素なベッドに横たわり、天井を見つめた。  
手には、まだ銀色の光の余韻が残っていた。

『……これが、私の本当の力。  
誰も信じてくれなかったけれど、  
ここでは、証明できる』

遠く、王都では。  
ヴァレンティン王太子が、フィオナと酒を酌み交わしていた。

「アリシアは、もう二度と戻れない。  
これで、すべて完璧だ」

フィオナは、甘く微笑んだ。

「ええ……完璧ですわ」

だが、その時、窓の外から不穏な音が聞こえた。  
魔物の咆哮。  
王都近郊で、また新たな魔物が発生していた。

ヴァレンティンは眉をひそめた。

「フィオナ、お前の癒しの力で、すぐに退治してくれ」

フィオナは、優雅に頷いた。

「もちろんですわ」

しかし、心の中で、彼女は冷たく笑っていた。  
『アリシアがいなくなった今、私の力がすべて……』
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